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七話 決着・納得

第七話です。では、どうぞ。

 カナタとタイガがアリーナを挟んで対峙する。互いに互いを睨みつけ、相手の出方を窺っている。しばらく時が停止したように静かになる。


 先にその沈黙を破ったのは、タイガだった。一息でカナタとの距離を詰め、手にした鉤爪を振るう。完璧に直撃したと確信したタイガだったが、カナタがタイガの進路上に展開した血色の翼によって阻まれた。


「……いきなり魔洸を使いこなしやがるか」


「……なんとなく、全力を出せてるって感覚はないけどね」


 話しかけてきたタイガに答えつつも、気を抜かないようにするカナタ。その瞳を見て、タイガは納得した。以前見ていたよりも魔洸による瞳の紅い輝きが弱いのだ。ざっと見てみると、やはり全体的に魔洸の輝きが薄い。


「……記憶はなくしても、体は全盛期の頃のことを覚えてる……ってか」


「……そうみたいだ、ねっ!」


 少し顔をしかめたカナタは、感じた苛立ちをぶつけるかのように血色の翼を翻し、タイガを吹き飛ばすと同時に自身も後ろに跳び、タイガから距離をとる。またしばらく睨み合いの状態が続く。


 次に仕掛けたのはカナタだった。血色の翼を羽ばたかせ、爆発的な速度でタイガに迫る。


「はぁぁぁぁぁっ!!!」


「おいおい、攻撃方法が分からないからって体当たりかよ……っ!?」


 呆れたように呟いたタイガだったが、次に見えた光景にギクリとし、目を見開いた。カナタの掲げた右腕に、血色の光が収斂し、輝いたのだ。


(祓光っ……!? マジかよ!? 見た感じ錬度はかなり低いが、ヤベェ!!)


 迫ってくる速度的にかわすのは不可能だと判断したタイガは、両腕を自分の体の前でクロスさせ、防御の体勢を取る。


守光しゅこう!!」


 タイガが叫ぶと同時に両腕に血色の輝きが凝縮され、力強く輝いて血色の盾を形成した。その形成が完了した直後、カナタの右腕が直撃した。


「とりゃぁぁぁぁぁぁっ!!!」


「っ! ぐうぅ……!」


 カナタの腕とタイガの腕が激突した場所から、爆発的な魔洸の余波が撒き散らされる。


「うぅぅぅぅっ……!」


「……はぁっ!!」


「うわっ!?」


 しばらくは拮抗していたカナタとタイガだったが、慣れない力の放出によって集中を乱したカナタの隙を逃さず、タイガは力を溜め込んでいた両腕から魔洸を爆発させるように放出し、飛び掛かってきていたカナタを逆に吹き飛ばした。


「っ……たたた……」


「……ふっ!」


 吹き飛んだ勢いで壁に叩きつけられたカナタ目がけて、タイガが追い討ちをかけるために飛び出した。そしてカナタがまだ立ち直れていないうちにカナタの目の前までたどり着き、両腕の鉤爪をカナタの喉元に突きつけた。


「……終わりだ」


 そしてそのまま、突きつけた鉤爪でカナタの首を絞めようとした。


しかし。


『そこまでだ、タイガ!』


 春樹の声がスピーカーから流れ、こうして模擬戦は終了した。




「なんか……ミイラみたいなことに……」


「すまん、途中から手加減って言葉が頭から吹っ飛んでた……」


 戦闘訓練が終わり、全身傷だらけのカナタは医務室で治療を受けていたのだが、あまりにも広範囲にケガをしているために全身に包帯を巻かれ、包帯のオバケのような格好になってしまった。


「いや、まぁ……溜め込んで変にギスギスするよりは、最初から容赦なくぶつかってきてくれたほうがいいから……」


「……そう言ってくれると助かる」


 カナタの言葉を聞いて、タイガはホッとしたように表情を緩めた。そのときドアがノックされ、一人の少女が入ってきた。見覚えがあると思ったら、先ほどブースで見た内の一人だ。なんとなく気弱そうな雰囲気で、肩にかかるかどうかといった長さの茶色みがかった黒髪。まんまるの大きなめがねが特徴的な少女だ。


