九話 武具選定
メチャクチャ遅くなりましたすみません!やっと更新できました……
では、どうぞ。
「失礼しました」
そう言って、カナタは職員室から出てくる。彼は日直だったので、当番の仕事であるその日一日の日誌をつけ終わったため、担任の先生に届けに来たのだ。
「やれやれ……」
カナタは日誌を書いていたせいで凝ったように感じる首をほぐすように回しながら、呟いた。
魔洸を感じることができるようになってから数日。ようやく体内の魔洸の感覚にも慣れてきた。授業が午前中にしかない曜日の日中に一度組織の基地に行って妖獣に関する説明を受けた。また次の週末に会うことにしているが、その前に一度戦闘を行った。前回と同じく学校から帰宅していた途中、突然隔世に引き込まれたのだ。
当然戦い方を知らないカナタはどうすることもできなかったが、途中でタイガが戦いに乱入し、事無きを得た。
『……やれやれ。助かったよ、タイガ君』
『構わねぇさ。……災難だったな、まだ魔洸が十分に使えないうちに隔世に引き込まれるなんて』
その後、現実に復帰した後に、タイガから今後妖獣に襲われたときの自衛のために魔洸の使い方を簡単に教えてもらうことになり、魔洸は大きく分けて三つの使い方があると説明された。
相手に攻撃したり、逆に攻撃を受け流したりするときに使う薄い魔洸の手刀・祓光。
祓光の強度と鋭さを強化し、相手を仕止める・滅光。
両腕に魔洸を集中し、堅固に固めて自らを守る盾・守光。
バリエーションはあるが、魔洸による術式はだいたいこの三種で構成されているそうだ。
そしてタイガに教えてもらった通りに一通りやってみて、どうにか祓光だけは使えるようになった。それ以来隔世に引き込まれたことはないので、実戦ではどうかわからないが。
そして約束の週末、基地で何やら大きなケースを渡されたカナタは更衣室らしき場所でケースを開けた。すると、中に入っていたのは漆黒の服だった。エナメルのような光沢で、着てみるとウェットスーツのように体にフィットした。着替え終わって体を動かして感触を試していると、タイガと春樹が中に入ってきた。
「よし、サイズに問題はなさそうだな」
「はい、すごく体にしっくりきます。……で、なんですかこれ?」
「それは殲士が妖獣と戦うときに装着するスーツだ」
と、今度はタイガが言った。
「前回隔世で会ったとき、俺もこれ着てたろ?」
「……そういえば……」
と、カナタはその時の事を思い出す。
「そのスーツには銀が散りばめられててな、そいつを着ると魔洸の通りが良くなる」
「へぇ、そうなんですか……でも、何で銀? 狼男じゃないんだから、銀の銃弾しか効かないってわけでもないだろうし……」
カナタのふとした疑問に、春樹は肩をすくめて答えた。
「分からん。だが、魔洸を使う時に銀の媒体を通すってのは、大昔からそうなんだ。それこそ狼男とか吸血鬼を倒す、対魔師……エクソシストみたいにな。ま、そいつらが倒していたもの自体が妖獣だったかもしれない、なんて報告もあるけどな」
「……そんなに大昔から……」
いや、大昔どころか、空想の生き物であったはずの怪物たちまで、妖獣であったかもしれないのだ。自分達が知らないだけで、この世界にはそんな裏の部分があったなんて、と、カナタは悪寒に身を震わせた。
「ま、今となっては真偽は分からんし、さしあたってはどうでもいい。それより、早いところ着付けを済ませちまおう。目の前のロッカー……もう2つ右……それだ。開けてみてくれ。中にプロテクターが入ってるから、着けてみろ」
春樹に言われるままに、カナタはロッカーの中のプロテクターを着けてみた。スーツと同じく真っ黒だったが、それ以外に何か機能があるようには見えず、どうやら本当にただのプロテクターらしい。
「よし、問題ないな。じゃあ次は、武具の方に行こう。あ、スーツは着たままでいいからな」
春樹に促され、カナタとタイガは更衣室を出て、春樹についていった。
次に春樹に連れられてやってきたのは、先日カナタが見物していた、あらゆる武器が陳列されているブースだった。
春樹とタイガが中に入っていくので、カナタも大人しく後についていく。中に入るとミチルがスタッフと話しており、カナタが入っていくと気づき、微笑んで会釈した。それに返した後、カナタは春樹に問いかけた。
「あの、ここで何を……?」
「ここでは、お前の相性……というよりは、ぶっちゃけ趣味だな……に合う武具を選んでもらう」
「はぁ……」
と、曖昧な反応しか返せないカナタに、タイガが注釈を入れた。
「この前会ったときはメンテ中だったから持ってなかったが、俺たち殲士はそれぞれ自分に合った武具を所持してる。例えば……俺の武具、もうメンテ終わってますか?」
「はい、完了しています」
と、タイガに返事をしたスタッフは奥のほうに入って行き、二メートルほどの長さの細長い棒を持って戻ってきた。片方の端のほうに、五十センチほどの長方形の何かが付いている。と、そこまで見て取って、カナタは首を傾げた。以前見たときは、攻撃する箇所が抜けていたとはいえ何の武器かすぐに分かったが、これは何なのか分からなかったのだ。
「タイガくん、それ……何?」
「ん? 鎌」
「……なるほど……」
タイガに言われて、ようやく分かった。おそらく端についている長方形の部分から、刃を出すのだろう。
