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第二章 不運はあたしのせいじゃないっ!

 セレンの宮廷入りが遅れていたので迎えに行ったが、彼女は突然倒れた母親の看病をすることになったために日をずらして欲しいと言っている――アスターは自分の上官にそう伝え、再度様子を見に行くという理由で外出許可を取り付けたらしい。一日しか猶予はないとのことだが、セレンにしてもアスターにしてもさっさとこの茶番を終わらせるつもりだったので充分だった。

 そして――。

「うぅ……酔う……」

 翌朝。セレンはローブのポケットの中にいた。もちろん、アスターのローブの、である。

 しかしそのローブにはセレンが昨日見た国の紋章は入っていない。上官に嘘をついて出てきたため、身分が知られないようにそれを着ているのだ。

「文句を言うなんて贅沢ですね」

 アスターは聖水が湧くと言われている湖に向かって馬を走らせている。現在は森が深くなる街道を通っているはずだ。

「――目的地まで魔法を使うわけにはいかなかったんですか?」

 昨日のように鷹の姿で目的地に向かった方がラクに違いないと思いながらセレンは問う。

「よくそんなことが言えますね。君は宮廷魔術師の規則が頭に入っていないようだ」

 ため息混じりに指摘するアスター。彼は手綱を握り、馬をさばきながら話を続ける。

「――宮廷魔術師の規則には魔法の使用に関して三つの決まりがあります。

 一、訓練時は上官のいる場所でのみ使用を許可する。

 二、上官の命令があるとき、その使用を許可する。

 三、命の危機が迫っている場合、例外的にその使用を許可する。

 ――何故そんな決まりがあるのか、君は理解していないらしいですね」

 アスターはトゲのある口調で厳しく諭す。

「わ……わかってますよ。宮廷魔術師は魔術師の中でも優秀な者の集まり。国に所属するそんな人間が、むやみやたらと魔法を使うと困るんでしょ?」

 カチンときたセレンはムッとした気持ちを乗せて答える。

「全然足りていませんね。君はその程度にしか感じていなかったということですか」

 はぁ、とため息をついたあとでの台詞。

「そこまで言わなくてもいいじゃない。もっと優しい言い方はできないのっ」

「話をすり替えないでいただけますか?」

 セレンの小声のぼやきもアスターは聞き逃さない。アスターは注意すると話を戻す。

「――宮廷魔術師は国王に仕える存在であり、国を守る義務があります。ですから、万が一誤った使用をされると国が責任を取らねばなりません。状況によっては国の存続に関わることになりかねない。ゆえに、責任を取ることができる人間の前でしか魔法を許可しないのです。これは大事なことです。覚えておきなさい」

「はーい」

 怒られてばかりで面白くない。セレンは気が乗らない声で返事をすると、アスターの手が伸びてきた。そしてポケットから出ていたセレンの鼻先をピンと弾く。

「痛っ! 女の子の顔を弾くだなんて信じられないっ! 傷になったら、責任取ってよっ!」

「宮廷魔術師に性別は関係ありません。必要だと思ったから、それ相当の罰を与えただけ。女性だからといって手を抜けば、宮廷魔術師全体の質が下がります」

 驚き怒るセレンに、アスターは当然とばかりにきっぱり返す。

「――しかしそうですね。傷が残ったので責任を取れとおっしゃるなら、きちんと代償を払いますよ? 責任を取る覚悟なくして人の上に立つなかれ、です」

「じゃあ、そのときは遠慮なく請求させてもらいますからっ」

 ふんっと鼻息荒く言ってやると、セレンは前足で鼻をさする。ヒリヒリ痛むところからすると、赤くなっているのかもしれない。

「やれやれ――ん?」

 何かに気付いたらしい。アスターは急ぎ走らせていた馬を止め、視線を背後に向ける。

「どうしたの?」

 様子がおかしいのを不審に感じ、セレンはポケットの中から頭を出す。そして、アスターの視線の先に目を向けた。しかし平凡な日中の街道があるだけで、道行く人々も違和感に気付かず行き交っている。

