番外 聖夜殲士
はい、番外編のクリスマス話です! お楽しみいただければ幸いです。
では、どうぞ!
12月24日。クリスマスムードで世間が明るく沸き立つ一方、カナタは終業式を終えて、裕人、直子と共に帰り道を歩いていた。
「ったく、お約束とはいえ長ったらしいんだよ、校長の挨拶……」
「まぁいいじゃないか、恒例行事だと思えばそんなに辛いものでもないよ?」
「確かにね。……僕としては、その後の冬休みの宿題の受け渡しの方が嫌だったよ。たった二週間なんだから、宿題なんか出さなくたって……」
真面目なカナタにしては珍しい発言だが、聞いていた二人も深く頷いている。どんなに真面目な人間であっても、やはり学生にとっての宿題というのは無条件で嫌なものなのだ。
「なんといっても、一番面倒くさいのは書初めだよね。まずは字を一個一個練習しないと上手くかけないし、本番用の半紙は数枚しかもらえないし……」
「レイアウト考えないと字のサイズおかしくなるかんな。大きすぎたら入りきんねぇし、小さすぎるとバランスおかしくなるし。……春日は? やっぱ苦手か?」
「私は……そうでもないかな。小さいころに祖母が色々と仕込んでくれたおかげで、習字は割と得意なんだよ。だから大抵書初めは一発書きで済むのさ」
「「なんて羨ましい!」」
カナタと共に文化祭を回った時にも片鱗はあったが、意外と和風女子な直子。しかしそのギャップに驚くよりも先に、まず羨ましがってしまった男二人であった。
「叶、今日予定あるの?」
「今日もバイトよ。日曜祝日も関係ない仕事だから」
「……前から思ってたけど、どんなバイトしてるのよ?」
「秘密」
「けち」
叶と樹理は、終業式が終わった後に寄り道してファーストフード店にいた。外の寒さにも関わらずバニラシェイクをすすりながらむくれる樹理に、叶はホットコーヒーを飲みながら苦笑していた。
「別にいいじゃない、なんだって」
「だって……いっつも昼間しか遊べないから……たまには一緒にイルミネーションでも見に行こうと思ったのに……」
「行きたくはあるんだけどね。代わりのいない仕事だから、穴開けるわけにいかないのよ」
「ちぇー……どうせ年末年始も夜はだめなんでしょ?」
「うん。昼にまた初詣行こうね」
はぁ、とため息を吐きつつも頷く樹理に、やっぱり優しいなー、と思う叶。その後は初詣に何を着ていくか、といった話題で盛り上がり、暗くなる寸前まで叶は樹理と談笑していた。
その頃彰は。
「……兄ちゃん、ちゃんと噛んでる? 食べるの速すぎない?」
「……んぐ。大丈夫だ、俺は飲むのも速いが、噛むのも超速いんだぜ」
「兄ちゃんの顎ってどうなってんのさ……」
夜の仕事に備え、家族よりも先にクリスマスのチキンをものすごいスピードでがっついていた。それを呆れたように見つめる妹、栞。家から二人の声しか聞こえないところを見ると、どうやら両親はまだ帰ってきていないようだ。
「それにしても、クリスマスも休みなしってキツイね」
「ま、しょーがねぇけどな。でも俺はどっちかっつーと、クリスマスより年越しを外で過ごす方が悲しいぜ。……いや、思い出した。それ以前にこの時期は、一般人に見つからないように気を付けねぇといけないんだった……」
「確かにね。あんなもん持ってんだから気をつけなよ、不審者に見られないように」
「……だな。起動しなきゃ武器だとわからないとはいえ、問い詰められたら面倒だからな……」
「そうだよ、ただでさえ兄ちゃんって実際そうでもないのに不良っぽく見られがちなんだから」
「……お前な」
余計なことを言う妹に憮然としつつも、その栞のおかげで武具について注意しなければならないことを思い出した彰はそれを心に留めようと決意しつつ、さらにチキンを頬張った。
