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十三話 不測遭遇

 少々遅れてしまいましたが、第十三話です。では、どうぞ。

 夜になり、カナタは町を歩き回っていた。ちなみに今回は、今までとは別の人間と組んだ時の相性を見るという事で、タイガとノゾミではなくミチルと二人一組で行動している。


 時刻は午前二時。夜もふけてきて家の電灯は消え、道を照らすのは街灯の明かりのみとなっている。


「まだ、変な匂いはしない?」


 周囲を警戒しつつ歩くカナタに、同じく警戒しながらミチルが聞く。


「うん、ぜんぜん。この辺りにはいないのかもね」


「だと良いんだけど。でも、これから危ない時間帯だから、気を抜かないようにしようね」


 ミチルの言葉に頷くカナタ。妖獣は基本的に夜行性であり、現在時刻、つまり深夜二時〜四時ごろに活発に活動する。その事を踏まえ、二人は先に進んだ。




 カナタが動きを止めたのは、それから二十分ほど経ったころだった。その様子に気付き、ミチルが声をかける。


「匂ったの?」


「うん、でも……今までとはどこか違うような……」


 歯切れ悪く言いつつ歩くカナタに首を傾げつつも、ミチルもその匂いの本に向かって歩き始めた。




「もうすぐ……あの角を曲がった辺り……いた!」


 その場所には、割合すぐに辿り着いた。一瞬だけ互いに顔を見合わせて頷きあい、隔世に飛び込む。




憶喰おくぐいだね……見ての通り不定形タイプだから、気を付けて」


 ミチルが言い、カナタが頷いた事を確認すると、背負っていた弓を袋から出して構えた。


 妖獣には二つの種類がいる。通常現れるのは、肉喰にくぐいと呼ばれるタイプで、文字通り生物の肉体を喰らう。通常巨体であり、何らかの野生動物に似ていることが多い。


 そしてもう一つは、憶喰おくぐいと呼ばれるタイプだ。これは肉喰とは違い、人間の脳に一時的に取りついてその人間の記憶を喰らう。喰われた人間は記憶喪失となるが、肉体には一切傷は残らない。肉喰と違いその姿のほとんどは不定形である。


憶喰の厄介なところは、その不定形だという点だ。通常殲士が妖獣と戦うとき、相手の攻撃を読むために相手の視線や攻撃手段を観察し、予測する。そしてそれによって生まれた隙を見逃さず、仕留める。しかし憶喰の場合、その対処方法のほぼ全てが封じられてしまい、対応が困難になるのだ。




 今回カナタ達が見つけたのは、地面にべったりとへばりつく様にわだかまっている、全長2メートル程の妖獣だった。全体的に、灰色のスライムのような印象がある。


「はっ!」


 弓を構えたミチルが手に魔洸の矢を出現させて妖獣に撃って牽制し、その間にカナタが武具を起動させながら突っ込む。妖獣はミチルの射撃を避け、接近してきていたカナタに向けて自身の体の一部を触手状に変化させ、鞭のようにして足元を狙って襲う。


「うわ!? ……っと!」


 間一髪上に飛んで避けたカナタは、お返しとばかりに右の刃を振うが避けられ、妖獣は刃を振りぬいた状態で無防備となったカナタに襲い掛かるとするが、今度はミチルの放った祓光の矢が妖獣に直撃して動けず、その間にカナタは距離をとった。


「ありがとう、ミチルさん!」


「どういたしまして! ……あの大きさのスライムタイプを仕留めるには、体の中心にある核を直接攻撃するしかないの! 私がなるべく周りを減らすから、核が露出したら攻撃して!」


「分かった!」


 すばやく言葉を交わすと、二人は同時に動いた。こちらに接近してきていた妖獣を魔洸を纏わせた足で蹴り飛ばし、ミチルがいる場所とは反対方向に跳ぶ。


祓光射しこうしゃ!!!」


 同時にミチルの準備も整い、生成された複数の祓光の矢が妖獣に襲い掛かった。より近い位置にいたカナタに気をとられていたのか、妖獣はミチルの矢に気付かずにそのすべての直撃を受けた。それによって妖獣の体の部分が削れて核が露出し、それを確認したカナタは核に向かって飛び掛かった。


