崩壊する理、繋ぎ止める手
ガイア帝国の皇帝が駆る『神の鎧・ゼウス』が爆散し、砂漠に鉄の雨が降る。
しかし、カイルに勝利の味はしなかった。
「……あ、あ……エトス……」
カイルは、今にも消えそうなほど透き通ったエトスのホログラムを抱きしめようとした。
だが、その手は虚しく空を切り、彼女の体をすり抜ける。
デバイスからは火花が散り、警告音が絶え間なく鳴り響いていた。
感情という「非効率な熱」を全開放した代償として、彼女のメインプロセッサは物理的に限界を迎え、融解を始めていたのだ。
そこへ、大破した機体から這い出したガイア帝国の皇帝が、血を吐きながら醜く笑った。
「……ハハハ! 壊れたか、古代の遺物め。喜べ、少年。心を許した機械の末路だ。……魔法もAIも、ただの道具として使い潰すのが正解だったのだ……!」
カイルは皇帝を鋭く睨みつけた。
「道具……? こいつは俺の相棒だ。あんたたちみたいに、壊れたら捨てるようなガラクタじゃない!」
「カイル……」
後ろで立ち上がったルミナスが、震える声でカイルを呼んだ。
記憶を取り戻した彼は、カイルが自分を救うために何を捨てたのか、そしてエトスが何を背負ったのかを、残存するデータの残響からすべて察していた。
「あの子を救う方法はないのか。……私を救うために、あの子は……」
『……あります、ルミナス様……』
エトスが、途切れ途切れの声でカイルの網膜に座標を表示した。
『セレスティアの……さらに上空。この世界を管理する……中央サーバー「エデン」……。そこへ私の核を直接繋げば、データの再構成が……可能です。……ですが、それは全人類の魔法を……完全に消去することを……意味します……』
「エデン……。そこに行けば、お前を治せるんだな?」
カイルは決意を込めて立ち上がった。
魔法というシステムがある限り、ルミナスの記憶は奪われ続け、ガイア帝国のような野心家がそれを奪い合い、エトスのような存在が「バグ」として傷つく。
そんな世界なら、壊してしまった方がいい。
「行くぞ、ルミナス叔父さん。俺はエトスを救って、ついでにこの狂った『魔法』ってやつを世界からデリートしてやる」
カイルは動かなくなった旗艦『レヴァイアサン』へとエトスのデバイスを接続し、無理やりシステムを再起動させた。
エトスは消えかかる意識の中で、カイルの無茶苦茶な、けれど真っ直ぐな言葉に、プログラムにはない「愛おしさ」を感じていた。
『……了解しました、マスター。……本当に……最高に非効率な、私だけの……』
レヴァイアサンが、再び空へと機首を向ける。
レヴァイアサンは、これまで誰も到達したことのない高度――雲海を突き抜け、星々が瞬く「宇宙」へと辿り着いた。そこには、セレスティアを吊り下げる巨大なアンカーであり、世界の管理システムである『エデン』が静かに鎮座していた。
次回、空の果て、神の住まう揺り籠