そして麗は四人の中で唯一、一人で歩いていた。友人たちは皆カラオケに行くと言っていたので、長くなると付き合っているうちに日の短いこの時期だと夜になってしまう可能性が高いと思ったからだ。
(クリスマス、か……夜に毎日出歩いてる私たちは、サンタクロースにとっては悪い子の部類に入るのかな……でも、その時間に働いてるわけだし、大目に見てくれても……)
「おーい」
などと、とりとめもないことをつらつら考えながら歩く麗だったが、ふと後ろから誰かに呼ばれた気がして振り向くと、そこにいたのは。
「あれ、カナタくん。今帰り?」
「うん。さっきまで友達と一緒だったんだけど、すぐそこが分かれ道だったから」
いつぞやとは逆にカナタに見つけられ、すぐそこで別れることにはなるが一緒に帰ることにした二人は並んで歩き始めた。
「それにしても、クリスマスイブって感じが一切ないよね。いつも夜起きてるから、感慨も何もあったもんじゃないよ」
「あはは、確かにそうかも。いろんな家にイルミネーションは飾られてるけど、それは見るだけだしね。でも私の家、クリスマスにはお母さんがチキンとかターキーレッグを焼いてくれるから、それを食べるとクリスマス、って感じがするよ」
「へー。僕もそういうの明日買おうかな……チキンって、足?」
「うぅん、丸ごと」
「丸ごと!?」
麗の母親の大胆な料理に驚いたカナタだったが、麗はあっさりと頷いてさらに詳しく話してくれた。
「そう。お母さん、結構料理好きでね。生の丸鶏を買ってきて、塩コショウとハーブを揉み込んで、中にマッシュポテト詰めて、グリルで焼いてくれるの。市販のタレがついてるやつもおいしいけど、お母さんが作った方は塩味だけでおいしいんだ」
「すっご……今度僕もやってみようかな……ちなみに、ケーキは?」
「スポンジはお母さんと一緒に作るけど、デコレーションは私の仕事。あんまり飾りつけとか得意じゃないから、お母さん……」
と、ミチルが話してくれたところで分かれ道に着き、続きはまた後で、と言って2人は別れた。家に帰る途中、カナタは一人で歩きながらふと思った。
(いいなぁ……家族がいるって……)
両親が死別したが故の感情。誰に言うこともないためにほとんど忘れていたが、ふとした瞬間に一人きりの寂しさを思い出してしまったカナタであった。
そして夜。いつも通りのペアに分かれて見回りを開始したカナタたちだったが、いつもとは違う苦労を味わっていた。それは……
「あれ? 麗。どうしたのよこんな時間に? 家の用事、大丈夫だったの?」
「え、あ、う、うん! 用事は終わったんだけど、ちょっと買い物を頼まれて……」
「あ、そうなの? じゃあ一人じゃ危ないかもだし一緒に……」
「いや、あの、えっと……!」
そう、一般人との遭遇である。いつもならこの日付が変わろうかという時間帯ならほとんど人通りもないため心配する必要はないのだが、今日はクリスマスイブ。当然ながらいつもより人通りが多く、しかもミチルは運悪く友達に出くわしてしまったのだ。間一髪こちらが向こうよりも早く気付けたため、怪しまれるであろう武具をカナタに預けて隠れてもらうことはできたのだが。
「じゃ、またねー」
「うん。バイバイ」
どうにか誤魔化して言いくるめることに成功し、ミチルは去っていく友人に手を振る。が、友人が角を曲がって見えなくなった瞬間、ミチルは肩を落として脱力してしまった。
「……はぁ! び、びっくりしたぁ……! ……カナタくん、もう出てきて大丈夫だよ。ごめんね」
「いや、しょうがないよ。イブなんだし……」
はい、と言ってカナタは武具をミチルに返し、ミチルは礼を言って肩紐をかけ、ため息を吐いた。
「まさか友達に会っちゃうなんて……」
「先に気付けてよかったよ。……いや、他人事みたいに言ってる場合じゃないな。短剣だから武具を隠す必要がないとはいえ、僕も気を付けないと……」
