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四話 不明事項

 第四話です。それでは、どうぞ。

 朝の光が差し込み、カナタの顔を照らす。眩しさに顔をしかめ、カナタは目を覚ます。カナタが寝ぼけながら時計を確認すると、起きなければならない時間よりは随分と早い。カナタは首をかしげ、考える。目覚ましが鳴るにはまだ早い時間だが……。


「……あ。……昨日帰ってきて、カーテン閉めないで寝ちゃったんだ……」


 自分のドジに頭をかいて、ベッドから出る。二度寝したら起きられないと思ったし、どの道このまま二度寝したとしても、大して睡眠が取れることなく終わるだろうと思ったからだ。それに何より。


「……おなかすいた……」


 からであった。




 カナタの家は二階建ての一軒家であり、彼の自室はその二階の奥にある。奥のドアから出てきたカナタは、欠伸を噛み殺しながら階下に降りる。その足でキッチンに向かい、コンロの上に乗せたままだったカレーを、コンロに火を入れて温める。今朝に炊けるよう昨夜のうちにセットしておいた炊飯器のふたを開け、皿に広げるようにして盛り付け、少し冷ます。カレーのために、少し水分を少なめにして炊いたとき特有のご飯の固さを確認しながら鍋に近づき、グツグツという音が聞こえるようになるまで温め、お玉で掻き回す。しばらくすると音がお玉を動かしているときでも間断なく聞こえるようになったので火を消し、皿に盛り付ける。


 皿を持ったままテレビのある部屋まで行き、テレビの電源がついたのを確認した後、食べ始める。しばらくニュース番組を探していると見つかったので、音量を上げて適当に聞きながら食べ進める。


実は、昨夜自分が巻き込まれたことについて、何か事件になっていないかと思ったのだ。あの時巻き込まれた―――もっともほとんど気絶していたが―――騒ぎによって、確かに足元のアスファルトや周囲のコンクリートなどが壊れていたはずだ。それについて、何かやっているかもしれない。


しかしカナタの希望に反して、昨日いた辺りについては事件があったどころか、触れられてさえいなかった。


「……そういえばあの時……」


 カナタはその時ふと、昨夜ノゾミと歩いていた時に感じた違和感のことを思い出した。しかしそれとこの状況に繋がりを見出すことができず、それ以上思考を前に進めることはできなかった。




ちょうど良い時間になったので、カナタは制服に着替え、家を出た。学校に向けて歩きながら、昨夜出会った少女について考え込む。


(どうしてあんなに悲しそうだったんだろう……)


 公園で見たときも、自分と話しているときも、終始彼女は悲しそうだったし、泣いていた。しかも、


(……僕と会ってからは特に……)


 そう。カナタが話しかけるたび、彼女は悲しそうに俯き、言葉を返す。まるで、今の自分と話すことが苦痛であるかのように。しかし、カナタには彼女が自分にそのような反応を返す理由がわからなかった。


(嫌われるような行動をとった覚えもないし……う~ん……)


 そして、もう一つ。カナタが気絶から覚めた時、彼女が自分に向かって読んだ名前。


 (……隼人、か……)


 昨夜ノゾミが言っていた“帰ってこない大切な人”というのは、おそらくその“隼人”という人物。名前からしておそらく男性だろう。しかし、その名前を彼女は、カナタに向けて使った。


(……なんでだろ……)


 自分の記憶をさらってみたが、カナタの知り合いに隼人という人物はいないし、しかも自分に使ったということは、カナタ自身がその“隼人”という人物に似ている、ということだろうか?


(……考えるのやめよ)


 結局、いくら考えても憶測が膨らむばかりで答えが出るようなことはなさそうだったので、カナタは考えることを放棄した。どうせ週末に会うのだから、その時にいろいろと聞いたら良いだろう。




 学校についたので教室へ向かい、自分の席に座る。ざっと見渡してみたが、裕人はまだ来ていない。今日は考え事をしながら歩いていたせいかいつもよりも歩く速度が遅かったようで、授業開始まであと5分ほどだ。それでまだ来ていないということは……


(今日も遅刻だね)




「ぜぇ……ぜぇ……」


「……もう間に合ったんだから落ち着いて息整えなよ」


 結局、裕人は遅刻せずに済んだ。チャイムが鳴る数十秒前にぎりぎり教室に滑り込み、事無きを得た。


「マジ危なかった……。……今日に限って……飛び出しだの……信号無視だの……出まくりやがって……」


「……それはまた……無事でよかったね」


「おぅ……」


 そんな会話が、ホームルームの間になされていたのだった。




 午前中の授業が終わり、昼休み。カナタの通う学校には食堂があるため、昼食はいつもそこで裕人と一緒に済ませている。


「さって、今日はどこが空いてっかな……っと、窓際が空いてるな」


「よし、じゃあ席取っておいてよ。僕が買ってくるから」


「お、サンキュー。俺、生姜焼き定食な」


「りょ~かい」


 分かれて、カナタは食券を買いに向かった。裕人の分は生姜焼き定食を買い、自分の分は少し迷った末、かき揚げうどんを購入した。カウンターで二人分の食事をもらい、席に向かって歩き出した。




