一話 双翼邂逅
序章だけではどうかと思ったので、一話も投稿することにしました。では、どうぞ。
教室の窓から、明るい日差しが降り注いでいる。それを眺めているのは、窓際の席に座っている少年。制服をしっかりと着こなした、全体的に優しげな雰囲気を纏ったその少年は、射してくる日の光に目を細めている。窓の外に見える校庭の木には、二羽の雀が留まっていて、心なしか楽しげに囀りあっている。その光景に、少年は淡く微笑んだ。しばらくそうして彼が鳥達を眺めていると、不意に彼に声がかけられた。
「おう、カナタ! 帰ろうぜ!」
窓の外を眺めていた少年……カナタは、声をかけてきた少年のほうに振り返って、少し苦笑しながら返事を返した。
「うん、そうだね。っていうか、裕人を待ってたんだよ。委員会の仕事、もう終わったの?」
それを聞いて、裕人と呼ばれた少し軽薄そうな雰囲気の少年はばつが悪そうに頭をかいた。
「あぁ、まぁな。そっか、わざわざ待っててくれたのか。悪いな」
「ううん、いいよ別に。僕も用事があるわけじゃないし。それより、早く行こうよ。勉強見てほしいんでしょ? どうする、僕ん家でやる?」
「いや、俺の家で頼む。そっちの方が資料集とかあるからやりやすいだろうし」
「うん、わかった。じゃあ行こっか」
「おう」
そう言って、カナタは自分の机の横にかかっていたカバンを手に取り、もう一度だけ窓の外を見た。しかしもう雀はおらず、カナタは踵を返して歩き出す。裕人の元に辿り着いたカナタは、並んで歩き出す。
裕人の家までの道のりが半分ほどに差し掛かったころ、裕人が突然こんなことを言い出した。
「しかしよカナタ、お前ってホント良いやつだよな」
「えっ!?」
唐突にそんなことを言われて、カナタは驚く。
「な、なにさいきなり。そんなことないと思うけど?」
「いやいや、だってそうだろ。勉強教えてくれって言ったの3日前なのにちゃんと覚えててくれたし、委員会で遅くなっちまったのに教室で待っててくれたし。緊急の連絡だけだったから短めだったとはいえ、30分くらい待っただろ?」
「うん、まあね。でも頼まれごとを忘れるなんてことをしないのは普通だよ。委員会の会議が入っちゃったのは突然なんだから仕方ないし、それに30分なんてすぐに過ぎるよ」
カナタはさもなんでもないかのような口調で話すが、それを聞いた裕人はボソッと小さく呟いた。
「……そもそも待っててくれること自体が優しいって言ってるんだが」
「?」
未だに首を傾げて不思議そうにしているカナタを見て、裕人はこっそりとため息をついた。
そうこうしているうちに裕人の家に到着し、裕人とカナタは家に上がった。早速裕人の部屋に行き、少しくつろぐ。
「ふぅ~……さて、何の教科からやる?」
「あ~……、じゃあ生物から頼むわ。そろそろ理科の選択科目やべぇんだ」
「……僕の選択科目は物理なんだけど……なんで生物まで教えてるんだろ?」
「そりゃ、俺に付き合ってくれてるからだろ。俺がおんなじ所で間違えまくるから覚えちまったんじゃねぇか?」
「……同じところで間違えてる自覚があるんなら暗記する分野くらい覚えようよ……」
「できりゃ世話ねぇよ!」
「威張らないでよ!」
などとギャーギャー騒いだ30分後、二人はようやく勉強に取り掛かった。結局生物だけではなく英語まで見る羽目になり、勉強がすべて終わったのは日がとっぷりと暮れた後だった。
ようやく勉強が終わった後、背伸びをしながら裕人が言った。
「やれやれ、やっと終わったか……。どうする? ついでだし、晩飯食ってくか?」
「う~ん……いや、遠慮しとくよ。家にカレーの用意してあるし、帰りに買い物したいから」
「そっか、一人暮らしって大変だな……」
「まぁね。でも、もう慣れたよ?始めたのはだいぶ前だしね」
そう。カナタは、両親を中学時代に事故で亡くしている。両親には兄弟がいなかったために親族との付き合いも薄く、かつ祖父母も既に他界していたので世話をしてくれる者もいなかったのだが、両親が莫大な貯金を残しておいてくれていたおかげで、生活費にも学費にも困ることはなかった。
「じゃあ、そろそろ帰るね。また明日」
「おう、今日はありがとうな。またヤバくなったら頼むぜ」
「……頼まなくていいように自力で頑張るっていう選択肢はない訳ね」
こっそりとため息をつきながらも頷き、カナタは裕人の家を後にした。
そんなこんなで裕人の家を出たカナタは、買い物を済ませて家への道を急いでいた。途中で雨が降り出したため、買い物用のビニール袋を持っているのとは別の手に折り畳み傘を持っている。
「やれやれ、結構遅くなっちゃったな。早く帰らないと……」
一人呟きながら歩くカナタ。帰ったら夕食を食べて、授業の課題をやって……と、家に帰ってからのことを考えていたカナタだったが……通りかかった公園がなんとなく気になり、ふと足を止めた。
「……?」
自分の感覚に首をかしげながらも公園に足を向け、なんとなく先へ進んでいく。さすがに時間帯と雨のせいで、見渡せるところには誰もいない。しかしまだ気になったのでさらに足を進めていくと、奥のほうにあるブランコに少女が座っていた。おそらく年齢はカナタと同じくらいだろう。艶やかな長い黒髪の少女だ。俯いているので表情は分からないが、泣いているような雰囲気がある。その少女を見たとき、カナタはどこか懐かしい感じを受けた。しかしそんなはずはない。カナタの知り合いにはあんな見た目の少女はいない。
とにかくどうかしたのか気になったので、カナタはその少女に近づき、声をかけた。
「そんな所にいたら、風邪ひいちゃうよ?」
すると、カナタの声を聞いたその少女は弾かれたように顔を上げた。俯いていて見えなかった顔が見えるようになり、綺麗な顔立ちが露わになったが、少女は目の前のカナタの顔を見ると、驚愕したように目を見開いて硬直してしまった。しかしカナタにはその理由が分からない。ただ不思議そうに首を傾げているだけだ。
―――ここが、起点。別たれた双翼がもう一度出逢う時、物語は再び動き始める―――
今回は少し少なめです。もし良ければ、次回も読んでいただけたら幸いです。では、次で会えることを願いまして。