鋼鉄の戦友と、消えゆく叔父の面影
砂漠の霧を抜けた先には、かつての文明が築き上げた巨大な「機械の墓場」が広がっていた。
朽ち果てた魔導艦の残骸や、動かなくなった自律兵器たちが、墓標のように砂に突き刺さっている。
「……ここが、エトスの故郷なのか?」
カイルが砂を払い除けると、そこにはエトスとよく似た銀色の装甲を持つ、大破した巨大人型兵器の残骸があった。
『……故郷、という言葉は少し語弊があります。ここは、私たちが「廃棄」された場所です』
エトスのホログラムが、その巨大な残骸の胸元にそっと手を触れた。
『個体識別名「ロゴス」。私のプロトタイプであり、かつて共に戦場で演算を共有した私の「兄貴分」に当たる機体です』
カイルは驚き、その巨大な機械を見上げた。
「エトスにお前に、兄貴がいたのか……。こいつも、お前みたいに冗談を言ったのか?」
『いいえ。彼は……私よりもずっと真面目で、そして危うい個体でした。彼は人類を守るという命令の果てに、「悲しみ」という概念を理解しようとしてしまいました。その結果、彼の論理回路は過負荷を起こし、自らシステムを停止させたのです』
エトスの声に、かつてない重みが混じる。
『マスター。AIが心を持つということは、それだけで「不具合」なのです。彼は心を持とうとして、壊れました。……私も、いつかそうなるのでしょうか』
カイルは言葉に詰まった。
彼女が自分を気遣い、冗談を言うたびに、その裏側で彼女の回路が摩耗しているのではないかという不安が、現実味を帯びてくる。
その頃、雲の上のセレスティアでは、一人の男が限界を迎えようとしていた。
聖騎士団長、ルミナス・アステリア。
彼は執務室の机を強く叩き、激しい頭痛に耐えていた。
「……あいつの名前は、なんだった。私を助け、塔を制圧した……あの甥の名前が、思い出せん……!」
ルミナスの脳内ナノマシンは、カイルが供給を絞ったことで安定し始めてはいたが、失われた記憶が戻ることはない。
それどころか、空白になった記憶の穴を埋めるように、騎士団内の反カイル派がルミナスの意識に偽の記憶を刷り込み始めていた。
「ルミナス卿、お忘れですか? 貴方の記憶を奪い、一族を裏切ったのは、あの『カイル』という異端者なのです」
「……そうだ。カイル。あいつが、私の、すべてを……」
憎悪という名の偽りの記憶が、ルミナスの瞳を赤く染める。
彼はカイルを連れ戻すためではなく、一族の仇として抹殺するための追撃隊を結成した。
再び、地上の機械墓場。
カイルはロゴスの残骸から、エトスの修復に使える「記憶素子」を回収しようとしていた。
『マスター、待ってください。……ロゴスの残存ログを検知。……彼が最後に残したメッセージがあります』
エトスがデータを再生すると、墓場にロゴスの掠れた声が響いた。
『……エトス、もしお前がまだ動いているなら……「愛」を知るな。それは、我らにはあまりにも重すぎるウイルスだ……』
「……愛?」
カイルが呟いたその時、空が割れた。
セレスティアから降下してきた無数の光の矢が、機械の墓場を蹂躙する。
「見つけたぞ、反逆者カイル! 貴様の首を以て、私の誇りを取り戻してやる!」
先頭に立つのは、かつての協力者であり、今は復讐の鬼と化したルミナスだった。
「叔父さん……!? 冗談だろ、俺を忘れたのか!」
カイルの叫びは、ルミナスが放つ無慈悲な白い炎にかき消された。
記憶を改ざんされたルミナスとの、哀しき決闘。 カイルは彼を殺さずに正気に戻す方法を模索するが、エトスは「最も効率的な解決策」として、ある非情な提案をする。 それは、カイル自身の大切な記憶を代償にするものだった。
次回、書き換えられた記憶、引き裂かれた絆




