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十話 初陣・変化

 一週間以内には投稿できませんでしたが、前回よりはそこそこ早めに投稿できました。では、どうぞ。

 夜。時刻が一時を回った頃に、カナタとタイガ、そしてノゾミは町を歩き回っていた。


「……出ないね」


「ま、その方がいいんだけどな」


 カナタがボソッと呟くと、タイガが苦笑しながらその声に答えた。ちなみに彼ら、見た目は普段着に見えるが、下にしっかりとスーツを着用している。偽装しておかないと、警察官に補導されかねないからだ。いかに魔洸の力を持つとはいえ、本来彼らは日常生活を送っている学生。スーツを着て変な服装で動き回っていると思われるよりは、普段着で歩き回っているほうが、夜遊びしているだけだと誤魔化しやすいからだ。


「この調子で、今日はもう出なければいいんだけど……」


 と、ノゾミが言う。そこで丁度良い機会だと思ったので、カナタは思い切ってノゾミに聞いてみた。


「ねぇ、アスノさん。昔の僕は……どんな風に戦ってたの?」


 その言葉を聞いてノゾミの顔に一瞬痛みが走るが、割とすぐに言葉を返した。


「……彼の戦い方は、とにかく力任せだったわ。でもそれだけじゃなくて、繊細なコントロールも上手だった。ま、ほとんどの場合、敵のど真ん中に突っ込んで行って、まとめて凪ぎ払う。そんな感じかな」


「そっか。真似するのは無理そうだね……」


「戦い方、考えてたの?」


「うん。基本はアスノさんに教えてもらった通りにするとしても、体格が同じなら、取り入れられるところもあるかなって思ったんだけど……やっぱり、そう単純にはいかないか」


「そうだね。彼の戦い方はかなり特殊で無茶だったから……真似するのは、やめたほうがいいと思うよ」


 ノゾミの忠告にしっかりと頷き、カナタはまた周囲を警戒し始めた。それから数時間が経過したが、未だ妖獣は現れない。


「こりゃ、今日は現れないかもな」


「そうだね……ん?」


 タイガに同意したカナタだったが、直後、様子が変わった。それを見て、タイガとノゾミは疑問を感じたら。


「どうした?」


「……なんか、変な匂いがする」


「え? 匂い?」


 カナタの言葉を聞いてタイガもノゾミも鼻に神経を集中させるが、何も感じることができない。


「なんも匂わねえぞ? 気のせいじゃねえの?」


 タイガが懐疑的な表情でカナタに問いかけたが、少しの間を置いて首を振った。


「ううん、匂ってる。これは……あっちかな?」


 そう言ってカナタが歩き始めたので、タイガとノゾミは顔を見合せ、首を傾げながらも後を追った。




「……間違いない。近づいてる」


 どうやら匂いの本に近付いているらしく、カナタの歩調がだんだん速くなってくる。タイガとノゾミもそれについていっていたが、カナタが先に進むにつれてその目付きは鋭くなっている。


「タイガ……」


「ああ、確実に近づいてる。もう少し行ったあたり……」


 タイガがそう言った瞬間、カナタが叫んだ。


「いた! あそこ!」


 カナタが示した先で、色がおかしい世界と怪物が周囲の景色の向こうに透けて見えていた。


 隔世と妖獣だ。


「よし、隔世に誰もいない! チャンスだ!」


 タイガはそう叫んで駆け出し、見える範囲での隔世と現世との境目に魔洸を纏わせた手を突っ込むと、タイガの体が隔世に吸い込まれて向こう側に見えるようになった。


「私達も!」


「う、うん!」


 ノゾミが続いて駆け出したので、カナタも慌ててついていき、見よう見まねで手に魔洸を纏わせて境目に突っ込むと、一瞬の吸い込まれるかのような感覚の後、隔世に侵入した。




 そこにいたのは、両手が鋏のようになっている、巨大な妖獣だった。既にタイガは妖獣の間合いに入っていて、手にした鎌に魔洸を纏わせていた。


「チッ! 流石にデカイだけあって手強いぞ、気をつけろ!」


「「了解!」」


 カナタとノゾミは同時に返し、手にした武具を魔洸で起動させた。


「はっ!」


「てやっ!」


 カナタとノゾミが両方向から同時に仕掛け、妖獣は対応できずに攻撃を食らい、仰け反る。


「おうりゃ!」


「ルウゥ!」


 そこにタイガが鎌を振りかざして追い討ちをかけようとするが妖獣は避け、逆にタイガを返り討ちにしようと手の鋏を突き出す。が、タイガは鎌の柄の部分を地面に立て、魔洸をコーティングして妖獣の鋏の間に置き、攻撃を防ぐ。


「危ねぇな、このやろ!」


 それによって妖獣の動きが止まり、背後ががら空きとなった。


「今だ、仕止めろ!」


 タイガが叫び、背後からカナタとノゾミが同時に襲い掛かる。気づいた妖獣がノゾミの方に向き直って対応したがそのせいで両手が塞がり、無防備になった妖獣にカナタが飛び掛った。


「滅光!!!」


 カナタは叫び、両手の武具に魔洸を集中させ、収斂させる。妖獣が気づいて慌てて対応しようとするが、間に合わない。その表情が恐怖に染まっているようで、カナタは表情を歪めて、小さく呟いた。