「こちらに何かが向かってきます」

 そりゃ道なんだから人も馬も通るわよ――そうセレンが返す前に、アスターが何に気付いたのか理解した。視界に煙のようにあがる砂埃が目に入ったからだ。

「――暴走しているのか」

 アスターはそう呟くと、すぐに呪文詠唱を始める。浮かび上がる魔法式、編まれる魔力。その力を前にセレンの身体は小さく震えた。

 やがて向かってくるものの正体――四頭立ての馬車が見えてくる。馬の制御がきかなくなり、真っ直ぐの街道をひたすら全力で走り続けているらしい。さすがに周囲の人々も気付いたらしく、道の端に寄るなどして行き過ぎるのを待っていた。

「――太陽の使者よ、彼の者の目を覚めさせたまえ!」

 錯乱状態の者の正気を取り戻す呪文。アスターの魔法は視界に捉えていた暴走馬車に向かって放たれる。

 魔法の力を受け、馬たちは次第に鎮まってゆく。アスターたちの脇を通る頃になって、なんとか馬車は停止した。

 自然とわき上がる拍手の中、暴走馬車の御者が下りてきてセレンたちの元へやってくる。そして深々と頭を下げると礼を告げた。

「ありがとうございました。あなたのおかげで助かりました。どう礼をしたものか」

「礼など滅相もない。人として当然のことをしただけですよ。この先もお気をつけて。――では急ぎますので」

 対外用らしい優しげな笑顔を御者に向けると、アスターは馬に命ずる。御者は口を開きかけたが、何を言おうとしていたのかはわからぬまま遠ざかっていく。

(――礼はいらない、か)

 格好いいことを言うな、なんて見直しながらセレンはアスターの横顔を見る。少し彼の頬が赤い。

(あ……ひょっとして、極度の照れ屋さん?)

 だとしたらかなり面倒な人間だ。セレンがそんなことを思っていると、視線に気付いたのかアスターが喋り出した。

「――言っておきますが、今は上官に嘘をついて出掛けている身なんですからね。僕がここにいると知られるとよろしくないんです。また、宮廷魔術師は支給以外に他人から物品をもらうことを禁じられています。賄賂だと思われないために、ね」

「もうっ! なんでそこでそういう言い訳じみたことを言うのよ!」

 せっかくアスターのことをわかろうとしていたのに――セレンの不満な気持ちが台詞の熱に変わる。

「君が勘違いしないようにという理由以外になにもありませんよ。しいて言うなら、こんな機会でもなけりゃ、規則の説明はできませんからね」

「だからって――」

「実体験を通じて学んだことは頭だけじゃなく身体にもしみつくものです。機を逃すのは愚か者のすることだと思いますが?」

「もういいっ!」

 セレンは話を切るとポケットの中に潜り込む。話せば話すほど幻滅しそうで、それが怖くて嫌だった。

「全く、セレン君はわかっていませんね」

 アスターの小言はセレンが隠れてしまったあとも長々と続いたのだった。



「――妙ですね」

 昼を過ぎ、急に襲いかかってきた小鳥の群れをあっさり魔法で退けたアスターが呟く。

「妙って?」

 事態が落ち着いたのを確認すると、ポケットから顔を出すセレン。小鳥が執拗に狙ってくるので、アスターから隠れているよう命じられたのだ。

「君と出逢ってから不運続きです」

 なかなか馬に乗らないのを不思議そうに見つめているセレンに、アスターは素っ気なく答える。

「あたしのせいみたいな言い方しないでよ!」

「そう聞こえたということは、自覚があるんですね」

 頬を膨らませてムスッとするも、確かにセレンも違和感を覚えていた。大した出来事ではないが、これまでの道程で起きたことはかなり多い。

「そうじゃないけど……今朝の暴走馬車から始まり、馬の前を不意に犬が飛び出してくるし、昼食に立ち寄った店では猫に跳びかかられて料理をひっくり返され、さらに狼に追われたと思ったら鳥の群れ――アスター先生はそーとー動物に嫌われているのね」

