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二十二話 文化祭・序

 ジャスト一か月ぶりの更新です。では、どうぞ

「おい、カナタ! そっちの机二個こっちに持ってきてくれ!」


「了解! 裕人、手伝ってよ」


「おう」


 時は過ぎ、この日は文化祭前日。カナタ達は、自分たちの出し物のために教室内の机を移動させていた。ちなみにこのクラスの出し物は“お好み焼き”である。


「にしても、この学校ってムチャクチャだよな。修学旅行の二週間前に文化祭やるとか……」


「もともとそうなってるんだから仕方ないよ。まぁ、修学旅行を思い切り楽しむためにも、まずは文化祭を成功させなきゃね」


「そだな。……っと、こんなもんか」


 話しながら、机のセッティングを終えた二人。その二人に近づいてきたのは、調理場のセッティングをしていた直子だ。


「永沢くん、5組の倉持さんが呼んでる。委員会の打ち合わせをしたいそうだよ」


「あぁ、もうそんな時間か。おっけ、サンキュー。んじゃカナタ、行ってくるわ」


「うん、いってらっしゃい」


 裕人を送り出して、一息つきながらカナタがふと調理場の方を見ると、かなり巨大なポリバケツが運び込まれている最中だった。


「何あれ?」


「うん?……あぁ、あれは……食材入れ、とでも言うべきなのかな? あの中にお好み焼きの素を入れておくんだそうだよ」


「え、あんなのに満タンにするの? ……採算取れるんだろうね……」


「大丈夫さ。定番だからこそ、お客さんも大勢来てくれるだろうからね」


(……そう言えば、タイガ君たちも来るとか言ってたっけ……)


 と、カナタは思い出す。それは、先日のトレーニング後の話に遡る。




「へぇ、文化祭近いのか。んじゃ、俺も見に行こうかな」


「そりゃ、構わないけど……定番のメニューしか出さないよ?」


「それが良いんじゃない。私お好み焼き大好きだし。……うーん、こっちにはないわね……ミチル、そっちは?」


「こっちも見つからない。まぁ、司令が見たことないって言ってたんだから、見つかる可能性は低いとは思ってたけどね」


 トレーニングの後。カナタたちはアジト内の資料室で、先日遭遇したような妖獣の情報がないか探していた。部屋の中には無数の書物があり、その装丁も様々だ。奥には書庫もあり、素手で触れてはならないような古文書まで存在するらしい。


「ったく、夜鷹よたかの資料室にない妖獣が存在するなんてな……しかもこんなに立て続けに現れて……」


「……夜鷹? なにそれ?」


「は?」


「「え?」」


 カナタが何の気なしに放った一言に、他の三人が凍りついたように動きを止めた。その様子を見て、カナタは目を瞬かせる。


「え? なに?」


「……お前……それ、本気で言ってんのか……?」


「? もちろん」


 それを聞いて、タイガはがっくりと肩を落とす。その様子を見て、ノゾミが代わりに答えた。


「……夜鷹っていうのは、この組織の名前……」


「……そうだったの!?」


「むしろ本当に知らなかったの!?」


 驚くカナタを見て、それに驚くノゾミとミチル。


「てっきり司令から教わってるんだと……」


「……教わってない……」


 と言って、カナタは恥ずかしそうにする。それを見て苦笑したのはタイガだ。


「いや、お前が悪い訳じゃねぇし。ったく、司令もちゃんと説明くらいしといてくんねぇと……」


「悪かったな。うっかり忘れてたんだよ」


「いっ!?」


 タイガが後ろから聞こえた声にギクリとして振り返ると、そこには話題に上っていた春樹がいた。


「しっ、司令……」


「ったく、お前は……このヤロ!」


「いでででで!? すいませんでしたあぁぁ!!」


 結局この後、春樹もいっしょに資料を探したのだがやはり見つからなかった。が、頭の側面を手加減なしにグリグリされるタイガを見て、カナタたち三人は大笑いし、それを収穫としたそうな。




(……まさか、あの組織が“夜鷹”なんて名前だったなんてね……聞かなかった僕も悪いけどさぁ……)


「どうかしたかい?」


「え? あぁ、うん。何でもないよ」


 考えに沈んでいたカナタは、直子の声で我に返った。


「食材は、明日運び込むんだよね?」


「うん。衛生上、たとえ1日でも教室に食品を置き去りにする訳にはいかないからね」


「まぁ、仕方ないとは言え明日の朝は準備のために早めに来ないといけないから、ちょっと面倒だけどね。……さて。ちょっとトイレ行ってくるね」


と、直子に言って、カナタは教室を出た。




「カナタくん」


 後ろから呼び止められてカナタが振り返ると、そこにいたのは段ボールを数個抱えた麗だった。カナタも足を止め、麗に向き直る。


「麗さん。そっちも準備中? 忙しそうだね」


「うん。クラスの出し物の準備はだいたい終わったんだけど……私は部活の出し物の準備もしなきゃいけないから、することが結構多くて」


「え? 麗さんって部活入ってたの?」


「あぁ、そっか。カナタくんには言ってなかったっけ。私、これでも写真部なんだよ」


「そうだったんだ……知らなかった……」


「まぁ、伝える機会もなかったしね」


 麗は苦笑しつつ、続けた。


「特にどこかに集まって活動する、みたいな部活でもないから、夜の仕事があっても所属できてるんだけど……作品自体がインスピレーションとチャンスに左右される性質上、作品の印刷とかレイアウトとか、結構直前に決まるんだよ。おかげで大忙しなんだ、前日だっていうのに……」


