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十九話 降雨・被害

 降雨編の三発目です。


 読んで頂く前にちょっと注意を。今回の話は、今までと比べて格段にグロい描写が含まれています。食事の前に読むのはあまりおすすめできません。


 大丈夫なようでしたら、どうぞ。

 雨の中、傘をさして歩くカナタとミチル。


「修学旅行、どこに行く?」


「やっぱり清水寺と金閣寺は外せないかな。定番だし。ミチルさんは?」


「私たちも清水寺は行くよ。近くに縁結びの神社があるから、そこに興味がある友達がいて」


「そう言えばあったね、そんなの……え~と、なんて名前だっけ?」


「確か……地主神社、だったかな?」


「あぁ、そうだそうだ。うちのクラスの女子も行くって言ってたっけ……」


「でもその前に、文化祭を何とかしないとなんだよね。カナタくんのクラス、何やるの?」


「え~っと、確か……っ!?」


 そんなことを話しながら歩いていると、突然カナタが表情を硬くし、右斜め後ろを振り返った。その様子を見て、ミチルも表情を険しくする。


「……妖獣だね? どんなの?」


「……この前の、肉喰と憶喰の合成獣に似た匂い……なんだけ、ど……」


「……なに?」


 口篭ったカナタを見て、ミチルは怪訝そうな表情を見せる。


「……今まで嗅いだ事のない、妖獣とは違う匂いが混じってる……ような、気が……」


 歯切れの悪いカナタの言葉だったが、ミチルは疑いを見せることなく、袋から自身の武具である弓を取り出した。


「行こう。どっち?」


「……あっち。どうも、移動はしてないみたい」


 答え、二人は同時に走り出す。途中ミチルはスーツの襟に手をやり、ノゾミに連絡を取る。


「ノゾミちゃん、聞こえる?」


『どうしたの? 手強いやつ?』


「かも。カナタくんがこの前の合成獣っぽい匂いを嗅ぎ付けたの」


『いや、嗅ぎ付けたって……確かにそうだろうけど表現的にどうなの……?』


「とにかくお願い! この前みたいな奴だったら、苦戦するのは確実だから! 場所は……」


 と、ノゾミたちに場所を知らせ、ミチルは通信を切る。


「よし、急ごう!!」


 ミチルの言葉にカナタは頷き、共に走り出した。




「応援要請か?」


「ええ。カナタがこの前の合成獣の匂いを嗅ぎ付けたらしいの。アイツだったら、二人じゃヤバイから……」


「なるほどな。んじゃ、急ごう!!」


 頷いて、ノゾミはタイガについて走り始めた。走る道すがら、ノゾミは顔を曇らせる。


(……私が感じていた嫌な予感は、これ? ……分からない、けど……)


 そこでノゾミは表情を引き締め、走る速さを少し速めた。


(なんにせよ、カナタを傷付けさせる訳にはいかない……!)




「近い……もうすぐ……!」


「うん……!」


 近づくにつれて、二人の表情は険しくなっていく。妖獣との距離が縮んできたので、ミチルも気配を感じることができるようになったようだ。二人が走るに連れ、妖獣との距離がどんどん縮まっていく。が、ミチルはそこで何か違和感を感じた。


(おかしい……これだけ接近しているのに、妖獣が一切移動している様子がない……?)