 そう言ってやるも、これほど重なれば作為的なものを感じる。嫌われているのではなく、仕向けられているかのような不気味さ。

「それこそ、呪いをかけられているがごとく、ですね」

 誰が呪われているかは問題ではない、誰が呪っているのかが問題なのだ――アスターはそう説明するかのような口振りで告げる。

「まさか」

「――動物たちの中には魔法をかけられた形跡があるものもいました。この小鳥たちもそうですね。魔術の系統がどれも近いので、使い手はおそらく一人。気付かなかったんですか?」

 セレンの鈍い反応に、アスターが説明して問う。

(き……気付かなかった……)

 自分のことで精一杯で考えてもみなかった彼女は、アスターの指摘に何も答えることができない。

「やれやれ。状況を分析するくらいのことはすべきですよ、セレン君。宮廷で守るべきは王と民なんですから」

「はい……肝に命じておきます」

「……さて、ここまで教えたのですから、さすがに今がどんな状況なのかわかってますよね?」

 しゅんとなって頷くセレンに、アスターは次の問いを投げる。

「へ?」

「鈍いですね。――犯人が僕たちをつけてきているんですよ?」

 暗い森を抜ける街道。今は人通りがなくひっそりとしている。アスターは来た道の先に視線を移した。

「出てきたらいかがです? もう僕たち以外に人はいないのですから」

 呼び掛けに反応はない。

 しかし、セレンも何者かの気配を感じ取っていた。

(確かに誰かいる……)

 殺意のこもった冷たい視線。右側の奥にある木々の間からそれは向けられている。

「まさか僕たちが気付いていないとは思っていないでしょう? 僕からは君の姿が見えているんですよ?」

 アスターは素早くポケットからどこで入れたのか知れない小石を取り出すと、右手奥の茂みに向かって勢いよく投げつける。動きに迷いがない。

 真っ直ぐ飛んで行く小石に対し、瞬時に展開される魔法陣。結界が作られ、小石は甲高い音を立てて弾かれた。

「――さすがは宮廷魔術師師範代ですわね」

 茂みが揺れて姿を現す小柄な影。黒い頭巾をかぶり、杖を持つ小柄な人物には二人とも見覚えがある。通りに出てきた少女は頭巾を後ろに跳ね、自分の顔を陽に晒した。

「いつから気付いていましたの?」

 赤い巻き毛に赤い瞳。そこに立っていたのはセレンをネズミに変えた張本人テルルだった。

「尾行されていると気付いたのは初めから――そうですね、宮廷の門を出たところからいましたよね?」

(……って、全く気付かなかったんだけど! つーか、教えてよ!)

 しれっと答えるアスターに、セレンは苛立ちのこもった視線をちらりと向ける。

「そこまで気付いていながら、どうして撒こうとなさらなかったのです?」

 落ち着いた、にこやかな表情でテルルは問う。アスターの問いを否定しなかったので、彼が言っていることは事実であるようだ。

「ひと気のないところで話をすべきかと思いまして」

 互いに穏やかな表情をしているが、空気はピリピリとしている。魔術を放つ機会を共に窺っているのだ。

「説教なら間に合っていますわ。私は何も間違ったことはしていませんもの」

「間違っているか否かは問題ではありません。何故、このようなことをしたのかが問題なのです」

「このようなことって、何のことかしら?」

 テルルは不敵に笑うと、肩につく毛先を後ろに払う。

「さっき襲ってきた小鳥たちや朝の暴走馬車は君の仕業ですよね? それに、セレン君をネズミに変えたのも君でしょう?」

 アスターの静かな問い。それに対しテルルは声を立てて笑う。

「何がおかしい?」

 少女の態度に腹が立ったのだろう。アスターの声に険が混じる。

「それが彼女の本来の姿ですのよ? 田舎娘にふさわしい姿ではありませんこと?」

「なっ! あなた、黙っていればよくもそんなことを言えたものねっ!」

 さすがに黙ってはいられない。セレンは声を荒げて叫ぶ。

「あぁ、やだやだ。チュウチュウやかましいネズミですこと。それに――アスター様には似合いませんわ」

 テルルの瞳がきゅうっと小さくなったかと思うと、彼女の右手が一瞬で腰に移動し何かを掴んで投擲した。

「ちっ!」

 魔法ではなく物理攻撃でくるとは予測していなかったらしい。アスターは舌打ちをするとセレンをかばって背を向ける。テルルが投げた小型の剣はセレンのいるポケットを狙っていたのだ。