と、カナタも気を引き締める。そして、二人は見回りを再開……しようとした矢先。
「っ!? ミチルさん、隠れて!」
「えっ!? は、はいっ!!」
角から出てきた人物をチラッと見た瞬間、カナタは咄嗟にミチルの手を引いて電柱の陰に隠れた。息を殺してじっとしているとやがてその角から靴音が近づいてきて、カナタ達の隠れる電柱の横を通って行ったのは……なぜかスーツを着ている直子だった。しばらくの間息を殺してじっとしていたカナタだったが、直子の背中が見えなくなってようやく体の力を抜いた。
「……ふぅ、やれやれ。見つからずに済んだか……」
「……そうだね…………あ、あの、カナタくん? そ、そろそろ離してくれるかな?」
「……え?」
直子に見つからないようにすることに精いっぱいだったカナタは、そう言われて初めて、自分が隠れ始めてからずっとミチルの手を握ったままだったことに気付き、慌てて離した。ミチルはよほど恥ずかしかったのか、握られていた手をさすりながら顔を真っ赤にしている。
「ご、ご、ごめん! わ、わざとじゃないんだけど、気付かなくって……!」
「う、ううん。わざとじゃないのは分かってるから、大丈夫……」
「そ、そっか……」
としかカナタは言うことができず、二人の間に微妙な空気が流れた。数分が過ぎて、その空気をどうしたものかとカナタが途方に暮れ始めたころ、意外にもミチルが話しかけてきた。
「……と、ところで、今の女子って誰? スーツ着てたから、同級生じゃないよね?」
「え、あ……うーんと、ね……」
ミチルに聞かれたものの、よく考えるとスーツを着ていたということはバイト終わりだったのだろうと思ったカナタは、直子と秘密にしておくという約束をしたため教えてもいいものかと口ごもる。少し迷って、とりあえず教えられないということだけでも言おうと決めたカナタは、申し訳なさそうにしつつも言った。
「ごめん、話さないって約束なんだ」
「そっか……仲いいんだね……」
「ん? なに?」
「う、ううん! なんでもない! ……さ、見回りの続きに行こ!」
「? う、うん」
カナタの台詞を聞いて若干不機嫌そうに何かを呟いたミチルだったがカナタには聞こえず、聞き返しても教えてくれずにミチルはさっさと先に歩き始めてしまった。カナタは何か悪いことを言っただろうかと首を傾げつつ、ミチルの後を追った。
さて、この後も一般人を掻い潜りつつ見回りを続けるうちに日付を跨ぎ、さらに時間は過ぎて……周囲の気配にはいつも以上に警戒しつつも、その合間にイルミネーションを楽しんだりして見回りを続けていると、東の空が白み始めた。それを見て、ミチルがホッとしたように言った。
「うん、この時間になったらもう大丈夫かな。じゃ、タイガくんたちと合流しようか」
「了解」
頷き、歩き出す2人。いつもの待ち合わせ場所に到着すると、既にタイガとノゾミはやってきて待っていた。
「おう、お疲れさん。その様子だと、出なかったみたいだな」
「まぁね。そっちも大丈夫だったみたいで安心だよ」
と、互いの安全確認を完了。普段ならここで解散となるのだが……今日は珍しく、タイガがこんな提案をしてきた。
「あのさ、さっきノゾミとは話してたんだけど……せっかくのクリスマスにこのまま帰るのもなんか芸がねぇし、この流れで俺らだけでクリスマスパーティーみたいなのやらね? できればカナタん家でさ。ちょうどよく学校も休みになったことだしよ」
「「え……」」
突然の話に驚くカナタとミチルに、ノゾミは頷いてさらに続ける。
「タイガにしては良い提案だと思うわよ。ちょっと歩けばスーパーもちょうどよくあることだし。確かカナタって一人暮らしでしょ、どう?」
