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十五話 困苦・不安

 また一月ぶり位の更新になってしまいました……ごめんなさい。


 頑張りましたので、どうぞ!

「おらぁ!!!」


 猛スピードで妖獣に接近するカナタだったが、もがき苦しんでいた妖獣は多少持ち直し、何とか突き出された武具には対応して見せた。


「ふん、やっぱりこの程度じゃ無理か……だったら……」


 呟くと、カナタは突然固まっている三人に振り返った。


「おい、いつまで止まってんだよ! とっとと手伝え!」


 怒鳴られた三人は一瞬ビクッと体を震わせた後に顔を見合わせ、代表するようにタイガが恐る恐る言った。


「お前……カナタ、か……?」


「あぁ!? ったりめぇ……でもねぇか。お前らがよく知ってるほうの“カナタ”だ!! いいから手伝え、俺だけじゃどうにもできねぇ!!」


「おっ、おう!!」


 再度隼人に怒鳴られ、タイガとミチルは戸惑いながらも自身の武具を構えた。ノゾミも、若干遅れ、辛そうな表情ながらも武具を構えた。


「さて……おらよ!!」


 隼人は密着していた妖獣を蹴り飛ばすと、タイガの隣に並んだ。


「こうして組むのも久しぶりだな……行くぜ! ちゃんとついて来いよ!」


「そりゃこっちのセリフだ! いきなり出てきて好き勝手言いやがって……後でキッチリ説明してもらうぞ!」


「できたらな!」


 そして二人は頷き合うと、それぞれの武具を構えて同時に走り出した。


「てやっ!!」


 まずはタイガが鎌を振るって妖獣の足下を狙うが、上空に軽く飛んでかわされる。が、そのかわした先には既にミチルの祓光射が回り込んでおり、妖獣は直撃を喰らう。


「ガルウ!? ……アァ!!」


 なんとか着地した妖獣は、真っ先に自分を攻撃したミチルに向かって駆け出した。……が、それすらも四人の予測通り。


「とりゃあ!」


「せぁっ!」


 上空からはノゾミが、背後からは隼人が襲いかかり、妖獣を同時に切り裂いた。


「ガウゥ!?」


 そしてトドメとばかりにタイガが鎌を降り下ろす。


「はぁっ!!」


「ルゥッ!!」


 が、かわされ、妖獣はそのまま……逃走した。


「なっ!? 待ちやがれ、テメエ!!」


 隼人が追い縋……ろうとしたが、


「ぐぅっ!?」


 急に胸を掴んで苦しみ出し、ノゾミ達三人は立ち止まらざるを得なくなった。


「おい、どうした!?」


「カナタくん、大丈夫!?」


「隼人っ!!」


 三人が心配そうに声を掛け続ける。ノゾミに至っては隼人を本名で読んでしまっているが、そのことにすら誰も気付いていなかった。そうこうしている間にも隼人の苦しみ方は激しさを増し、それに比例して彼の纏う魔洸もどんどん薄くなっていく。


