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エトスと忘却の聖域  作者: 蒼月 美海


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再会、あるいは断絶の火

 静寂の森を抜ける道中、ルミナスの足取りは重かった。


「……カイル。先ほどの話、もし真実だとしたら……。私がこれまで捧げてきた忠誠も、失ってきた記憶も、すべてはただの『機械の不具合』だったというのか」


「……ああ。でも、今ならまだ間に合う、叔父さん」


  カイルは、フラつくルミナスの肩を貸しながら告げた。


「この都市の頂上にある『天の塔』。そこが魔法の源流だ。あそこにあるメインサーバーにエトスを接続すれば、ナノマシンの暴走を止められる。そうすれば、あんたの記憶がこれ以上消えるのを防げるはずだ」


 ルミナスは自嘲気味に笑った。


「……面白い。一族の恥とされた無能の甥に、一族の誇りである私が救われるか。……いいだろう、案内しろ。聖騎士団長の権限なら、塔の最上階までのロックを解除できる」


 二人は、夕闇に包まれるセレスティアを駆け抜けた。

 エトスが周囲の監視カメラや警備兵の認識をハッキングで歪め、最短ルートを弾き出す。

 そして、ついに目の前に現れたのは、雲を突き抜け、星に届かんばかりの白銀の巨塔――『天の塔』だった。

 塔の内部は、魔法の粒子が結晶化して光り輝く、幻想的で不気味な空間だった。


「ここが……セレスティアの心臓か」


『肯定。ここから世界中にナノマシンが散布されています。……マスター、最上階に強大な熱源反応。ゼノス・アステリアが、あなたの到着を予見していました』


 エレベーターが最上階で開いた瞬間、熱風が二人を襲った。

  円形の祭壇の中央。炎の玉座に座る父・ゼノスは、無感情な瞳でカイルを見据えていた。


「ルミナス。貴弟まで、その汚物カイルに毒されたか」


「兄上。私は……ただ、私自身を取り戻したいだけです」 ルミナスが杖を構えるが、その手は小刻みに震えている。


「無意味なことを。魔法は神の恩寵。その恩恵を捨てようとする者は、たとえ弟であろうと容赦はせん。……カイル、お前はここで、アステリアの歴史から完全に抹消する」


 ゼノスが立ち上がると同時に、塔の壁面に埋め込まれたクリスタルが一斉に赤く輝いた。


「焼き尽くせ――『天焦がす太陽ヘリオス・ノヴァ』!」


 それは、森で見せた原生生物の比ではない。

 塔に充満する高濃度のナノマシンをすべて燃料にした、絶対的な破壊の光。


「エトス、全力だ! 演算を俺に回せ!」


『了解……! ニューラルリンク、限界突破リミットブレイク。マスター、脳が焼けます。耐えてください!』


 カイルの視界に、世界中の理を書き換える青い文字列が猛烈なスピードで流れ落ちる。

  迫りくる巨大な火球に対し、カイルは偽装杖を突き出した。


「消えろォ!!」


 カイルの声とエトスの命令が重なった瞬間、ゼノスの放った太陽が、カイルの目の前で「透明な水」のように姿を変え、床に激しく降り注いだ。

  物理法則の書き換え。ナノマシンの燃焼命令を、強制的に液化命令へと上書きしたのだ。


「……何だと……!? 私の魔法を、水に変えただと……!?」


「あんたの『神』は、俺の相棒エトスに負けたんだよ、父上!」


 カイルは水浸しの床を蹴り、驚愕に凍りつくゼノスの懐へ飛び込んだ。

 エトスが示す「魔法の糸(制御信号)」の結節点――ゼノスの杖の核を、カイルの拳が打ち抜く。


 パリン、と。

  一族の栄光を象徴した杖が砕け、塔に渦巻いていた赤い光が、一気に静まり返った。


『……ア、ア、マスター……目標、沈黙……』


  耳元のエトスの声が、ノイズで激しく割れる。


『私の……言語、プロセッサに……損傷……。……嬉しい、です、ね……。あなたが、笑って……』


「エトス?  おい、エトス!」


 カイルは倒れ伏した父を顧みず、耳元のデバイスを抱きしめた。

  勝利の代償として、エトスの「個」が崩れかけていた。

 その後ろで、ルミナスが静かに膝をついた。


「……終わったのか。……私の、記憶は……これ以上、消えずに済むのか……?」

父を倒し、塔を制圧したカイル。しかし、それはセレスティア全土の魔法が「弱体化」することを意味していた。 力を失った空中都市を、隣国の軍事帝国が虎視眈々と狙い始める。


次回、鋼鉄の少女、冗談を覚える

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