「ミチルさんのは、なに?」
カナタが問いかけると、ミチルはブースの端に陳列されていた内の一つを持ち上げ、カナタに見えるように持ち上げた。
「私のは、これ」
「へぇ、弓か……あれ? 矢ってどうするの?」
「矢の武具は、そのまま使うと消耗品になっちゃって、そこまでの量産はできないから……ちょっと大変なんだけど、普段は魔洸で丸ごと矢を作るの。矢の鏃の部分だけを魔洸にするのは、止めの一撃の時だけ」
「なるほど、確かに……」
カナタが感心していると、春樹が咳払いをして、カナタに言った。
「で、そこにある中でどれか気に入ったのあるか?」
「……と、言われても……」
春樹に言われてざっと陳列されているのを見てみるが、特にしっくりきそうなものがない。
「う~ん……あれ? そういえば夢で……」
そこでふとカナタは、いつか見た夢のことを思い出した。日本刀を縦横無尽に振るう、両翼を広げた少年。あれは、恐らく……
「過去の、僕は……隼人くんは、日本刀を使っていませんでしたか?」
「……何? どこでそれを知った!?」
勢い込んで尋ねてきた春樹に、カナタは先日見た夢の話をした。それを聞いて、春樹は少し考え込み、カナタに問いかけた。
「そこに出てきた妖獣は、かなり多くの数がいた。それは間違いないな? そしてそれを、客観的に見ていた……」
「はい、どちらも間違いないです」
カナタがそう答えると、春樹は先ほどよりも長めに考え込み、そして呟いた。
「……おかしいな」
「え?」
カナタが疑問符を浮かべると、春樹はカナタに向き直って言葉を返した。
「その夢に出てきたシーンってのは、前に話したことのある、多数の妖獣を殲滅した事件におそらく間違いない。その若干人っぽい妖獣ってのも、当時カナタから報告を受けたしな。だが、だとしたらおかしいんだよ」
「……何がですか?」
カナタは訳もなくなにか不安を感じながらも、春樹に聞いた。
「この事件の当事者は、カナタ……つまり以前のお前自身だ。だとすれば……なぜ、視点が一人称……主観的じゃないんだ? 本来なら、カナタが自身の目で見た事柄のはずなのに……」
言われて、ようやくカナタは理解する。自分が夢で見たのは、自分の過去の記憶……つまり“隼人”の記憶だ。それは自分の目で見て、経験した記憶。だとすれば、今回の夢のように、第三者の……よく分からない視点からみた光景ではおかしい。
「……どういうことなんだろう……」
結局その場ではいくら考えても結論は出ず、嫌な感じを残しながらもその件は保留となった。
そして、武器選びに戻るが……
「すみません、見てるだけじゃ分からないので一つずつ試してもいいですか?」
と、聞いたところ許可が出たので、とりあえずアリーナでいくつか試してみることにした。
一つ目:槍
「長っ!!」
カナタは試しに魔洸を流し込んで先端に刃を形成させてみたが、リーチが長くて取り回しが難しい上に突くという行為が必要になるため肌に合わなかった。
却下。
二つ目:薙刀
「さっきよりはマシだけど……」
刃の部分が長い分先ほどよりも攻撃の幅は広がるが、それでもやはりリーチが長い。
却下。そして同じく長いという理由で、鎌も却下。
三つ目:クナイ
「うん、だいぶ使いやすいかな? 今度はちょっとリーチ短いけど……」
とりあえず適当に振り回して感触を確かめながら、カナタは言う。しかし疑問が一つ。
「タイガくん、これって全部普通に武器だよね?どこに魔洸を使うの?」
「それは、まず刃の部分に魔洸をコーティングするんだ。で、そのあと、下の部分についてる丸いところに魔洸を捩って作った紐を括り付けるんだ。振り回して鞭みたいに使ったり、自分の前で高速回転させれば盾にもできるぜ」
カナタはその説明を聞いてふむふむと納得していたが、ポツリと一言。
「……それって、かなり魔洸の扱い難しいよね?」
「まあな」
じゃあまだまだ初心者のカナタじゃ無理じゃん、ということで、これも却下。
四つ目:モーニングスター
「ちょっと、え、なにこれ!? なんでここでいきなり外国の武器が出てくるの!? それもかなりえげつないやつ!! しかもこの小さい穴から魔洸を針みたいにして出すって、かなり難易度高くない!?」
「いや、なんでと言われても……」
「まぁ確かに難しいが……」
タイガと春樹はカナタのツッコミに困った顔をしていた。
と、最初は何やらいろいろと言っていたカナタだったが、しばらく使っているうちに……
「あ、意外と使いやすいかも」
使いこなし始めたので、一度タイガと模擬戦をして決めることにした。最初こそ間合いを掴ませないような戦い方で翻弄したり、タイガの鎌に絡ませて体制を崩したりと、変則的な動きでタイガと渡り合っていたのだが……
「ぜぇ……ぜぇ……」
かなり激しい動きを要求されるためにバテてしまった。ちなみにこの間、わずか三分である。それでもさらに続けると……
「うわっ!?」
足元に振るわれた鎌を避けるために上空にジャンプした際に足にモーニングスターの鎖を絡ませ、着地できずに転倒。
「あいたっ!!」
しかも悲劇はこれでは終わらず、その転倒した先はタイガの鎌の柄の部分だったために避けようと無理に体を捻ったが、そのために足ばかりか全身に鎖が巻きつき、挙げ句の果てには……
ゴッツン!!
