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二十話 降雨・蒼炎

 降雨編、四話目です。では、どうぞ。

 妖獣と戦闘中のタイガとノゾミ、そしてミチル。三対一でありながらも妖獣は脅威的な対応力を見せ、現在戦況は拮抗していた。


「くっそ! なんだよこの反応の速さ!?」


「こっちの連撃をここまで捌くなんて……!」


 タイガとノゾミがぼやきつつ、一旦妖獣から距離を取る。その隙にミチルが祓光射を放つが避けられ、妖獣も殲士たちを睨んで構え直した。タイガたちも息切れしながらも妖獣を睨み付け、自身の武具を握り直す。


「ヤバい、ちょっと疲れてきた……」


「私も、ちょっと集中力が切れてきた気がする……」


 タイガとミチルが呟いた時、後ろから駆け寄る音がして三人は同時に振り向いた。そこにいたのは、今だ顔面蒼白ながらも落ち着きを取り戻したカナタだった。


「……大丈夫か?」


「……断言は、できかねるけど……とりあえず今戦う分には問題ないよ」


 カナタは言って、自身の武具を起動させる。


「タイガくん達は休んでて。あいつの相手は僕がする」


「……分かった。正直キツイから、回復するまで頼むわ」


「私も……ちょっとの間、お願いね」


 タイガとミチルは武具を解除し、路地の角に入る。無理やりに呼吸のリズムを落とし、空気を鼻から吸って、口から吐く。それを繰り返し、まずは息を整えようとする。それを見届け、ノゾミがカナタに振り返った。


「私はまだ大丈夫。サポートするから、攻め込んで」


「了解」


 頷き合い、先にカナタが、次いでノゾミが妖獣に向かっていく。が、先に仕掛けてきたのは妖獣の方だった。


「ウルァァ!!」


 咆哮し、腕を突き出して鋭い爪でカナタを切り裂こうとする。が、カナタはそれを右手の武具で逸らし、その反動で体を回転させて左手の武具で攻撃を放った。


「ふっ!」


「グルゥ!」


 が、即座に防がれ、カナタと妖獣はその場で互いに押し合いながら睨み合う。その時、妖獣が小さく唸り、カナタはそれを聞き取って目を瞠った。


「……ヤット……デテキタ…………タタカ、エ……!」


「……なんだって……!?」


 動揺したためか、妖獣との力比べに負けそうになり、カナタは慌てて力を入れ直した。その隙に、ノゾミが背後から妖獣に襲い掛かった。


「滅光!!」


 うまくいけば仕留められるかも、くらいのつもりで放った滅光の刃は、しかし妖獣に足で防がれてしまった。体勢を崩せたことでカナタが武具で攻撃を見舞ったが、妖獣は自由になった腕を振り回し、二人に強制的に距離を取らせた。並び立ち、雨で濡れた手で武具を構えなおすカナタとノゾミ。


「まったく、なんてやつ……」


「どうすれば……え?」


 カナタが呟いた時、妖獣に変化が起こったように見えた。うっすらと、淡く青い光が妖獣の体を包み込んだのだ。カナタたちは訝しげにしながらも、警戒して一度並んで距離を取った。


「……なんだと思う、あれ?」


「さぁ……」


 二人が警戒しつつ妖獣の様子を見ていると、妖獣は青い光を徐々に強めていき、そして……


 口から、青い光の火球を放った。


「「なっ!?」」


 何とか迫ってくる火球を見切り、回避したノゾミとカナタ。妖獣から連射される火球から逃れるため、二人は反対同士の道の角に飛び込む。


「何あれ!? 妖獣ってあんなのもありなの!?」


「バカ言わないでよ!! あんなの私だって見たの初めてよ!!」


 回復してきたタイガとミチルも合流するが、二人も首を横に振る。


「私も初めてだよ!! 記録室の資料でも見たことない!!」


「んなことより、どうやって対処するよ!? このままじゃ近づけねぇぞ!!」


「私が祓光射で威嚇する! 火球が止まったら、接近して攻撃を!」


「「「分かった!」」」


 やり取りを終えた後の彼らの行動は迅速だった。ミチルが壁際から弓と手だけを出して妖獣に狙いを定め、数発の祓光射を放つ。当然そんな不安定な狙い方では命中などしないが、しかし妖獣の気を逸らすことはできた。少しの間だけ、青い火球が止む。


「今だ!!」


 タイガが叫んで角から飛び出し、同時にカナタとノゾミが武具を起動させて走る。タイガが鎌で足元を薙ぎ、妖獣が上に飛び上がったところに二人が飛び掛かる。


「祓光!!」


「滅光!!」


 カナタが祓光を、ノゾミが滅光を放つ。祓光で動きを止め、滅光で反撃を止める目的の攻撃。そこに加え、タイガが後ろから鎌の柄で妖獣の体を押さえ込む。そして、ようやく妖獣の動きを完全に封じることができた。


「ミチル! 頼んだ!!」


「任せて!!」


 ミチルが答えて袋から鏃のない矢を取り出して弓に番えると、鋭い魔洸の鏃が形成され、集中して狙いを定めているために眼に収束された魔洸が宙を舞い散った。


滅光めっこう……撃射げきしゃ!!!」


 ミチルが叫び、強力な滅光の矢を放った。それは妖獣に吸い込まれるように勢いよく飛翔し、そして……


 ブシャアァァ!!!