「先生っ!」

 セレンは目の前で起きた出来事に驚き、思わず叫ぶ。投擲された剣がかすめ、着ていたローブを裂いて朱をにじませていく。アスターは片膝をついて、かすめた脇腹に手を当てた。

(やだ……あたしのせいでアスター先生が怪我をしちゃうなんてっ!)

「らしくありませんよ、アスター様。彼女の代わりなんていくらでもいるではありませんか」

 テルルの声が冷酷に響く。

「それに、あなた様はネズミがお嫌いだったはず。無理しなくてもよろしいんですのよ?」

(――だから、あのとき不機嫌だったの?)

 セレンは宮廷に連れて来られた昨日のことを思い出す。寝る直前までずっと苛立っていた理由がそれだというなら、セレンだって理解できる。彼女にも苦手なものはあるし、嫌なものを前にして落ち着いてはいられないのも頷けるからだ。

「僕が無理していると? 笑わせないでください。セレン君はどんな姿になろうとセレン君ですよ。ネズミだろうと他の何かになろうとも、僕は彼女を見分けることができますよ? 何故なら、彼女の代わりは存在しないですから」

 傷口に手を当てて治癒魔法を掛けようとしているが、痛みがひどくて集中できないらしい。集まりつつある魔力が途中で散ってしまい、魔術が発動しないのだ。

(アスター先生……)

 アスターの台詞に鼓動が早くなる。そしてセレンはこのまま護られているだけではいけないと感じていた。宮廷魔術師を目指すなら、助けたいと思う誰かに手を差し伸べることができなけばいけないはずだから。セレンはアスターを助けるために、集中を高める。

「セレンさんに何ができるというのです? あなた様の野望を叶えるのはこの私以外に存在しませんわ!」

 じりっという地面を削る音。テルルは力強く宣言すると、足を一歩踏み出す。

「私、知っていますのよ。あなた様が王位継承権を奪われた血筋の末裔であることを。だからこそ、力を示して国に認めさせたいとしていると!」

(な……)

 テルルの話を聞いて、セレンの集中が途切れる。頬に汗を流しながら、アスターは口の端を上げて笑む。

「――よく調べましたね」

「呪術師の基本ですわ」

 当然だと言わんばかりの口調でテルルは返す。

「……ですが、僕はそんな個人的な気持ちでこの職に就いたわけではありませんよ? 僕はただ、この国の人間を護りたいだけ。そのためには国の力が必要です。だから上を目指している――それだけなんですよ」

 苦痛で顔が歪む。セレンはアスターのために紡いだ魔力をそこでやっと解放した。

「――大地と海の使者よ、この者を癒す力を分け与えたまえ」

 セレンの苦手な治癒魔法。彼女が使いこなすためには予備動作や魔法陣が必要不可欠であるのだが、真剣な気持ちが伝わったのだろう。小さいながらも魔法式で作られた光の円陣が展開し、アスターの傷口を微弱な光が照らす。

(うう……他の人がやるよりも効果は薄いかもしれないけど、やらないよりはマシなはず)