タイガにしては、という言葉が引っかかったらしいタイガがノゾミに抗議していたが、それはさておき……どうしたものか、と顔を見合わせたカナタとミチルは、やがて楽しそうだと思っているのがお互いに伝わったようでタイガたちに向き直り、同時に笑って頷いた。
後でミチルがタイガから聞いた話になるが、タイガが突然こんなことを言い出したのにはこのような理由があったんだそうだ。
“ほら、俺らは家族がいるけど、カナタって確か親類いない上に一人暮らしだろ? せっかくクリスマスなのに、俺らと別れた後にひとりぼっちの家に帰る、ってのも……なんか、寂しいじゃんか。だから、俺らで少しは盛り上げてやりたくってな”
ということだったらしい。家族がいないことによる寂しさを、タイガは誰に言われずとも察していたようだ。それは、ノゾミにもとてもよくわかる感情だったため、話を聞いて即座に賛成してくれたのだという。
「……よし、塩の揉み込みはこんなものかな」
「ミチルー。ジャガイモ潰し終わったわよー」
「あ、ありがとう。じゃあそれをバターと混ぜてくれる? あとは……カナタくん! オーブンの予熱お願い! スポンジ焼いた時とは温度が違うから……」
「250度だよね? 了解」
「カナタ―! グラスどこだ?」
「上から二番目の棚! ホコリかぶってるかもしれないから、一応洗ってくれる?」
「あいよー」
揃ってスーパーで買い出しをした後カナタの家に向かい、母に教わったというレシピを使うためにミチル主導でクリスマス会の準備を進める4人。がやがやと騒がしく話しつつケーキのスポンジを焼き終え、こんな会話をしながらチキン含む昼食の準備を進めていた。ちなみに調理の役割分担は、女性陣がチキン、カナタがオードブル兼ケーキのクリームの準備、そして料理に関しては戦力外通告を受けたタイガは食器の準備、といった感じである。
と、そんなこんなで作業を続け……ちょうどよく昼ごろに全ての料理が完成し、ようやく四人そろって席に着いた。
「……さて。そんじゃまぁ、とりあえず。突然言い出したのに、付き合ってくれてあんがとな三人とも。特にカナタ、会場提供感謝するぜ」
なんとなく流れでタイガが音頭を取り始め、それに三人は微笑んで頷いた。タイガがその様子に満足したような表情になるとシャンメリーの入ったグラスを取ったので、カナタもふとこんなことを思いつつグラスを取った。
(……ははっ、やっぱり誰かと一緒にいるっていうのはいいな……普通じゃない僕でも、こんな風に過ごせるようにしてくれる仲間がいるって、僕は幸せだ……)
「そんじゃまぁ、せっかくだからご一緒に。せーのっ…………」
「「「「メリークリスマス!!!」」」」
はい、いかがでしたでしょうか。実は私、こういうリアルタイムの季節とかイベントに絡めた話を書くのって初めてで……うまく書けたかどうか正直ちょっと不安ですw いかかでしたでしょうか……楽しんで頂けたなら嬉しいのですが。
実は後半のクリスマスパーティー、当初はファーストフード店に皆で行く予定だったんです。というかその内容で一応完成していました。ですが昨日(23日)に我が家でクリスマスパーティー(親と二人きりですがw)をやって、やはりカナタくんにもこの暖かさを感じて欲しいなと思いまして。急遽数時間で書き上げて変更しました。チキンとかケーキのくだりはほぼ全て私の体験談ですw
ちなみにあの後は、四人でわいのわいの賑やかに騒ぎながらケーキのデコレーションをして……完成したケーキは、その日のうちに食べ終わってしまったという設定ですw
あぁそうだ、報告すんの忘れてた。自己紹介には書きましたが、実はこっそりツイッター始めてたりします。あんな前書きなので、一応生存報告できる手段は必要かなと。IDは@DEMWrit です。
今回はここで。では、次でもお会いできることを願いまして。