 と、そこまで考えたところでミチルは突然嫌な結論に至り、血相を変えて猛烈に走る速度を上げた。


「ど、どうしたのミチルさん!?」


「いいから急いで!!」


 ミチルの焦燥の意味は分からなかったが、ただ事ではない気配を感じてカナタも走る速度を上げた。そしてミチルが曲がり角を曲がりきって隔世に突入した時、


「っ!!!」


 ミチルが絶句し、立ち止まって唇を噛んだ。


「どうしたの!?」


 カナタも何事かと思って隔世に突入し、ミチルの見ている方を見た。




 最初に認識したのは、おびただしい“あか”だった。


 妖獣がその“あか”の中央でうずくまり、小さく体を揺らしている。よく見ると、その“あか”の中には、何か小さなものが飛び散っているようにも見える。




「……え……?」


 カナタは呆然としている。いや、目の前の状況をまだ正しく認識できていないのだろう。


「祓光射!」


 その時、ミチルの祓光射が放たれ、妖獣の肩に直撃した。


「ルウゥ!?」


ミチルの祓光射をまともに喰らった妖獣はよろめき、カナタたちの方を振り向いた。


「「っ!!!!!」」


 その時、妖獣が何かをくわえているのが見え、その銜えているものが何か分かった瞬間、カナタは表情を凍らせた。






 それは、人間の腕の“肘から先”だった。そして。


 ベキ、バキ……ボッキン! グチャ、グチャ……


 妖獣はそれを噛み砕いて呑み込み、そして満足げに口の周りについた液体を舐め取った。




 そこでカナタは、ようやく理解した。妖獣の周囲に飛び散る“あか”は、その腕の持ち主だったであろう“モノ”から流れた、鮮血だったのだと。


 周りに飛び散る小さなものは、その“モノ”の構成物だったのであろうこと。


 分かりやすく言えば。





 “カナタ”が殲士になって以来、初めて目撃した……人間の死体だった。






「うああああああああああああ!!!!!!!!!」


 半ば錯乱したカナタは、半狂乱で血色の翼を展開し、妖獣に飛び掛かった。


「カナタくん!? 落ち着いて!!」


 ミチルが呼びかけるが、カナタは聞こえていないようで妖獣に攻撃を続けている。が、その動きは動揺のためか、明らかに精彩を欠いている。


「くっ……!」


 ミチルは歯噛みし、襟元の通信機に手をやった。


「ノゾミちゃん! 緊急事態!」


『何!? どうしたの!?』


「人的被害あり! 死者一名! それを見てカナタくんがパニックになっちゃってる!」


『えぇ!? ……了解。もうすぐそこまで来てるから、待ってて!』


「うん、急いで!」


 ミチルは通信を切ると、カナタの様子を見た。妖獣と斬りあっているが、ほとんどが防がれている。そして。


「ぐあっ!?」


 カナタは妖獣に吹き飛ばされ、ブロック塀に叩きつけられた。妖獣はさらに襲い掛かろうとしたが、


「はぁっ!!」


 ミチルの祓光射に阻まれて立ち止まり、その隙にミチルはカナタを道の角に連れ込んだ。


「カナタくん! 落ち着いて!」


「あっ……うあぁっ……!」


「く……」


 ミチル呼びかけるが、カナタはいまだに混乱していて全く聞こえている様子がない。ミチルは小さく呻き、そして覚悟を決めたようにカナタを見つめた。


「カナタくん……ごめんね!」


 そしてミチルは、右掌を上げ……


 バッチン!!!


 思い切りカナタをビンタした。その痛覚が、無理やりにカナタの思考を現実へと引き戻す。


「あいたっ!? ……ミ、ミチル、さん?」


 カナタの眼の焦点が合い、自分を認識したのを確認して、ミチルは安堵の溜め息を吐いた。


「私が分かる? ……ごめんね、カナタくんを正気に戻すにはこれしか方法がなくて……」


「う、うん……ありがとう……うっ!?」


 ミチルに礼を言った直後、カナタは手で口元を覆って下を向いた。正気に戻ったことで、先ほど見た光景を現実のものとして、正確に再認識してしまったのだ。


「……うぅっ……おえぇ……」


 両手で口元を塞ぎ、カナタは自分の中から逆流しようとするものを必死に堪えようとする。が、ミチルはカナタの背中をさすりながら、優しく言った。


「我慢しないで。吐いた方が、気分が楽になるから」


「でも……妖獣が……!」


「大丈夫」


 カナタの不安に、ミチルは頷いて答えた。その背後からは、妖獣との戦闘音が聞こえる。どうやらタイガたちが間に合ったようだ。


「今はノゾミちゃんたちに任せておけば、大丈夫だから」


 その言葉を聞いたカナタは、もう内から出てこようとするものを堪えることはできなかった。


 カナタは盛大に嘔吐し、ミチルはそれが治まるまでカナタの背をさすり続けた。




「……少しは落ち着いたみたいだね。私は戦闘に参加するから、カナタくんは、息を整えて。自分で自分の状態が、大丈夫だ、って確信できたらこっちに来て」


 数分後、まだ荒い息を吐いているものの先ほどよりは落ち着いたカナタを見て、ミチルは武具を掴んで立ち上がった。そして、妖獣のいる場所へと駆けていく。


(……これが……妖獣……そして、戦い……! 僕は……あんなのと、ずっと……!)


 カナタは、先ほどよりは自分が落ち着いていることを確信しながらも、いまだかつてない恐怖に縛られ、動けずにいた……




「カナタは!?」


「多少は落ち着いたみたい! もう少ししたらこっちに合流してくれるはず!」


 妖獣と斬りあっていたタイガが、一旦距離をとる。その間にノゾミも合流し、ミチルに状況説明を求めた。


「何があったの!? ……あの血溜まりを見るに、死体はもうないみたいだけど」


「……私たちが到着したときにはほとんど捕食され尽くしちゃってたんだけど、運悪く人間の腕を捕食してるところを見ちゃって」


 それを聞いて、ノゾミとタイガはカナタに同情するような表情になる。


「……それは無理もないわね」


「ま、今まで一度もこの状況に遭遇しなかったことが逆に幸運だったんだろうけどな」


 言い合い、三人は顔を見合わせて頷き合う。


「じゃ、カナタがこっちに来るまで、持ちこたえよう」


「「了解」」


 そして三人は、同時に妖獣へと立ち向かっていった。




 雨は、まだ止まない…………

 はい、今回はここまでです。やっぱり今回じゃ終わんなかった……たぶん、次回はほとんど丸ごと戦闘だと思います。降雨編終わるまでにあと二話はかかるなこりゃ……。


 今回の話のために、血色の設定に残酷描写の警告を追加しました。このお話は、絶対に書かなければならない話でしたから。


 怪物と戦っていて、死人がゼロだなんて……そんな優しすぎる展開、現実にはありえません。命のやり取りをするということは、どちらかが必ず死ぬ、ということですし、その戦いが不特定多数の人間を守るためのものであるなら、間に合わなかった経験、というのがあって然るべきだと、私は思います。


 ほんとは二十話突破記念に、今までのボツネタ暴露大会とかやりたかったんだけどなぁ……こりゃお預けですね。続きを頑張って書こうと思います。


 PVが3000超えました! ありがとうございます! で、ついでと言っては何ですが、お願いが……


 誰か感想書いて!!(泣)


 どの辺が良いとか悪いとか知りたいし、何よりモチベーションの問題が……! どうかお願いします! 書きにくいのは分かる気がしますけど!


 まあ、ともかく。今回はこの辺りで。では、次でもお会いできることを願いまして。

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