「がふっ、うぅ……悪ぃ、もう時間切れっぽい……あぁっ!!」


「待てよ! また俺達の前からいなくなるつもりか!? おい!」


 タイガが隼人の胸ぐらを掴み上げて激しく言う。が、隼人はそれをなだめるように、苦しげながらも返した。


「バカが……ノゾミと同じこと言ってんじゃねぇよ……っぐぁ!! ……いいか、これだけは……覚えとけよ……」


 隼人は途切れ途切れに、タイガ達三人の顔を見ながら言った。


「俺は、どこにも行きゃしねえ……グハッ! ……いつだって、お前らの……側に、いる……っく……姿が見えないだけで、な……っあぁぁ!」


 カナタが苦しげに叫ぶと、それまで俯いていたノゾミは、涙ながらに訴えた。


「隼人! ……例えそうでも……心は繋がっているとしても……やっぱり見える形で側にいてくれないのは、不安だし、……辛いのよ……っ!」


 そんなノゾミに、タイガもミチルも掛ける言葉がない。が、隼人は彼女に手を伸ばし、頬を撫でながら苦しげながらも微笑んでみせた。


「ごめんな、ノゾミ……でも、心配するな。っ! くぅ……俺は必ず、こんな形じゃなく、お前と……会えるように、なってみせる……そのために、頼みたい事が一つあるんだ」


 隼人の纏う魔洸はもう消えかけている。おそらく次の言葉が、今回聞ける彼の最後の言葉になるだろう。それを察し、三人は何も言わずに耳を傾ける。


「……こいつを……俺の中にいるもう一人の“カナタ”を、……ぐ……恨まないで、やってくれ……。こいつは、巻き込まれただけなんだ……アイツ、に……がふっ!!」


 そして隼人はもう一言ポツリと呟き、三人が見守る中、気を失った。


「……また、会おうな……」




「……戻ってきたか」


 壁際に設置されているレバーが上がったのを見て、白衣の男はそう呟いた。すぐさま廊下を歩いて檻の前まで行くと、白衣のポケットから何かを取り出した。ガラス製と思しき試験管に、USBメモリが刺さったようなものだ。それぞれのパーツの接合部に分割線があるところを見ると、着脱可能になっているようだ。


 男が器具の試験管の方を差し出すと、妖獣はその中に、自分の口の中からドロリとした半透明の何かを吐き出した。それを受け取った男は即座にパソコンのあった部屋に戻ると、試験管からUSBメモリを取り外し、接続した。そしてパソコンに表示された情報を、ざっと見る。


「……よし、これだけあれば十分だ」


 男は満足げに呟くと、一心不乱に、今度はじっくりとモニターに映し出されるデータを読み解き始めた。




 カナタが意識を取り戻した頃には、四人はとうに隔世から離脱していた。路上に寝転んでいたカナタが体を起こすと、心配そうに彼を見つめていた三人が同時に詰め寄った。


「「「カナタ(くん)!? 大丈夫!?」」」


「うわっ!? わわわっ!?」


 突然大声で迫られて驚き、カナタは思わず後ずさった。それを見て、タイガはふと疑念を抱いた。


「なぁ、カナタ。お前、俺達のこと……分かるか?」


 そう言われて、ノゾミもミチルも思い出す。一瞬だったが、カナタは確かに妖獣に“喰われて”いたように見えた。ならば、記憶に何らかの欠損が生じている可能性がある。


「タイガくんに、ミチルさん。アスノさん……だよね? ……大丈夫。他に、忘れてることもなさそう」


 それを聞いて、三人はホッとした表情で息を吐いた。しかしカナタが暗い表情で俯いていたので、タイガはどうしたのか尋ねた。


「……今回は、ぼんやりと覚えてるんだ。……僕が、僕じゃなくなっていたこと……」


 それを聞いて、三人は同時に息を呑む。が、カナタはそれに気付いていない様子で呟き続けた。


「あれが、“元のカナタ”……僕の、別人格……“良く知ってるほう”、か……じゃあ、僕は……」


 しばらくそうしていたが、ぶつぶつと呟き続けるカナタを見かね、ちょうど空も白み始めていたのでタイガがその日はもう解散することを提案し、三人は承諾した。




 カナタはそれ以降も自分が豹変した事が気になり、授業にも集中する事ができなかった。そうこうしている内に昼休みになり、カナタは気を落ち着かせるために中庭に向かった。定位置である木の根本まで歩き、腰を下ろして一息つく。


「ふぅ……やれやれ」


 落ち着いて一人になると、つい考えてしまう。自分について。


(“僕は僕だ、ハルカ カナタだ”……なんて、模擬戦の時タイガくんには言ったくせに……結局、一番気にしてるのは僕なのかもな……)


 そう思いながらカナタはふと空を見上げる。カナタの沈んだ気持ちとは裏腹に、見事な青空が広がっている。


(……そういえば、僕が最初にアスノさんに会った日も、昼間はこんなふうに晴れてたんだよな……で、夕方になって大雨が降って……)


 公園のブランコで、ノゾミと出会った。


(あの時から、僕の世界は変わった……僕自身も、“普通”の人間では、なくなった……)


