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やり直してるのは俺なのか

「ひいいいいいいい!」

大声で悲鳴をあげ、ベッドから飛び起きた。


首に手をやる。つながっている。

ペンダントの鎖が指に触れる。

ふかふかのベッドだ。牢獄のものとは違う。


誰かが俺を、あの場から助け出してくれたのか?


「何事です?」

短い髪を撫でつけた、がっしりとした体躯の男。

ルドリックだ。

「ルドリック?お前、ずっと…ずっと姿を見せなかったのに?」

「ラザリオ様が、寝室には近づくなと仰ったではないですか」

ため息混じりに言われた。


なんだ?


これは夢か?


どっちが夢だ?


見知った、なつかしい場所だ。

ここは…学園の…俺の部屋だ。

「どういうことだ?」

立ち上がり、鏡に気づき自分を見た。

ふわっとした金髪の髪。水色の瞳。

学園生だったころの…金髪を少し伸ばしていたころの、俺の姿だ。

「どういうことだ?」

「どういうことかはわかりませんが、授業を受ける用意をされたほうが良いですよ」

俺の様子を気にも留めないルドリック。

そう、こいつは俺の護衛で世話係であるが、俺自身に興味はないのだ。

追い出したくて仕方がないが、父の命令で遣わされているので、俺にはどうしようもない。

「まもなく、ミレナ様やご友人が迎えにきます」

すべてがわからないまま、促されるままに用意をする。

「ところで、今日は何日だ?」

「1の月の4日です」

「何年の?」

ここまで来たか…という表情をされる。

「エクリシア歴178年です。貴方は3年生、最終学年ですよ」

からかわれている感もあるが、助かった。


夢だったのか?あんなことがあるはずがない。

きっとすべて夢だったのだ。

今は恐ろしい夢を見て、混乱しているだけだ。


自分で用意をする、とルドリックを追い出し、着替えるためにペンダントを外そうとし…


気づいた。


銀の盾に輝く黄金の三日月の、月の下端が、輝きを失い、赤黒く濁っていた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「ラザリオ様!おはようございます!」

ミレナだ。若いミレナ。かわいいミレナ。

結婚してからは髪をまとめていたが。そうだ、学生の頃はこのように、きれいな桃色寄りの赤毛を、腰まで伸ばしていた。かわいらしい赤のリボンをあしらった服を着ている。ミレナの髪に似合う色だと、俺が贈ったものだ。