 席に着くと、裕人は携帯を開いて何やら見ていた。


「はい、買ってきたよ」


「おぅ、サンキュー。ほい、金」


 裕人が差し出してきた食券代を受け取り、財布に入れる。裕人も携帯をしまったので、カナタも座って割り箸を割り、食べ始める。


「さっきニュースでさぁ……」


 と裕人が話し始めたので、そちらに意識を向ける。


「なに? さっき携帯で見てたやつ?」


「そ。なんでも、最近原因不明の行方不明者が続出してるんだと」


「……行方不明者?」


 なにか気になったので、カナタはふと箸を動かす手を止めた。


 「あぁ。何の痕跡も残さず、きれいサッパリ消えちまうんだと。被害者……って言っていいのか分からんが、その連中に共通点もなし。失踪した理由も不明、だとさ」


「……謎の失踪者、か……」


 その言葉を聞いて、カナタにはふと思い浮かんだ言葉があった。


“あれは、妖獣ようじゅう。人を無差別に襲う獰猛な魔物よ。”


 人を無差別に襲う魔物。ノゾミはそう言っていた。もしやあれが、謎の行方不明者増加の原因…………


「……おい、カナタ? どうした?」


「え?……あ、いや、なんでもない」


 いつの間にか考え込んでしまっていたようで、食事の手が止まっていた。裕人が怪訝そうな顔でこちらを見ている。


「そうか?ならいいけど」


 特に怪しまれたということはなかったようで、カナタはホッとした。




 それから特に何か起きるという事もなく、早くもノゾミとの約束の日の夜になった。カナタは約束の二十分ほど前に公園に到着し、あの日ノゾミがいたブランコに座って彼女を待っていた。


「お待たせ」


 月を眺めながらぼんやりしていると、さほど時間をおかずにノゾミが現れた。


「ううん、そこまで待ってないよ。……それで、これからどうするの?」


「連れて行きたいところがあるの。ついてきて」


 そう言って、ノゾミは公園の出口に向かって歩き出した。カナタがブランコから降りてノゾミについて公園から出ると、一台の車が待っていた。真っ黒いカラーリングの一般車で、夜の闇に見事に溶け込んでいる。


「乗って」


「う、うん……」


 正直、見た目と雰囲気の不気味さに引いていたカナタだったが、ノゾミに声をかけられて我に返り、慌てて車に乗り込んだ。程無くして車は発車し、夜の町へと進んでいった。




「ここで降りるよ」


 しばらく車で走り続けた後、車は雑多に建物が立ち並ぶ区画までやってきた。ノゾミが先導し、カナタがそれについていく形で、二人はしばしの間無言で歩いた。




「……ここ?」


 やがて辿り着いた建物を見て、カナタは思わず呟いてしまった。そこは、外装が悉く剥げ、朽ち果てた、廃墟と表現して構わない建物だった。


「そう、ここが目的地。足元暗いから、転ばないように気をつけて」


「うん、わかった」


 カナタはノゾミについて、建物の中に入っていった。




 建物の中は、外から見た印象よりはいくらかまともだった。中には瓦礫が散乱していたが、照明がある程度生きていたからだ。ノゾミは建物内の扉の一つに入って行き、カナタは彼女を追って同じ扉の中に入って行った。


 扉の向こう側にはエレベーターがあり、ノゾミはそれに乗り込んでいた。カナタはそれを見て、同じエレベーターに乗り込んだ。そこまで大きなエレベーターではなく、四人も乗ればいっぱいになってしまいそうだ。階層表示を見る限り、どうやら上にのみ階層は存在するらしい。乗った場所とは別に車椅子用の階層指定ボタンがあり、乗り口の反対側には大きな鏡が設置されていた。しかし、ドアが閉まってもどの階に行くかのボタンをノゾミが押さないので、カナタは不思議に思ってノゾミに問いかけた。


「? ボタン押さないの?」


「うん。そうやって入るような場所じゃないんだ。……鏡の前、空けてくれる?」


 カナタが場所を空けると、ノゾミは鏡の前に立ち、全身が映るように立った。左手で階層表示の“一階”の部分に触れ、言葉を発した。


「コードネーム・“アスノ ノゾミ”。パスワード……」


 そうしてノゾミは、複雑な数字とアルファベットの羅列を発声した。カナタが、ノゾミは何をしているのだろうかと不思議に思った瞬間、突然エレベーターが動き出した。しかしそれは、上にではない。


 “下”に、だ。


「!?」


 カナタは驚いたが、ノゾミは平然としている。そして目的の階層につき、扉が開いた。


「アスノさん……ここは一体……?」


「ここは……」


「ここは、俺たちのアジトだ」


 ノゾミがカナタの問いに答えようとした瞬間、別の声が答えた。カナタがそちらのほうを見ると、背の高い男性がいた。髪の毛を短く刈り込み、両目は鷹のように鋭く細められている。しかし、その一見恐ろしそうな外見とは裏腹に、気さくな口調で男性は再び口を開いた。


「おかえり……いや、“はじめまして”、なのかな?ハルカ カナタ君」


「はぁ……」


 突然目の前に現れた人物に、カナタは曖昧な返事を返すことしかできなかった。


 はい、第四話でございました。さて、カナタくんと隼人くんの関係とは何なのか。頑張って描写していきたいと思います。


 ……と、書いたはいいのですが、実は諸事情ありストックがなくなってしまいました。もしかしたら投稿ペースが落ちるかもしれませんごめんなさい……。


 こんな作者の作品ですが、どうか次話も待っていただけたら幸いです。


 では、次でもお会いできることを願いまして。

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