 「……本当に、僕って何なんだろう……」


「君は君だと思うよ。カナタくんは、ちゃんとここにいる」


「そうなのかなぁ……って、えっ!?」


 何の気なしに呟いた独り言になぜか返事が返ってきて、カナタは驚いて飛び起きた。その視線の先にいたのは……


「ミ……じゃなくて、麗さん!?」


 先日同じ学校だと判明した麗が目の前にいた。しかし麗は構わず、驚いた様子のカナタの隣に腰掛け、さらに続けた。


「確かに、今のカナタくんには分からないことが多いのも事実だよ? でも、その答えが何であれ、今ここにいるカナタくんが消えてなくなってしまう訳じゃないよ。君は今、確かに私の目の前にいる。確かに、存在している。だから、あまり悩まないで」


 真剣な表情で、カナタの目を見て言うミチル。その視線を受けてカナタは暫し俯き、小さく頷いてミチルに微笑しながら向き直った。


「……そうだ、ね。僕は、僕自身のことが良く分からない。それはやっぱり、不安だけど……それでも僕は、ここにいる。……ありがとう、麗さん」


「どういたしまして」


 ミチルも小さく笑う。と、二人のいるそこに、闖入者があった。


「うにゃあ!!」


「きゃっ!?」


 突然自分の間近で発せられた声に驚くミチル。カナタが声のした方を除きこむと……


「……ミケか。驚かさないでよ」


「にゃ!」


 三毛猫のミケがいた。にゃあにゃあ鳴きながら、カナタの足元で丸くなる。


「にゃ〜ん♪」


「今日も良い毛並みだね、ミケ」


 カナタがミケを撫でていると、ふと横から視線を感じた気がした。そこでその視線の方を向くと、すごく羨ましそうにしているミチルがいた。


「……その猫、カナタくんの飼い猫?」


「まさか。学校に住み着いてるみたいなんだけど、僕がここに来るとなぜか寄ってくるんだ。いつのまにか懐かれちゃったみたいでさ」


「ふーん……」


「……撫でてみる?」


「良いの!?」


 試しに言ってみた言葉にミチルが思いの外大きく反応して身を乗り出して来たのでカナタは驚いて仰け反ったが、言葉を返した。


「そ、そりゃもちろん。ミケは僕のペットって訳じゃないんだから」


「じゃ、じゃあ……」


 と言って、ミチルは恐る恐るミケの背中に触れる。小さく身動ぎしたものの抵抗しないミケを見て、ミチルはそっと背中を撫でた。すると、気持ち良さげな声を出すミケ。


「か、可愛い……!」


 ミケの反応を見て嬉しそうなミチル。少々オーバーな気がしたので訳を聞いてみると、


「私たち殲士は、基本的に動物には避けられるの。体内の魔洸を、本能で感じられるんだろうね。でも、このコは大丈夫みたいだから、嬉しくて……」


 という返事が返ってきた。言われてみれば確かに、と納得するカナタ。ミケは、毛を少し逆立てることこそすれ、カナタを避けることは絶対にない。それに気付いて、カナタはなんだかミケにも励まされたようで嬉しくなってミケを撫でた。そして結局、昼休み終了の予鈴が鳴るまで、カナタはミチルと共にミケを可愛がっていたのだった。

 今回はここまでです。隼人くん、またも休眠。次はいつ出てくることやら……私にも分かりません。結構自由に動いてくれやがるので、あいつら……。


 今回の話では、色々なキャラが辛い思いをしています。でも、普通人間てこんなもんだと思うんですよね。どう折り合いをつけようと、不安なもんは不安だし、辛いもんは辛い! それを、自分の心の中でどうやってケリをつけさせるか……その違いを、これから先描写していけたらな、と思っています。


 ここからは宣伝です。超不安定なサイト、アットノベルスにおいて、二次創作“ある日ある時、ある世界で”の掲載を開始しました。とりあえず第一話は武装神姫の世界です。よろしければそちらも。ログインできなくても、読むことはできますから。


 今回はこの辺で。では、次でもお会いできることを願いまして。

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