「滅光!!!」


 叫ぶと、カナタは両手の刃で核を思い切り突き刺した。核と共に妖獣の胴体部分もしばらく痙攣していたがじきに治まり、周りに飛散していた妖獣の体の一部は青い粒子に分解され、消えていった。しかしカナタの手元の刃には、妖獣の核がまだ残っていた。それをふと見たカナタはその正体に気付き、思わず顔をしかめた。


「……これ、眼球……?」


 そう。カナタの持っていた妖獣の核は、生物の眼球だったのだ。カナタは気味悪く思いながらもさらに観察しようとしたが、その前に核は青い粒子へと分解されて消えてしまった。


「そう。その眼球が、憶喰の核。その眼球で外界を認識しているの」


 そう言いながら近づいてきたミチルにカナタが振り向き、ミチルは続けた。


「そして周りのゲル状の胴体が、憶喰の喰った記憶。憶喰のサイズが大きいほど、その憶喰の喰った記憶が多いということを意味する。そしてこの憶喰の厄介なところは、サイズが大きくなればなるほど核が増加するということなの。つまりそれだけ死角も少なくなり、知恵もつけている」


「……なんて面倒な……」


 思わずカナタは呟いてしまった。人の記憶を喰えば喰うほど強くなるなんて、そんなもの対処のしようがないではないかと。しかしそんなカナタに、ミチルは安心させるように言った。


「確かに、憶喰に喰われてしまった人の記憶は何をしようと戻らないし、厄介なことには変わりないけど、幸いなことに個体数はそれほど多くないの。だからそれほど悲観しなくても大丈夫だよ」


「……うん、ありがとう」


 ミチルの言葉を聞いて、カナタはようやくホッとしたように、強張っていた肩の力を抜いた。




 それからしばらく二人は町を歩き回ったが妖獣は現れず、程なくして夜明けとなったため解散することにした。


「じゃあ、また明日……じゃないか。今日の夜にね」


「うん。また、今夜」


 そう言ってミチルと別れたカナタは、急いで家に戻っていった。家に着くとすぐにスーツを脱いでシャワーを浴び、制服に着替える。朝食は、出かける前に用意しておいたスープと食パンで済ませる。殲士になってからいつも似たようなことをしているので、もう半ば習慣化してしまっている行動だ。


「……よし、準備完了! いってきます!」


 準備しておいた学校のカバンを持ち、誰に向かってか分からない挨拶をして家を出た。




「よっしゃ、終わった〜! カナタ〜! メシ食いに行こうぜ」


「うん、分かった!」


 午前中の授業が終わり、昼休み開始を告げるチャイムが鳴った途端に教室が騒がしくなった。その中に混じり、カナタと裕人も昼食を摂りに食堂へと向かう。


「さて、今日は……おっ! 端っこが空いてるな」


「じゃあ今日は僕が席取っとくよ。僕カレーね」


「よっしゃ、りょ~かい」


 その後数分で裕人が戻ってきたので、二人は向かい合って食事を始める。


「にしても、もうすぐ秋の中間テストか。また勉強すんのにお前に手伝ってもらわんとなぁ……」


「いや、それは構わないけど……悪いけど、今回から泊り込みはできないからね?」


「マジか……」


 カナタの一言を聞いて、裕人は頭を抱えた。カナタはそれを気の毒そうに見る。が、こればかりはできないのだ。殲士になってしまった以上、夜は町を回らなければならない。しかも聞いたところによると、冬に近づいて日照時間が短くなるにつれて、妖獣の活動時間も長くなるらしい。これから先は今まで以上に気合を入れなくてはならないのだ。裕人には悪いが、のんびり勉強している場合ではない。


「……あれ?」


 と、そこまで考えてふと人混みに目をやってカナタは動きを止めた。食堂の喧騒の中に、ありえない人物を見たような気がしたのだ。慌ててもう一度そのあたりに目を凝らすと……


