プロローグ代わりのエピローグ
――空から美少女が降ってきた。
その状況を表すのに、それ以上相応しい言葉はないだろう。
地上から1000Mほど離れた上空。
眠ったように目を閉じた少女が、銀色の髪と美しいドレスを風になびかせながら、重力を無視してゆっくりと地上へ舞い降りようとしていた。
そして、少女の落下地点には一人の少年が立っている。
中肉中背で、容姿は可もなく不可もなく。
『特徴が無いことが特徴』とも言えそうな少年。本編の主人公、杉田望である。
――それはきっと、壮大な物語のプロローグ。
これから少年は、非現実的な少女と共に『非日常』の世界へと飛び込み、普通で凡庸な人間がゲームでしか体験できないような、感動的な物語を綴ることになる。
苦しみ、悲しむこともあるだろう。
だが、それらを乗り越えた先――少年は、今の自分より一回り大きくなる。
そんな物語が始まろうとしていた……のだが。
「うぉぉおおおおおおおおおお!」
主人公とヒロインの大切な邂逅シーンを台無しにしようと全力疾走する、脇役の姿が、そこにはあった。
「どけぇぇえええええええええええええええ!!」
「っ!?」
ドロップキックだった。
まさかの、ドロップキックだった。
地球の重力に弱く引かれた少女の身体が、杉田の腕に包まれる寸前。
文字通り横から飛び込んできた脇役――今田翔機は、本編主人公である……〝あったはず〟の杉田を、全力で蹴り飛ばした。
そして、空から降ってきた美少女をしっかりとお姫様抱っこし、腹の底から叫ぶ。
「ビッグチャンスきたぁぁぁああああああああああああああ!!」
この物語は悲劇である。
なぜなら、主人公はヒロインと出会えず、物語を始めることさえできなかったのだから。
前代未聞、これ以上ないほどのバッドエンドだ。
……だから、ここから先のお話は。
主人公不在の世界で紡がれる、脇役オンリーの――ささやかなスピンオフである。