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十六話 戦士休息

 20日ぶりくらいで投稿できました。……やっぱりちょっと遅めになるなぁ……


 さておき。どうぞ。

「リチウムが赤、ナトリウムが黄色、カリウムが、え〜と……」


「紫。いい加減覚えなさいよ」


「分かってるって。で、銅が青緑で……」


 ぶつぶつ呟きながら歩くタイガを見て、ノゾミは溜め息を吐いた。時刻は深夜。夜の巡回の時間である。


「あんた、この前カナタにミッチリ教わってたじゃない。もう忘れたわけ?」


「るせぇな。確かに教わったけど、語呂合わせだと分からなくなんだよ。普通に暗記した方が速くねぇか?」


「そういうセリフは、周期表覚えてから言いなさい」


「ぐ……」


 ノゾミにバッサリと切り捨てられ、ぐうの音も出ないタイガ。そんなことを話しながら、二人は夜の町を歩いていく。




 一方その頃。カナタ&ミチルは……


「鉄鉱石の輸出が一番多いのがブラジルで、二位がオーストラリアで……」


「輸入の一位が中国で、二位が日本、と。よし、大丈夫そうだね」


 こちらは地理。タイガとミチルのペアとは違い、こちらはスムーズに掛け合いを進めている。


「学校と学年が同じだと、こういう事ができるから便利だよね」


「うん。特に私は年上の人と組むことが多かったから、今までこういう風な勉強はできなくて……」


「あれ? タイガくん達と組んだりはしなかったの?」


「その場合、タイガくんの勉強にかかりきりになっちゃうから……」


「……なるほど……」


 その様子が容易に想像できて、カナタは小さく笑う。それを見てミチルも笑い、二人はまた互いに復習しながら夜の町を歩いていった。




 そんなことを繰り返す内に瞬く間に時は過ぎ、そしてテスト明けのある日。


「温泉に行こう!」


 唐突にタイガが言い出し、カナタ他、いつものメンバーは目が点になった。


「……突然何言ってんのよ、あんた」


「いや、実はさ……」


 と、理由を話し始めるタイガ。それによると、友人が温泉のチケットを持っていたのだが行く機会がなく、さらに有効期限も近いということでタイガに譲ったのだという。


「で、ちょうどよく四枚あったから、お前らを誘おうと思ったわけだ。試験も終わったし、良いだろ?」


 言われ、三人は顔を見合わせる。代表して、カナタが返した。


「そりゃ行きたいけど……夜の仕事はどうするの?」


「もちろん出る。だから、午前中から昼までにかけて楽しもうかな、と思ってさ」


「なら良いんじゃない?」


「……そうね。じゃあ」


 ということで翌日、見回りが終わったら家に帰って準備をし、再び合流することになった。




 運良くと言うかなんというか夜の見回りにも妖獣は出現することなく、無事に待ち合わせ場所に集合できた。


「よっしゃ、行こうぜ!」


 タイガの号令で四人は歩き出す。途中バスに乗ってしばらく歩き、ようやく辿り着いたのは和風の温泉施設だった。入り口を入ると飲食用のブースがあり、奥に入ると男湯、女湯ののれんが下がっていた。


「じゃ、どれくらいで待ち合わせる?」


「一時間半くらいで良いわよ。ちょうどよく昼頃になるし。どう、ミチル?」


「うん、それぐらいが妥当だと思うよ」


 ということで二手に別れ、それぞれの性別の風呂に入っていった。




「痛ててて。やっぱ小さくても傷は沁みるな……」


 カナタと共に露天風呂に入ると、タイガは痛そうに小さく呟いた。それにカナタも同意し、痛そうに顔を歪める。


「そうだね。まぁ戦っている以上、怪我するのは当然なんだけど……痛たたた」


 二人の引き締まった体には、あちこちに小さな傷がたくさんある。それら全てが小さいながらも痛みをもって自己主張してくるのだ。二人は終始痛がりつつ、温泉で体を癒した。




 体を洗い終わった後、タイガがサウナに入ろうと提案してきた。


「どっちが長く入ってられるか勝負しようぜ。負けた方が勝った方にコーヒー牛乳奢りな」


「良いよ、やろうか」


 ニヤリと笑って言ったタイガに応じ、カナタも頷いて笑った。二人揃ってサウナに入っていく。




 十五分後。


「ぶはぁ!! ……ヤベ、無理し過ぎた……クラクラする……」


 ゼイゼイ息を切らしながら浴室内のベンチに座り、タイガはサウナのドアを振り返った。


「カナタの奴はケロッとしてやがったし……どんな感覚してんだよ……」


 ちなみにカナタはその後もなかなかサウナから出て来ず、心配に(かつ寂しく)なったタイガが呼びに行くまで入っていた……。




 一方そのころ、場所を変えて女性陣は。


「痛い……」


「あはは。そりゃまぁ、傷に塩摩り込んでる訳だからね……」


「……何でもないみたいに言ってるつもりでしょうけど、涙目になってるわよ、ミチル」


「うぅ、バレたか……はい、痛いです……」

 