「あべし!!」
うつぶせになって動けなくなったカナタの頭頂部にモーニングスターの先端の球形の部分が見事に直撃。そのままカナタは動かなくなった。
「おっおいカナタ!! 大丈夫か!?」
「きゅ〜〜……」
鎌を投げ捨てたタイガが慌てて駆け寄ったがカナタは完璧に伸びており、タイガと春樹はカナタの体に絡まった鎖を外すのに苦労しながらも、超特急で医務室に運び込んだ。
目が覚めたカナタにどうだったか聞いてみたが、どうやらトラウマになってしまったらしく、物凄い勢いで首を振りながら拒否された。
ということで、却下。
結局。
「うん、これに決めた」
最後にカナタが選んだのは、ナイフのような脇差しタイプだった。ノゾミが使っていた物と同タイプだったので試しに使ってみたのだが、これが意外と使いやすかったのだ。
「うし、決まったな。じゃ、そのスーツと武具は両方持ってかえってくれ。これからはいちいちここに来る必要はないが、ケガしたり、何か調べたいことがあったり、訓練したくなったりしたら、遠慮なくここに来てくれて構わない。あ、週末には必ず来てくれよ、武具のメンテと報告会があるから。で、妖獣の活動時間は夜だから、夜間に外をうろつき回って、隔世の気配を感じたら急行して妖獣を狩る。これが俺たちの普段の活動だ」
カナタが頷いたのを見て、春樹は続けた。
「なるべく一人では行動しないようにしろ。生還率がグッと上がる。当分は……ノゾミ、タイガ!お前らと組め。まずは戦い方を知る必要がある」
今度はノゾミとタイガが頷き、それを見た春樹は手を叩いて大きく音を鳴らした。
「うし! じゃあ今日の集まりはここまでだ。以上、解散!」
そしてその後、カナタはノゾミとタイガ、ついでにミチルとも連絡先を交換し、家に帰った。
どこかの、研究室のような場所。何に使うのか良く分からないような薬品や器具が、壁際や机の上、果ては床の上にまで散乱している、雑多かつどこか無機質な部屋。その部屋に白衣を羽織った初老の男がたたずんでいた。男は部屋の一角にあるモニターで何かを見て、独り言をこぼした。
「ふむ。さすがに純粋だな。あの時はどう始末しようかと思ったものだったが、これで正解だったな」
男はそこまで言った後踵を返して背後にあったドアを開けると、中の机の上にある、“何か”が入っている透明なケースに歩み寄った。
「さて、続けるとしようか……」
そのケースに収められていたのは、日本刀の柄の部分だった……
はい、第九話でございました。……あれ? シリアスで行こうと思ったのにいつの間にかコメディ成分が多くなってる……? しかもまさかの投稿ほぼ1ヶ月ぶり……最近本当に忙しかったからなぁ……。
ま、それは置いといて。今回は、お待たせしてしまったお詫びとして、少しだけこのお話について語ろうかと思います。
このお話を書き始めたちょうどその頃、私は母と共に、あるミュージカルを見に行きました。そのタイトルは、“ラ・マンチャの男”。有名な、かのドン・キホーテの物語です。この物語の主人公、ドン・キホーテは、本来はただの貴族のおじいさんです。ですがある日、彼は自分がドン・キホーテという騎士だと思い込んでしまい、飯使いのサンチョ・パンサと共に旅に出ます。その後いろいろな出来事があるのですが、それはネタバレになってしまうので語らないでおきます。
ドン・キホーテは狂人でしたが、自分はその事に気付いていませんでした。周囲の人間から狂っている、バカな奴だと言われながらも、彼は自分が本当に騎士だと信じて疑わなかったのです。
ニュアンスは少々違いますが、このお話の主人公であるカナタくんも、周囲から元は別人だった、お前は本来お前じゃない、と言われます。過去の自分と、現在の自分。皆の知っている自分と、自分が知っている自分。どちらが実像で、どちらが虚像か。信じるべきはどちらの“自分”なのか。そんなところを描いていけたらいいな、と思っています。
なんだか予想以上に長々と書いてしまいましたが、今後も不定期更新になってしまいますが、読んで頂ければ幸いです。
では、次でもお会いできることを願いまして。