「今日は私がお誘いに参りましたわ」

癒される。


ミレナに誘導されるままに教室に向かう。

ペンダントは、人の目に触れられたくなく、服の内側に隠した。

窓の外には雪があった。1の月というのは間違いなさそうだ。


教室には、あの頃の、いつのもメンバーがいた。

いつも教室の一番後ろの席に、俺たちは集まっていた。

お調子者のカルロ。素直なユリウス。信頼できるレオン。

「ラザリオ様!本日もお変わりなく輝いておられる」「おはようございますラザリオ様!」

口々に声がかけられるのを、右手を挙げて答える。


皆の中央に座ると、ミレナも隣に座る。

こちらを見つめて微笑んでくれる。

悪くない。

学園生活をやり直すのも、悪くないものだな。


そう思ったとき。教室の前の扉から、寒風のように入ってきた者がいる。

エリシア。

エリシア・ド・ヴァルトリエ。

編み込まれた銀色の髪。

大貴族の者であるのに、人を突き放すような、華やかさのかけらもない暗い色の服。

俺の婚約者であることすら不愉快だというのに……あの夢のせいで、本当に目に入れたくもない。


エリシアは俺に会釈するどころか、こちらに目を向けることもなく、一番前に着席した。

そうだ、この女はいつもそうして、自分は真面目なんだという雰囲気を漂わせて、人を突き放していた。

授業の後も、教師に話しかけたり、自分を誇示することばかりしていた。

控えめなミレナとは大違いだ。


「一番前に目障りな人が座ると、本当に邪魔ですよね」カルロが俺の心中を察してくれる。

「そうだな、目に映るものは美しいものだけにしたいものだ」

「それでは、かの人がそうではないかのように」

「それは誰もがわかること」

前の席まで聞こえるような声でこちらの思いを伝える。

反応はない。ピクリともせず、背筋を伸ばして座っている。本当に図太い女だ。


授業の後、ミレナは女友達のところに行ったので、俺たちは一度エリシアに釘を刺すことに決めた。

ミレナには優しいところしか見せたくないからな。


廊下を一人で歩くエリシアを、仲間たちが囲む。

「エリシア様……もう少し考えてもらえませんか?」

「あなたが目に入るだけで、勉学の能率が落ちるんですよ」

「我らが王子と同じ授業、取らないでいただけませんか?」

俺は離れてその様子を見ている。

ヴァルトリエ家は、我が王家に次ぐ権力を持つ家であり、俺が直接揉めるのは避けたいのだ。

だから、俺は離れてその様子を笑いながら見ていた。

さすがのエリシアも、泣いて走り去ると思った。

「私は必要な授業を受けるだけです。ご自分の意欲はご自分で何とかしてください」

はっきりとした口調で言い返したので、驚いた。

信じられないほど生意気な女だ。


そして、笑っていた俺を見た。にらみつけたと言っていい。

なんということを!と頭に一瞬で血が上った。

怒鳴りつけて、殴ってやろうと思ったとき。


「!」

胸元が、氷のように冷えた。

胸の、ペンダントが冷たくなっている。紋章を出してみると。

三日月の赤黒い濁りが、確かに広がっていた。

「ひ、ひいいいい……」

あの、泥の中での恐怖を思い、口から叫びが漏れる。


あれは、なんだ?

これは、なんなんだ?


全員を置き去りにし、その場を去った。

自室に駆け込み、靴を脱ぎ捨てるとベッドに潜った。

震える手で、ペンダントを出し、見ると、確かに朝より濁りが広がっている。

自分の血溜まりの色を、臭いを思い出した。


あれは本当に夢なのか?


部屋の扉をノックする音がして、びくりと震えてしまった。

「お戻りが早い様ですか、どうかしましたか?」

ルドリックだ。

「なんでもない!下がれ……いや、ちょっと待て、入れ」

そうだ、仲間たちからは変に思われたくないが、こいつにならどう思われてもいい。

「お前、未来を予言するような夢を見たことはあるか?」

「フ……失礼しました」

鼻で笑われた。

俺がこいつが苦手なのはこういうところだ。

王子に対する敬意というものが見られない。

俺が王になったら、真っ先に追い払ってやる。

「ええと……私はありませんが、ラザリオ様のような偉大な方でしたら、未来くらい見てもおかしくないのでは?」

完全に馬鹿にされている。処刑したい。

「未来を見た場合、どういう意味だと思うか?」

「さあ……悪い未来の夢でしたら、きっと今を反省なされよということでは?」

悪い夢であることは確かだ。

「反省すべき点が多いお方ですから」

本当に処刑するべきでは?

……だが、話はわかる。

もしあれが、本当に俺の未来を示していたなら。

俺があの道に行かずに済むようにしてくれているのかもしれない。

あの未来に進むことになる、原因が今の……この学生時代にあったのかもしれない。

夢のような話だ……だが、この紋章の三日月には、俺にその妄想じみた内容を信じさせる何かがあった。

「……反省すべき点は?」

「は?」

「俺の反省すべき点はなんだ?」

「熱でもあるのですか?」

ルドリックは本当に処刑したい。俺が王になったら最初の指示で処刑してやる。


……あの未来と今で、両方にいた人間はエリシアだ。やはりあの女が関係しているのだろうか。

あいつと婚約破棄したことで、恨まれたから逆襲されたということなのか?

エリシアを今のうちに消すには……あいつの家の力が強すぎる。

現に、今までも何度も父にも周囲にも頼み込んだが、婚約解消さえできなかった。

だから、あの夢で、衆人監視の中で断罪した上で婚約破棄をしたのは納得できる。

あそこまでしないと、婚約破棄はできないだろう。


もしかして……俺は、エリシアと結婚したら……いいということか?

あの生意気な女と!?

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