 塩サウナに入ったものの、傷に沁みて泣きそうになっていた。


「まったく、こんなことなら入るんじゃなかったわ……」


「仕方ないよ。入り口に『ここに入れば一瞬で傷んでいたお肌が蘇ります!』って書かれちゃ……」


「……そうよね……私達って日常的に夜更かししてるから、肌が荒れるのは宿命みたいなものだし……」


 ノゾミが呟くのに合わせて二人は顔を見合わせ、同時に溜め息を吐く。その後も二人でしばらく頑張ってはいたが、じきに痛みに耐えかね、すごすごと塩サウナから出てきた。




 次にノゾミとミチルが向かったのは、洗い場だった。


「ところでノゾミちゃん、今何時? 私今メガネしてないから、周りよく見えなくて……」


「うん、えっと……十一時十分くらい。まだのんびりできるわね」


 ホッとした二人は、先ほど自らの体に摩り込んだ塩を洗い流すように、丁寧に体を洗っていく。洗い終わった後、二人は今度はオーソドックスに、露天風呂へと向かった。揃って浸かると、満足げに息を吐く。


「ふぅ……なんだか、すごく安心するね」


「そうね……私たちって、基本短い睡眠しか取れないから、リフレッシュの方法ってお風呂くらいしかないのよね……」


 ノゾミが安らいだ表情を浮かべるのを見て、ミチルは安堵したように頬を緩めた。


「……良かった」


「ん? なに?」


 小さくミチルが呟いた言葉が聞こえたようで、ノゾミが聞き返してくる。


「……“前の”カナタくんがいなくなってから、ノゾミちゃん、ずっと悲しそうだったから……“今”のカナタくんが帰ってきてからも、塞ぎ込んでることが多かったし……」


「…………」


 しみじみと呟くミチルに、しばらくノゾミは反応しなかった。が、やがて空を見上げて自嘲するように小さく笑った。


「……そんなに酷かったんだ、私……随分心配かけちゃって、ごめんね……」


「大丈夫だよ。……でも、辛いこと多くて、大変だよね……」


「……うん」


 その言葉が、意外なほどすんなりと口から出た。が、ノゾミはまた小さく、しかし今度は晴れ晴れとした口調で言った。


「でも、もう大丈夫。もちろん辛さが消えた訳じゃないけど……この前の事で改めて分かった。“私の”カナタはちゃんと生きてて、この世に存在する。それが分かったから……」