「……い、いた」


 自分の目が間違っていなかったことを確信し、カナタはスプーンを持ったまま硬直した。そのカナタの様子に気付いた裕人が声をかけてくる。


「? どした?」


「うっ、ううん! なんでもないよ!」


 しかし裕人は先ほどカナタが見ていたあたりに目をやると、首を傾げて再度聞いてきた。


「あの女子がどうかしたのか? 確かに可愛い方だが……お前、ああいうのが好みなのかよ?」


「違うよ!? だからなんでもないってば!」


 変なことを言い始めた裕人にしっかりと釘を刺したカナタ。が、その大声に反応したのか二人の視線の先にいた女生徒が振り返り、カナタに視線を固定して硬直した。


 そこにいたのは、気弱そうな雰囲気で、肩にかかるかどうかといった長さの茶色みがかった黒髪の、まん丸のメガネが特徴的な少女……


 夜に別れたばかりの、ミチルだった。




「まさか、こんな偶然があるとは……」


「あ、あはは……」


 食事を終えた後、カナタとノゾミは改めて中庭の木の根本で会っている。ちなみに裕人はここにはいない。次の時間に行われる英語の授業の準備のために、先に教室に帰ると言って別れたのだ。


「カナタくんの魔洸を感じてたから、近くにいるのかな、と思ってはいたんだけど……」


「え゛……」


 予想外なことを聞かされて、カナタは固まってしまった。今まで妖獣の気配はほとんど臭いで感じていたため、同じ殲士の気配を魔洸で感じることができるとは知らなかったのだ。そのカナタの反応を見て、今度はミチルがきょとんとした。


「え……知らなかったの?」


「……うん……」


 恥ずかしそうに呟いたカナタを見て、ミチルはくすりと笑った。それを見てさらに恥ずかしそうに俯くカナタをミチルはおかしそうに見つめていたが、そこで昼休みの終了を告げる予鈴が響いた。


「じゃあ、私はもう行くね。また夜に」


「うん、じゃあね」


 互いに言い合って中庭を離れ、自分たちの教室に向かった。




 カナタが教室の自分の席に戻ると、いきなり隣の席の直子が話しかけてきた。


「キミもなかなか隅に置けないね」


「? なんのこと?」


 カナタは本気で分からなかったのだが、直子はそれを、わかっているとでも言いたげな表情で受け流した。


「中庭で可愛い女子と一緒だったじゃないか」


「!?」


 見られていたことに気付き、カナタはミチルと会う場所を中庭にしたことを後悔した。


「違うよ!? 彼女とはそんな関係じゃないから!! 裕人みたいなこと言わないでよ!?」


「照れるな照れるな」


 言ってもさらにニヤニヤする直子を見て、カナタはさらに否定の言葉を重ねようとしたが、言おうとした瞬間に授業開始のチャイムが鳴り、教室に担当教師が入ってきてタイミングを逃してしまった。直子はそのまま前を向いて授業に集中してしまい、結局それ以上否定することはできなかった。

 はい、ここで今回は終了です。


 やっと憶喰を登場させることができました。実は憶喰は、前々回ぐらいに登場させる予定でした。が、書いているうちにどんどん長くなってしまい、今回の登場となりました。


 でも、もしもこの小説を真剣に読んでくださっている方がいらっしゃるのなら、三話ラストにおいてのノゾミと春樹の会話を読んでずっと「?」と思っていたはずです。十話越しで回収するというのも長すぎる伏線だったかもしれませんが、ようやく回収することができました。まだまだ回収できていない伏線はたくさんありますが、必ず全て回収して見せますので見守っていただけるとありがたいです。


 そしてPVが1100を超えました! ありがとうございます! すごく嬉しいです!


 ユニークアクセスも300越えです! PVと比べると一見少ないように見えますが、私はむしろ嬉しいです。PVとユニークが離れていればいるほど、同じ方に何度も読んで頂けているという事なのですから。日によってはユニーク1でPV50以上、なんて事もあったりして、そのたびに嬉しくて悶絶していました。


 大学が冬休みに入ったので、もしかしたら更新ペースを速められるかもしれません。確約できないのが情けないですが……時間ができてもアットノベルスの方の二次創作にかまけてしまうかもしれませんし。できるだけ頑張ります。


 では、次でもお会いできることを願いまして。

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