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十八話 降雨・予感

 はい、またしても一月以上ぶりですごめんなさい……。


 十八話です。では、どうぞ。

「ぶえっくしょい!!」


 傘を差して歩きながら、大きく派手なくしゃみをかました気性の荒そうな少年。それを見て、周りにいる友人たちが声をかける。


「んだよあきら? 風邪でも引いたのかよ?」


「いや、バカは風邪引かないんじゃなかったか?」


「じゃあ彰は違ぇか……」


「……テメエら、好き放題言ってくれんじゃねぇか……」


 彰と呼ばれた少年が鼻をすすりながら言うと、周囲の少年たちは歩きながら笑った。


「だってあんまりにも派手なくしゃみだったからよ~」


「くしゃみしただけだったら噂されてるとかでも良いじゃねえか!」


「あ、それ言っちゃう? くしゃみが一回だけ出ると、噂の中で貶されてるらしいぜ?」


「……マジか……」


「何より、それじゃ普通すぎてつまんねぇだろ?」


「やっぱそっちが本音かよ! ……へっくし! よし! これで二回だから貶しは回避だぜ!」


「何だかなぁ……」


 くしゃみをして何故か喜ぶ彰を見て、少年たちは苦笑するが、それを見て、なんだよ、と彰は苦い表情を浮かべる。


「にしてもさあ、お前いびきかいて居眠りするくらいなら夜にやってるっていうバイトやめろよな」


「そういう訳にもいかねぇんだよな~これが。ま、諦めてくれや」


 苦笑しながら言う彰。その彼に、友人たちが続けて言った。


「いや、別に寝ること自体を責めてる訳じゃなくてだな……」


「いびきかくんじゃねぇって言ってんだよ。大体お前、毎回成績危ないくせして……」


「まぁまぁ。そこまでにしてくれや」


 別れ道に差し掛かり、彰は立ち止まって友人たちの会話……というか文句に割り込んだ。分かれ道に差し掛かり、その一方に立ちながら友人達に言う。


「んじゃ、また明日! じゃあな!」


「おう!」


「明日な!」


 彰は友人達と別れると、携帯を取り出した。ピカピカとランプが光っていたので確認してみると、メールが届いていた。内容を見て、思わず彰は小さく笑ってしまった。


『風邪引かなかった?』


「ったく、お前まで俺をバカ呼ばわりする気かよ……」


 と言いつつ、彰の表情に怒りはない。このメールを送信した相手に、そのような意図がないことは十分わかっているからだ。


 相手に『大丈夫だ。心配すんな』と返信して携帯を閉じると、彰は肩のバッグをかけ直した。


「さって、と。夜の仕事に間に合うように、俺も早く帰りますか」


 と、彰……またの名を“タイガ”は家に向かって再び歩き始めた。




「バイバイ、叶」


「うん、じゃあね樹理」


 ほぼ同時刻。別の場所にて、こちらも分かれ道で女子高生が互いに別れを告げていた。叶と呼ばれた少女は少し歩いた後、ふと雨降りの空を見上げる。


(……確かに樹理に言われたとおり、雨の日には私は静かになるけど……)


 そこまで考え、叶は表情を曇らせる。


(なんだか今日はそれだけじゃなくて……妙にいやな予感がするのよね……気のせいなら、いいんだけど……)