「ミチルか。どうした?」


「タイガくん……司令がブリーフィングルームまで来て欲しいって」


 そこまで言って少女はカナタが見ていることに気づき、わずかに微笑んでカナタに向き直った。


「あ……治療終わったんだね。カナタくん、大丈夫?」


「うん。塗ってもらった薬が効いてるみたいで、そこまで痛むということはないよ。……ところで、君は?」


 カナタが聞くと、少女はうっかりしていた、という表情を顔いっぱいに浮かべ、あわあわし始めた。


「あわわわっ。そうだった、しまった。ごめんね、名前知らないの忘れてた」


「おいミチル。落ち着け。カナタが唖然としてる」


 タイガの言ったとおり、カナタは口をポカンと開けて固まっていた。その様子を見た少女は、恥ずかしそうに俯き、呟いた。


「……ごめんなさい」


「ううん、気にしてないから……」


 しょんぼりしてしまった少女を見て、逆にカナタの方が慌ててしまった。その言葉を聞いて、少女は下げていた視線を上げた。カナタの慌てた様子を見て、少女はくすりと微笑した。


「ごめんね、慌てさせちゃって……。私は、ヒカリ ミチル。よろしくね、カナタくん」


「そっか。君たちは僕の名前知ってるんだよね。まぁ、改めて。僕はハルカ カナタ。よろしく、ヒカリさん」


「ミチルでいいよ。皆からもそう呼ばれてるし」


「じゃあ……よろしく、ミチルさん」


 カナタが言い直すとミチルは、それでいいよ、と言うように微笑した。と、話し続けている二人の様子をずっと見ていたタイガは、首を傾げてボソッと呟いた。


「……ミチル、何しに来たんだっけ?」




 ようやく話がひと段落し、カナタとタイガはミチルにつれられ、春樹が待っているというブースに向かっていた。そしてたどり着いたのは、先ほどカナタが全員と対面したブース。ミチルがドアを開けて中に入ると、春樹とノゾミが待っていた。


「よう、遅かったな。なんかあったのか?」


「……すみません……」


「いや、そんなに落ち込まんでも……」


 どよ~んと黒いオーラを漂わせて落ち込んでしまったミチルを見て、春樹はたじろぎ、ノゾミはキョトンと目を瞬き、カナタとタイガは苦笑した。


「まっ、まぁともかく。司令、俺に何か?」


「いや、カナタの様子はどうだか知りたかったんだが……大丈夫そうだな」


 自分の話のようだったので、カナタが返事をした。


「はい。薬が効いてるみたいで、もうケガの痛みは大したことありません」


「いや、ケガの程度もそうなんだが……って、なんか包帯のお化けみたいになってるな……」


「あ、それ僕も思いました。ミイラみたいだなとか…………って、そうじゃなくて。あの、僕に関してケガ以外に知りたいことって……?」


 カナタが聞くと、春樹は雰囲気を真剣なものに変え、話し始めた。


「魔洸のことだ。さっきの模擬戦で、お前は魔洸を使った。なら、自分の中に流れる魔洸の気配が分かるはずだ」


「そんな。気配って言われても……特に変わったことは何も……」


 カナタの戸惑ったような言葉を聞いて、逆に春樹とノゾミが首を傾げた。


「……おかしいな。なんでだ?魔洸の気配は強烈だから、気づかないはずはないんだが……」


「……もしかして」


 ノゾミが呟き、考えに集中するために下げていた視線を上げ、カナタに問いかけた。


「カナタくん、医務室でなにか注射されたりしなかった?」


「されたよ。なんか体の調子を整えるためにって……」


「…………そうか、魔洸調整剤か」


 呟き、春樹は頭を抱えた。その意味が分からなかったカナタだったが、ノゾミに耳元で教えられ、納得した。


「魔洸調整剤っていうのはね、名前のとおり体内の魔洸の調子を整える薬のこと。それを飲むと体内の魔洸の循環とか流れとかが良くなるんだけど、その副作用でしばらくの間自分の魔洸の気配を感じられなくなるの」


「……なるほど」


 その話をカナタが聞いている間に春樹は立ち直り、カナタに向き直った。


「……仕方ない。もう遅いし、今日はこれでお開きにしよう。カナタくん、家まで送らせる。また明日来てもらえるか?」


「はい、分かりました」


 こうして、その日はそれで解散となった。




 ノゾミとの待ち合わせ場所だった公園まで行きと同じ車で帰ってきたカナタ。次の日に、今度は昼間に会うことを約束し、ノゾミは車に乗って帰っていった。カナタも家に向かって歩きながら、今日知ったことについて考える。


(……以前の僕、絃神 隼人……)


 その人物は何らかの理由で帰ってこなくなった。


(……その日、その時、何があったんだろう……それだけでも、思い出せればいいんだけど……)


 しかしいくら考えても答えは出ず、カナタは考えるのをやめた。翌日に備えてすぐに休もうと決め、家への道を急ぎ始めた。

 いろいろと忙しくて、そしてここで切らないと区切りにくそうだったので、今回は少々短めです。次回も、ペースを乱さずに投稿できたらと思います。


 では、次でもお会いできることを願いまして。

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