 期待していたよりも魔術の継続時間が短かったのを見て落ち込むセレン。そんな彼女の頭をアスターはそっと撫でた。

「――君は自分の力を国に使って欲しいから宮廷魔術師になりたいと言いました」

 アスターはセレンの顔を見ずに立ち上がり、テルルに向き合う。

「えぇ、そうよ。私の力を効率よく使うことができるのは国以外にありえないと思いますもの」

「しかしそれは君自身が自分の力を誇示したいからにすぎません」

 指摘されて、テルルの顔に不機嫌な色が濃く表れる。

「セレン君の答えはこうでした。――誤った力の使い方をしないために宮廷魔術師になりたい、と」

「よく、そんな心構えで宮廷魔術師試験の最終選考に残ったものですわね」

 ふん、と鼻で笑うテルル。アスターは続ける。

「だからこそ残ったのだと思いますよ? セレン君の魔法は独学なんです。君は田舎者だと馬鹿にしていたようですが、彼女はどの師にもついていないのですよ。血筋も後ろ盾もありません。それでも魔法を使えている。魔術師の家系として有名なテルル君とは全く違います」

(……)

 アスターの説明を聞きながら、セレンは胸の奥がもやもやするのを感じる。

「そして、彼女の得意とする魔法は攻撃魔法。特に炎系の。一度見せていただきましたが、平時であの火力を出せる魔術師はなかなかいませんよ。その強すぎる力を制御する意味も込めて試験を受けたというのですから、僕は高く評価しますね。その一生懸命さは、僕にはないものです。ですから、彼女の才能を僕が育てたいと思った」

(ど……どこからどこまでが本音?)

 そう言われて悪い気はしないし照れくさいが、アスターがどこまで自分の思いを素直に出しているのかセレンは疑ってしまう。彼が少々ひねくれ者で極度の照れ屋であるということはこの旅を通じて理解できたが、まだまだわからないところはたくさんある。

(こんなあたしに対して、心を開くような人間にも思えないし)

 目的のためなら自分の気持ちを偽ることさえも躊躇しない人間であるとアスターを評価していたので、セレンは不安に思いながらも彼を見つめる。

「ふん。どうせ育ちませんわ。返せば危険な力ではありませんか。そんなものを宮廷の中に入れること自体、国を危うくさせますわ」

 テルルの反論に、セレンはなるほどと頷く。自分が未熟であることを認識しているセレンには、その台詞は重い。

「万が一のことが起きるような事態になったときは、僕が命に代えても止めますよ。その危険に怯えることよりも、セレン君にはもっと魔術を覚えてもらってきちんと制御できるようになってもらった方がいい。宮廷なら資料も施設も一番充実していますから」

 その台詞を言い終えると同時に急速展開する魔法陣。テルルの足元に広がる闇の円陣は暗い触手を伸ばす。

「こ……この魔法陣はまさか」

 事態に気付いて対抗魔術の詠唱を始めるテルル。彼女の顔に焦りが浮かび、汗が流れ出す。

「そんなわけでテルル君。僕はセレン君以外の人間を自分の弟子に迎えるつもりはないのです。反省の足らない君には、セレン君がどれだけ苦労したのかを味わってもらうことにしましょうか」

 アスターがいつから魔術を仕込んでいたのかはセレンにはわからない。しかし、アスターはにこやかな表情を浮かべてテルルに手を伸ばすと、魔法陣がその効力を発動させた。

「そんなっ……」

 テルルの魔法は間に合わなかったようだ。悔しげに歯を鳴らしながら、彼女の身体は闇に飲まれていく。

「――何をしたんですか? アスター先生」

 テルルの身体は闇に触れた部分から小さくなっていく。

「君に掛けられた呪いと同じことをしただけですよ。ただ、きちんと反省するまで呪いは解けませんし、魔力も封じさせていただきましたが」

 やがて闇が晴れ、姿を現したのは一匹のガマガエルだった。

「よくもよくも……アスター様! この恨み、そして屈辱、一生忘れませんわ!」

「恨み続ける限りはその呪いは解けませんよ? ちゃんと反省しなさい。――そして次の試験に備えなさい。君の才能だって僕は評価しているんですから、間違った使い方をしてこれ以上失望させないでください。また会える日を楽しみにしています」

 言って、アスターはテルルに背を向け歩き出す。彼の背後に向かってテルルは何か叫んでいたようだが、よく聞き取れなかった。


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