 そこまで考え、叶は悪い考えを振り払うように頭を振って、歩き始めた。その予感が正しいのか、杞憂に終わるのか。叶……“ノゾミ”はまだ、知らない。




 そして、またもほぼ同時刻、別の場所。数人の少女が話しながら一緒に帰っていた。


「で、うちのリスが最近凶暴でさ~」


「へぇ。なんで?」


「毎年そうなんだけど、ほら、本来この時期って冬篭りのために食料貯めるじゃない?」


「……なるほど。その本能が残ってて、大変なことになってる、と」


「そゆこと。もうご飯あげるたんびに大騒ぎよ」


 と、そこまで話したときに少女の内の一人が唐突に言った。


「あ、そういえば今思い出したんだけどさ、麗」


「ん? なに?」


 きょとんとして振り向いた麗に、友人は意地悪く笑いながら言った。


「なんか最近、仲良くしてる男の子がいるんだって? 彼氏じゃないかって、もっぱらの噂よ?」


「ふえぇ!?」


 それを聞いて、思わず顔を真っ赤にする麗。それを見て、友人たちは皆ニヤニヤと笑いながらいたずらっぽく追求する。


「お? その反応はあながちハズレでもないわね?」


「なになに、どこで入手した目撃情報よ?」


「中庭の木の根元で、一緒に猫と戯れてたって聞いたわよ?」


(み、見られてたんだ……)


「その前に、食堂で見詰め合ってたって聞いたけど」


「あぁ、昼休みいっぱい教室に帰って来なかった日か。通りで……」


(そんな前から!? ていうか反論ができなくなってる!?)


「え? 中睦まじく一緒に食事してたんじゃないの?」


「「マジで!?」」


(しかもなんか盛大な尾ひれがついてる!?)


 麗は大慌てで、三人を止めに入った。


「ちょっと待って! 一緒に食事なんかしたことないからね!?」


「……ってことは、その他は事実なんだ?」


「あぅ……」


 否定したつもりが、意図せずしてその他を肯定してしまっていたことに気付き、麗は小さくうめいた。追い討ちをかけるように、友人たちが次々と質問を仕掛けてくる。


(う~……カナタくん助けて~……)


 涙目になりつつ、友人たちの追及をかわすのに必死になっていた、麗……“ミチル”であった。




 またまたほぼ同時刻、しかし今度は割りと麗の近くの場所。カナタはいつものメンバーの中で唯一、一人で歩いていた。


(う~ん……やっぱりなんか既視感が抜けない……)


 頭にわだかまっている違和感に顔をしかめつつ、カナタは必死に記憶の糸を手繰ろうとする。


(この前の夢みたいに僕自身が見えるような感じじゃなくて、僕が自分で見てるような景色だから、これは“隼人”くんの記憶なんだろうけど……)


 さらに顔をしかめ、頭痛を感じたように頭を押さえた。


(どうしても思い出せない……しかもこれは、靄と言うよりは、鍵がかかっているような……)


 ズキッ!!


「痛っ……!」


 無理やり思い出そうとした瞬間、今度は本当に頭に小さく鋭い痛みが走り、思わずカナタは立ち止まってブロック塀に手を突いた。


(痛い……くっ……!)


 痛みは断続的にカナタを苛み、カナタはそのたびに苦悶する。しかも、


(マズイ……どんどん……激しくなって……!)


 痛みは激しさを増し、ついにカナタは小さく悲鳴を上げた。


「っく、ぐあああぁぁぁ!!!」


 膝を突き、苦しむカナタ。あまりの痛みに呻くカナタは、断続的な痛みの合間に、途切れ途切れの淡い情景を見た。




 真っ暗闇の中で、飛び交う無数の美しい光。その中心でカナタは、自分の向かいに立つ人物に手を伸ばし、何かを言っている。


『……は…か……………え……あ…………み……ん……』


 情景自体がぼんやりとしているため、相手の性別も表情も判別できない。が、カナタの言葉を聴いて相手は小さく震え、しばらくして言葉を返してきた。


『…たし……ぞ…は…………』


 相手が何かを言っている。が、次第に頭痛が激しさを増し、聞き取ることができない。そして次第に、情景は痛みに塗り潰されていき……




「…な……ん……かな…く…!………なた……!」




「……っはぁ!!」


 一瞬の衝撃の後、今までの頭痛が嘘のようになくなった。朦朧とする意識の中で、カナタは荒い息を吐き続け、気を静めようとする。頭を振って意識をはっきりさせようとしていると、ふと誰かに肩を揺さぶられていることに気付いた。そちらを振り向くと……