 ふぅ、と言って、ダンボールを抱え上げる麗。それを見たカナタは、自然に言葉を発していた。


「何個か持とうか? それ」


「え……でもカナタ君、自分のクラスの準備は良いの?」


「大丈夫だって。こっちはあらかた終わってるし、ちょっとくらい寄り道しても平気だよ」


 カナタは麗の手からダンボールをいくつか取り、笑った。つられて、麗も小さく笑う。


「……うん。じゃあ、お願いしようかな」


 カナタも笑い、麗に先導してもらいながら歩きだした。




 普段の学校生活で、滅多に使用されることのない場所。専門教室や部室が主に集められた校舎の一角、通称”特別棟”に、カナタはやってきていた。そこには既に、多くの文化系の部活の看板が設置されている。


(完全な偶然だったとはいえ、これは会えて正解だったかな……)


 自分が持つ荷物の重さと目的地までの距離を考え、カナタがそんなことを考えていると、ミチルから


「あそこだよ」


 という声がかかった。その方向に視線をやると、“写真部”という看板が置かれた教室があった。麗はその教室のドアを開け、中に声をかけた。


「お待たせー。固定用具とか、持ってきたよー」


 麗の声に対し、中からお疲れさまーだの、ありがとうございます! だのと返事が帰ってくる。


「カナタくん。それ、そこの端に置いてくれる?」


「あぁ、うん」


 言われて、カナタはダンボールを置いた。教室内を軽く見回すが、複数の仕切りによって視界が遮られて、全体を見ることはできなかった。写真もまだ数点しか掲示されていない。


「あの仕切り、なんなの?」


「あそこに、作品を掲示するんだよ。写真はたくさんあるし、大きく引き延ばして印刷したものを展示するから、壁だけじゃスペースが足りないの」


「なるほど……ちなみに、麗さんの作品ってどれ?」


「まだ秘密。当日見に来てね♪」


 いたずらっぽく微笑む麗に、カナタも肩をすくめて笑う。


「なら仕方ない。楽しみにしとくよ」


「あう、ハードル上げちゃったかも……?」


 少々カナタの言い方にうろたえる麗。それを見てカナタは小さく笑ったが、ふと壁際の時計を見ると、カナタがトイレに行ってから結構な時間が経過していた。


「っと。ごめん、麗さん。僕そろそろ戻らないと」


「うん。手伝ってくれてありがとう、カナタくん」


「どういたしまして。じゃあね」


 小さく手を振る麗に頷き、カナタは自分の教室へと戻っていった。




「今の人、先輩の彼氏ですか?」


「ふえぁ!?」


 よし、と気合いを入れて作業をしようとしていた麗だったが、この一言で思いっきりすっ転んだ。


「なっ、なっ、何言ってるの!?」


 慌てる麗に、さらに後輩から追い打ちがかかる。


「だって、先輩が男子とあんなに自然に会話してるの、初めて見ましたし……」


「それに彼、いつだか先輩が中庭で一緒にいた男子じゃないですか」


「良子ちゃんも見てたの!?」


「……事実だと認めましたね」


「はうっ……」


 友人たちとの会話の時に続いて間接的に自分から白状してしまい、呻く麗。


(どうして私ってこう……わかりやすい反応しちゃうかなぁ……)


「だいたいそりゃ目立つわよ、あんたって結構人気あるんだから」


「篠原先輩もそう思いますよね!? 霧生先輩、あの人誰なんです!?」


「こっ、この話はもうおしまい! ほら! 時間ないんだから早く作業始めよ!」


 えー、と文句を言う部員たちを黙殺し、麗は作業にかかる。が、顔は真っ赤なままだった。


(もう、みんな変なことばっかり言うんだから! そりゃ、カナタくんはカッコいいし優しいし、知り合いの男子の中では一番接しやすいけど……って、何考えてるの私!? だっ、大体カナタくんはノゾミちゃんの彼氏なんだから、こんなこと考えちゃダメ! ってことで、はい! 私も思考終わり!)