 そこで言葉を切り、ノゾミは今度は声を出して笑った。


「不思議ね。こんなことをすんなりと言えるなんて……温泉の魔法かしら」


 ノゾミの言葉を聞いたミチルもクスクスと笑い、同意した。


「タイガくんに感謝しないとね……あ〜! 気持ちいい〜!」


 そう言って、気持ち良さげに伸びをするミチル。


「確かにね。……それにしても……」


 とノゾミは呟きながら、ミチルを見つめた。正確には、彼女のある一点を。


「な、なに?」


「……相変わらず大きいわね……」


「えぇ!?」


 どこの部分を見られているか気付き、ミチルが顔を赤らめる。それを横目にしつつ、ノゾミは嘆息した。


「まったく、似たような生活してるくせになんでこんなに差が出るんだか……」


「ノ、ノゾミちゃんだって大きいじゃない!」


「そりゃまぁ、平均よりは少し大きいけど……比較対象がミチルだとへこむのよ……その上体重は同じと来てるし……」


「そ、そんなこと私に言われても〜!」


 言われ続けたことによる恥ずかしさで涙目になっているミチルを見て、しかしノゾミは不服そうな表情で立ち上がり、ミチルに近付いた。


「ノ、ノゾミちゃん……?」


 身の危険を感じたか、ミチルはノゾミから距離を取ろうとした。が、時既に遅く。


「なんかイラッときた! 揉んでやる!」


「え、ちょっと待っ……ひやあぁぁぁ!!!」


 ミチルのかん高い悲鳴が、女湯に響き渡ったのであった。




 一方そのころ、場所を戻して男湯では。


「お前、どんだけ暑さに強いんだよ……」


「大したことないよ。普通だと思うけど……」


「いや、二十分以上サウナでじっとしてて平気とか、普通どころかもはや異常だから……」


 タイガは呆れたように呟くが、カナタはまだピンと来ていないようで首を傾げている。そんなカナタの様子を見て、タイガは小さく笑った。


「……ま、多少は良い休息になったようで何よりだ」


「うん、すごく癒されるよ。ありがとう、誘ってくれて」


「良いさ。最近大変なことが多かったからな……」


 タイガがふと呟くと、カナタも少し俯いて言った。


「……うん、本当に。分からない事は増える一方で、減る気配は一向に無いし……」


「もどかしいよな……理由があるのか無いのかも分からない事象に遭遇して、巻き込まれて……それでも戦い続けなきゃならない、ってのは……」


「でも、悪いことばかりでもなかったと思うんだ」


 とカナタは、空を見上げて言った。


「今まで一緒に戦ってきて、タイガくん達がどんなに頼りになるか、どんなに信頼できるか、っていうのが分かったし。自分自身の事すら曖昧な、僕だけど……それでも、僕は僕なんだって。ここにいるんだって。そう、証明してくれてる気がするから……」


 カナタの言葉を聞いてタイガは笑いながら答える。


「ったりめーだ。確かにお前は、以前の“カナタ”とは違うが、それがどうした。今まで過ごしてきて、お前が信用できる奴だってのは、皆が分かってる。お前には、たくさんの味方がいるんだ。……ま、言うまでもないとは思うけどな」


 そう言って、タイガは時計を眺めてカナタに言った。


「時間が近いな。そろそろ上がろうぜ」


「うん。……あ、そうそう。約束だからね、コーヒー牛乳奢ってもらうよ」


「わーってるって」


 そんな軽口を叩きながらタイガはカナタの先に立って歩き出し、彼に聞こえないように小さく呟いた。


「……ま、お前がそう奴だって分かったのは模擬戦やった時……おもいっきりぶつかり合った結果なんだけどな……」



 喧嘩して友情が深まるというのは、案外合っているのかもしれない。そんな事を思ったタイガだった。




 一方。またまた場所を戻して女性陣は。


「ノゾミちゃんの髪、まっすぐでサラサラだね」


「ちょっと洗う時、面倒なんだけどね」


 早めに上がり、男性陣を待たせないように着替えを始めていた。今はノゾミの長い髪を、ミチルが後ろからブラッシングしている。


「良いじゃない。綺麗だよ?」


「ありがと。……っと、それで良いわ。ありがとうね、ミチル」


「どういたしまして」


 髪の手入れを終え、二人はテキパキと服を身に付けていく。


「あぁ、なんか体ほぐれたせいか眠くなってきた……」


「さっき見たら、ここ休憩室あったよ。仕事までまだ時間あるし、お昼ご飯食べたら少し寝る?」


「そうしようかな……」


 そんなことを言い合いながらも着替えを終えた二人は、忘れ物がないか確認し、最後にミチルがメガネをかけて待ち合わせ場所に向かった。






 おまけ。カナタ達が合流した後の昼食中の一幕。


「へぇ、サウナでそんなに長く?」


「しかも一番上の段だぜ? いくら長く入れるったって、普通は二十分と持たねぇってのに……」


「すごいね、カナタくん」


「……ミチルさん……それ、まだラー油入れるの……?」


「うん。まだ辛さが足りなくて」


「……なぁノゾミ。俺の記憶が正しければ、あの麻婆豆腐は超激辛バージョンだったはずなんだが……」


「あんたはおかしくないわよタイガ……追加投入した大量のラー油の赤さが際立って、もはや毒々しいレベルの色になってるけど……」


「平然と食うとか、ミチル……お前の味覚って一体……」


「?」

 はい、今回はここまでです。ちょっとシリアスをお休みして、コメディチックなお話でした。ま、それぞれポロポロと心中を吐露してくれてますが。


 本当はテスト編にしようかと思ったんですが、なんか代わり映えしなさそうだったのでやめました。で、その代わりに定番(?)の温泉話です。ま、案外サラッと終わってしまったような気がしないでもないですが、私は書いてて割りと楽しかったです。そのせいか筆が進みまくり、いつもよりちょっと長くなる始末……いえ、特に何か後悔している訳ではありませんが。


 ちなみにこの話のラストで凄まじい辛党だと判明したミチルでしたが、私も同じく麻婆豆腐にはこれでもかというくらいラー油をぶち込みます(笑)。


 ここで嬉しい報告が。この後書きを書いてる時点で、PVがついに2000越えました! ユニークも500越えです!


 実はまだあって……これだけでも嬉しいのに、ふと気付いたらお気に入り登録が4件に増えてました! よっしゃあぁぁぁ! 目に見える形で読者がいるというのを感じると、とてつもなく嬉しいですね!


 これからも頑張ります。……今回はここで。では、次でもお会いできることを願いまして。

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