「カナタくん!? だいじょうぶ!?」


 血相を変えてカナタに呼びかける麗がいた。


「あ、あぁ、麗さん……うん、だいじょうぶ……」


「大丈夫じゃないでしょ!? すごく苦しそうだったよ!?」


「うん……苦しかったけど……もう、大丈夫だよ……」


「そう……? ならいいけど」


 と、まだ心配そうながらも納得した麗は、カナタを助け起こした。


「友達と別れて歩いてたら叫び声が聞こえたから、びっくりしたよ。それにしても突然倒れるなんて……何かあったの?」


「……あったと言えばあった……のかな?」


 ついさっき自分に起こったできごとを思い返し、頭の中を探るようにしながらゆっくりと話し始めた。


「今朝、僕が雨を見て何かを“視た”でしょ? どうも、それとは違う景色みたいなんだけど……」


 と、いったん言葉を切り、頭の中を整理するようにしながら話し続けた。


「真っ暗な中で……光が、たくさん……その中で、僕と……誰かが……向かい合って……何かを、話して……」


「……会話の、内容は?」


「……途切れ途切れで、内容までは……でも、僕が誰かに、何かを呼びかけて……と言うより、訴えているような……そこで、ビジョンが途切れて……で、今に至る、って感じ」


「なるほど……」


 麗はカナタの言葉に頷き、そして小さく微笑んだ。


「まぁ何にしても、怪我したとかそういう話じゃなくて安心したよ」


「……心配かけたみたいで、ごめんね」


 カナタが謝ると、麗は首を振った。


「ううん。じゃあ、行こうか」


 そしてカナタは頷き、麗と並んで歩き始める。


 自身に新たに現れたものに、困惑を残したまま。




 暗がりの中、パソコンのモニターの前で、男はキーボードをタイピングしながら、ブツブツと何かを呟いていた。


「タイプ09は外見を似せることに特化しすぎて戦闘能力が低く……13は記憶の収集を主目的としているためやや攻撃力に難あり……やはり04辺りが一番バランスがとれていたか……」


 と、そこまで言ったところで男はタイピングの手を止め、別のデータをモニター上に表示させた。


「だとすれば……やはりこの05改をぶつけるのが正解か……ちょうどよく放っておいたのが良い方に転がったな……」


 言って男は、ニヤリと口角を吊り上げた。


「貴重なデータが、取れそうだ……」

 今回はここまでです。あんまり物語が進んだ感じがありませんが……しかも十七話が前置きの前置きみたいになっちゃったし……。


 今回、このシリーズではじめてタイトルの漢字二つが重複しています。これは意図的なもので、続き物のお話である、ということを示しています。……いえ、連載である以上続き物なのは当たり前なのですが……今までの話以上に、密接に関わっている、と考えていただければ。


 今回の一連の話……私は“降雨編”と呼んでいますが……基本的には次回で終わる予定です。が、残りの降雨編は戦闘シーンがほとんどを占めているので、それによってはまた長くなるかもしれません。


 ともかく。次回のお話は、ちょっと書くのが辛い話です。でもこれは、彼らが人を襲う怪物の存在する世界に身を置いている以上、避けては通れない道です。……それが、戦いなのですから。


 ここでちょっと最近思ったことを。この“血色”、サブタイトルは必ず漢字四文字にしようと決めているんですが……なんか最近、どっかの宇宙飛行士ライダーみたいだな、とか思われてきたり……まぁ、思っただけなんですが。


 ここからは宣伝です。このサイトで、別の一時創作“ある日ある時、ある世界で”を掲載しました。もしよければそちらも読んでいただければ嬉しいです。ていうかどうもPVがまったく増えないと思ったら、宣伝をどこにもしていなかったという……そら増える訳ねぇわ。


 今回はこの辺りで。では、次でもお会いできることを願いまして。




 なんか最近、全体的に出番がミチルに喰われてきてるぞ……ノゾミ……

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