 と、思考が暴走している麗だったが、無理矢理思考を止め、気を取り直して作業に取りかかった。




 カナタが教室に帰ってくると、教室内の準備はあとは飾り付けを少し残すのみで、ほとんど終了していた。背の高い男子が中心になって、壁の高い位置にモールなどを張り付けていっている。


「おお、おかえり。結構長かったね、大丈夫かい?」


「うん、大丈夫。帰って来るときに偶然友達と会ったんで、ちょっと手伝いを……」


「なるほど。……まさか、この前の女子かい?」


「え? なんで分かったの?」


「……いや、当てずっぽうだったんだけど……まさか本当にそうだとは……」


「? 何?」


「なっ、何でもないよ! ……迂闊だった……人気があることは知っていたけど、他に仲がいい女子がいたなんて……」


「???」


 ぼそぼそと呟く直子を見て、カナタはキョトンとする。それを聞いて、会話を聞いていた周囲のクラスメイトはため息をつく。


 なんで気付かないかな、と。


 さておき。


 その後HR終わりに、クラスの模擬店の詳しいシフトを聞いたカナタは、タイガ……いや、彰にメールを打った。


「よし、これでオッケー。……あ、麗さんにも言っておいた方が良いのかな……?」




 リビングのソファーに座ってカナタからのメールの返事を書いた彰は、返信を完了したことを確認して携帯を閉じた。


「うし、完了っと……あれ? どうせ夜に会うんだから、もしかしてわざわざメールもらう必要なかったんじゃ……」


「何ぶつぶつ言ってんのさ、兄ちゃん」


「おわっ!? ……しおり! おどかすなよ!」


「兄ちゃんが勝手に驚いたんじゃんか」


 彰の背後からソファーの背もたれに座っている少女は、彰の文句を聞き流して笑った。


「で、何のメールだったのさ?」


「大したこっちゃねぇよ。明日やる友達の文化祭に、来ないかって誘われただけだ」


「へぇ。……で、行ってくんの?」


「せっかくだからな。その友達のクラスでやってるお好み焼きでも食って来るさ」


「なるほど。じゃあ明日は兄ちゃん、昼飯いらないんだね?」


「あぁ。何で……って、あぁ、そうか。明日は母さん出かけるんだっけ」


「うん。えーっと……何の用事っつってたっけ?」


「冷蔵庫に貼ってなかったか?」


 栞は頷いて、ソファの背もたれから立ってすぐそこのキッチンに入っていく。


「あぁ、そうだ。高校の時の友達に会いに行くんだった」


「すげぇよな。あの年齢になっても、高校の時の友達とまだ友達でいられるっていうのは」


「だね。私は、今の友達とその時まで友達でいる自信ないもん」


 と、その言葉を聞いて、彰はふと表情を曇らせた。


「その頃もまだ……俺は、纖士なんだろうな……そりゃ当たり前だよな。古文書クラスの昔から、ずっとこの戦いは続いてるんだから……」


「……兄ちゃん? どうかした?」


「え? あぁ、いや。なんでもねぇよ」


 ふーん、と言って、栞は冷蔵庫から飲み物を取り出してコップに注ぐ。その時袖口からチラリと見えた妹の右腕を見て、彰は辛そうな表情をする。頭を振り、ソファーを立って窓際まで歩き、そこに映る自分の姿を見つめる。


(……忘れちゃいけない。あいつのあの傷は、俺のせいなんだ……あの時、俺がもっと強かったら……)


 栞の右腕には、薄い、しかし痛ましい傷痕があった。それを想い、彰は顔を小さく歪める。だが彰はすぐに表情を引き締め、窓を開けて空を見上げた。そこからは夕焼け空に混じって、星が数個見えた。もうすぐ、彼らの時間がやってくる。


(だからこそ俺は、戦い続けないといけない……強くならないといけない……)


(あいつのような人間を、増やさないために……!)


 と、思っているところに、栞から声がかけられた。


「あーあ、明日は家に一人で留守番かぁ。……兄ちゃん。おみやげ、よろしくね~」


「文化祭のおみやげって、どんなだよ……?」


 そんな返事をしつつ、彰は窓を閉めて、リビングへと戻っていった。

 初めて、予約投稿を利用してみました。……内容には一切関係ありませんけど。


 座談会でもミチルたちが言及していましたが、この文化祭編は完全なるお遊びの予定です。書いているうちに変化していく可能性はありますが。


 今回、設定上……というか、構想上は存在していたタイガの妹、栞が初登場しています。彼女は、タイガの過去に関わってくるのですが……メインで出てくるのはいつになることやら。


 本当は前回の時に書きたかったんですけど、忘れていたので、今ここで。私が描くカナタくんは、私の考える理想の人物になっています。誰にでも優しくでき、助けを求める誰かを助ける勇気を持っている。そして、私はカナタくんにもう一つ、別の勇気を持たせました。


 それは、“困ったときは、助けを求めることができる勇気”です。


 実はこれ、言うほど(書くほど?)簡単なことではありません。助けを求めるということは、自分の限界を認めるということです。余計なプライドが邪魔をして、助けてほしいのにそれをうまく伝えられなかった……そんな経験、皆様にもあるのではありませんか?


 カナタくんは、いつも不安を抱えています。自分に。人間関係に。世界に。でも、彼はそれを何の抵抗もなく相談することができる。……自分で書いてて、うらやましくなってしまいます。


 ……なんか真面目な話しちゃいましたが、次回は遊び回です。楽しんで頂ければ嬉しいです。


 では、次でもお会いできることを願いまして。

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