「……ごめんね」


 直後、カナタは手にした刃で妖獣の首を掻き切った。三人が距離を取ると妖獣の体がゆっくりと傾いて倒れ、 青い光の粒子へと分解され、空気の中へと消えていった。




「よっしゃ、これでもう今日は大丈夫だな!」


 現世に復活すると既に東の空が白み始めていた。それを見てタイガがそう言い、それを横目で見ていたカナタにノゾミが向き直って言った。


「初陣お疲れさま。なかなか良かったよ」


 その言葉を聞いて、カナタはノゾミに若干疲れたように返した。


「ありがと。もっともたつくかもしれないと思ってたけど、意外と動けるもんだね」


 そこにタイガがやってきて、二人に言った。


「んじゃ、今日はこれで解散しようぜ。また夜に、同じ時間と場所で待ち合わせな」


「わかった」


「うん」


 ということで解散し、カナタは家に帰った。




「うわ、もう6時だよ。ご飯食べたら学校行かないと」


カナタは時計を見て呟き、手早く朝食を済ませると、制服に着替えて家を出た。道中、カナタは欠伸を噛み殺す。


(……眠い……結果的に徹夜したようなもんだからなぁ……)


 などと考えている間にも欠伸が出て、カナタはこのままでは授業まで持たないと思い、学校に着いたらホームルームまで寝ようと決意したのだった。




 同日。今回は寝坊せず遅刻を免れた裕人は、カナタの席を見て驚いた。


「……ありゃ? こいつは珍しい」


 呟くとカナタの方に行こうとしたが、誰かに制服の後ろを引っ張られて止められた。


「止めときなよ。なんだか凄く疲れてるみたいだから」


 振り返った先にいたのは、若干赤みがかった髪を肩より少し下まで伸ばした、キツめの顔の少女だった。彼女の名前は春日直子。ちなみにカナタの隣の席である。


「春日。……ま、そうだな」


 直子の言葉を聞いた裕人は、カナタの方に行こうとする事を止め、彼女に向き直った。


「にしても、どうしたんだろうな、カナタのやつ? 今日ってそこまで急がなきゃいけないような課題ってあったっけ?」


「いや、無いと思ったけど」


「だよな。……そもそも、夜更かしして翌日を疎かにするような奴じゃないんだが……」


「万年遅刻常習犯のあんたとは違ってね。ま、たまにはそういう日もあるんじゃないか?」


「……んだよ。今日は遅刻してねえだろ」


 ふて腐れたように呟いた裕人を見て直子は苦笑し、自分の席へと戻っていった。




 始業のチャイムと同時に、カナタは弾かれたように寝そべっていた自分の机から身を起こした。


「やあ、おはよう。よく眠っていたのに、きちんと起きられる辺りは流石だね」


 隣から話しかけられてカナタが寝ぼけたような表情のまま声のしたほうに向き直ると、直子が微笑しながらこちらを見ていた。


「……直子さん。おはよう」


「はい、おはよう。……珍しいね、キミが学校で居眠りしているなんて。夜に何かしていたのかい?」


「うん……ちょっと、ね」


 直子の問いにカナタは曖昧に返し、教室に入ってきた担任の先生に意識を向けた。隣から直子の視線を感じたが、悪いと思いながらも敢えて無視した。


(まさか、“怪物と戦ってました”、なんて正直に教える訳にはいかないし……)


 結局、カナタは多発する欠伸を噛み殺し、午前の授業を乗りきった。




 昼休み。昼食を済ませたカナタは、校内にある裏庭にやってきていた。日当たりも良く、のどかな生徒たちの憩いの場所なのだが、人影は少ない。その理由は、その狭さにある。運動するにも、大人数で昼食を囲むにも小さい場所。しかしだからこそ、カナタはこの場所が気に入っていた。


(あぁ、やっぱり落ち着く)


 中央付近にある木に寄りかかって、カナタはリラックスしたように脱力した。


(う〜ん、とてつもなく眠い……今日の夜も遅くなるし、今のうちに寝とこう)


 そう思ったカナタがしばらく目を閉じてうとうとしていると、何か柔らかいものが右足にくっついてくる感覚を覚えてカナタは目を向けた。


「……なんだ、ミケか」


「にゃ~」


 その感覚の正体は、三毛猫だった。この猫は学校に住み着いていて、カナタがこの場所にいるとなぜかすり寄ってくるのだ。


(ま、懐かれるのはいいことだけど。ミケの毛って触り心地良いし)


 カナタが背中を撫でてやると、ミケは嬉しそうにすり寄ってきて、膝の上に乗っかった。


「今日は一段とご機嫌だね、ミケ」


「にゃ~ん♪」


 そのまま撫でていると、ふとミケの毛が普段より逆立っているような気がして、カナタは首を傾げた。


(いったいどうして……あ)


 少し考えて思い当ったのは、自身の魔洸のことだ。思い返してみれば、魔洸が感じられるようになってからミケに会うのは、今日が初めてだ。


(本能的に、僕が以前の僕とは違うってことを感じてるのかな……)


 そう思うと、自分は本当に“普通の”人間から変わってしまったのだと自覚させられた気がして、カナタは少し寂しく感じた。しかしそれでも離れていかないミケのことを嬉しく思いながら、カナタは昼休み終了の余鈴が鳴るまでずっとそうしていた。

 はい、今回はここまでで終了です。


 タグに学園って書いてあるのにあんまり学校生活を描いてないことに気づいたので、今回は少し日常成分多めです。しかし戦闘シーンより日常を書く方がなぜか難しい……。どうしてだろう?


 さておき。気づいたらこの小説、今回で十話なんですね。タイトルに書いてあるのに今気づいたという……。やったぜ、十話到達だ! イエーイ! ……いえ、特に何か特別な事をする訳ではありませんが。


 PVが700越えました! ありがとうございます! そしてお気に入り登録が二件に増えたぜ、やったぁ! こちらもありがとうございます!これからもよろしくお願いいたします!


 今回はこの辺で。では、次でもお会いできることを願いまして。

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