「ギャオオォォ!!??」


 見事と言うべきだろう。妖獣の腹部に直撃した矢は、深々と妖獣の体に突き刺さった。そしてそれによって生まれた隙は、カナタ達にとって大きなチャンスだった。


「「「滅光!!!」」」


 三人同時に叫び、まずはカナタがさらに胴体を切り裂き、ノゾミが背中を斬る。そして二人が妖獣から離れたところで、


「ぜえりゃあああぁぁぁ!!!」


 タイガが鎌を振るい、頭のてっぺんから妖獣を縦に一刀両断した。妖獣は断末魔の叫びを上げることすら許されず絶命し、青い光の粒子となって拡散していった。




 現世に復帰したものの、戦闘の疲労で四人は息も絶え絶えに地面に膝をついていた。


「……ふぅ……ふぅ……」


「はぁ……はぁ……」


「ぜー……げほっ!ごほっ!」


「はあぁ…………手強かった、わね……」


 少し早く息を整えたノゾミの言葉に全員が首肯するが、誰一人として口に出して返答できる者はいなかった。荒い息を吐きながらふと南の空を見上げると、既に雨は止んでいて、空が白み始めようとしている。


「ぜぇ……ったく……手こずらせ、やがって……もう朝になるじゃねぇか……」


「倒せただけでもまだマシよ……あんなにイレギュラーな妖獣相手にしたんだから……」


「まぁ、そうだね……それにしても……なんだったんだろう、あの妖獣……」


「さぁ……タイガ君たちが知らないなんて、本当に何なんだろうね……?」


 カナタの言葉を聞いて、タイガが真剣な表情でその場にいる全員の顔を見回した。


「こりゃ、呑気に学校行ってる場合じゃねぇな。このまま本部に行こう。早いところ司令に報告しねぇと」


「……そうね。でも、その前に一旦服を着替えないと。戦闘に夢中で忘れてたけど、雨の中戦ってたから服がビショビショよ。この格好じゃ出歩けないわ」


「……確かにな。じゃあ、着替えと簡単な休息の時間を含めて……三時間後にもう一度ここで落ち合おう。その頃なら登校中の生徒達に気付かれることもないだろうからな」


「了解。じゃあ、一時解散ってことで」


 四人は互いに顔を見合わせて頷き合い、自分たちの家へと帰っていった。




「ふむ。まさか三番がやられようとはな……」


 薄暗い室内。男はそう言いつつも不満そうな様子はなく、モニターの中の映像に見入っていた。そこには、先ほどのカナタたちと妖獣との戦闘が映し出されていた。


「妖洸の安定性はまぁまぁか……改良の余地はあるが、実戦テストを行えた分開発はスムーズにいきそうだな」


 男は呟いて映像を一時停止させると、椅子を回転させてパソコンのモニターに向き直り、新しくいくつかのデータを表示させた。


「となると、やはりこちらの方が問題か……現状では実用化は果てしなく難しいからな……」


 少々気落ちしたように呟くが、一瞬後には元の様子に戻り、再び先ほどの映像を写しているモニターに向き直った。


「焦ることはないか。まぁ、じっくりやるとしよう……」


 そして男は、映像を再び再生する。そこには、妖獣と戦いながら……うっすらと“笑っている”カナタが映っていた……。




「……うん。学校にはもう連絡してある……え、いいよお見舞いなんて。うつしたくないし……」


 家に帰ったカナタは、携帯で裕人に連絡を取っていた。学校を休むから、いなくても驚かないように、と。ちなみに理由はオーソドックスに、“体調不良”である。


「それより、今日の授業のノートよろしくね。……居眠りしないでよ?」


『う~ん……とりあえず、今電話してる訳だから遅刻は回避の訳だが……正直、居眠りの方は自信ねぇな。てか、ノートなら春日に頼んだ方が良いんじゃねぇか?』


「そりゃ、できればそうしたいけど……直子さんの連絡先知らないし、僕」


『え、マジで? 下の名前で呼んでるのに?』


「……何か関係あるの?」


『いや、そうキョトンとした反応返されても……まぁいいや。んじゃ、俺が春日に頼んどくよ』


「うん、お願い」


 へーい、という裕人の返事を聞いて、カナタは通話を切った。そして、小さく首を傾げる。


「相変わらず裕人は訳の分からない事を言うなぁ……下の名前で呼んでることと連絡先知ってる事がどうして関係するんだか……」


 そんな事を呟きつつ、カナタはスーツを着たままベッドに寝転がる。


(それにしても……電話だったからどうにか誤魔化せたけど……)


 カナタは表情を曇らせて、さらに考える。


(とうとう、妖獣による被害者を出してしまった……僕は、間に合わなかったんだ……)


 そこまで考えて、ようやくカナタは思い至る。自分があの時嗅ぎ付けた、妖獣とは違う匂い。あれは、被害者の血の匂いだったのだということに、本当にようやく。


(でも、なんであの匂いを嗅いだ時……あんなことを、感じたんだろう……)


 もし“どんな匂いだった”、などと聞かれても、カナタには答えることができそうになかった。




 ――――美味しそうな匂いだと思った、などということは、決して――――





 これにて降雨編、終了です。雨は上がり、カナタたちは勝利しました。


 予告通り、今回は半分以上が戦闘回でしたね。同時に、新要素がてんこ盛りになった回でしたね。特にカナタが。……だいぶヤバイ感じのベクトルですが。


 さておき。……って、この書き方……意図せずして林トモアキさんの作品に似てるような? ……まっ、まあ気にしないことにして。ちょっとした告知をします。実はこの“血色”、来月で連載一周年を迎えるんですが……自己満足的に、キャラクター達の座談会みたいな感じの番外編を書きたいと思います。


 だって、他の方がやってるの読むと面白そうなんですもん……私もやってみたくなって……


 っていうことで、やります。もし良ければ、お楽しみに。


 と、今回はここまでで。では、次回もお会いできることを願いまして。

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