神に見捨てられた少年、神の知恵を拾う
「魔力無き者は、人にあらず。……ましてや、アステリアの血を引く者ならば、死こそが唯一の洗礼である」
空中都市セレスティアの荘厳な儀式の間。
父、ゼノス・アステリアの声は氷のように冷たかった。
膝をつくカイルの周囲には、一族の長老たちが居並び、憐れみと軽蔑の視線を投げかけている。
アステリア家は代々、太陽の如き紅蓮の炎を操ることで、この浮遊都市の高度を維持する「心臓」の役割を担ってきた。
その長男が、火を灯すことすらできない「無」であることは、一族にとっての国家反逆罪にも等しい。
「父上、お待ちください! 僕はまだ……!」
「黙れ、泥を吐く口が」
ゼノスが指を鳴らすと、カイルの胸に刻まれた輝かしい家紋が、魔法の熱で焼き潰された。
絶叫が上がる。
それは単なる火傷ではない。
家紋を通じて供給されていた都市の「加護」を断絶し、存在を抹消する儀式だ。
カイルはそのまま、都市の端にある『排出口』へと引きずられていった。
「アビスで、自らの無価値さを噛み締めながら朽ち果てるがいい」
背中を蹴られ、カイルの身体は雲海を突き抜けた。
高度数千メートルからの落下。
しかし、アビスに溜まった数千年分の「ガラクタの山」がクッションとなり、奇跡的に彼は命を繋いだ。
「……はぁ、……っ……死んで、たまるか……」
血反吐を吐きながら、カイルは這い出した。
そこは、セレスティアで「魔法の源」として崇められている光の粒子――ナノマシンが、ドス黒い霧となって停滞する死の地だった。
普通の人間なら数分で脳が焼き切れる高濃度の汚染。
だが、カイルの体質は不思議とその霧を弾いていた。
彼は逃げ込んだ先で、巨大な鉄の扉を見つける。
その扉には、アステリア家の紋章の原型とも思える、奇妙な幾何学模様が刻まれていた。
カイルが血に汚れた手でその模様に触れた、その時。
『――遺伝子照合。第13世代・直系種と確認。大気中のナノマシン汚染度……深刻。……隔離ドームのセーフティを解除します』
重厚な音を立てて扉が開く。
そこには、セレスティアのどの神殿よりも精密で、美しく、そして不気味な「銀色の空間」が広がっていた。
部屋の中央、液体に満たされたカプセルの中に、一人の少女が眠っていた。
カイルがふらふらと歩み寄り、カプセルに触れる。
すると、少女の目が開いた。
琥珀色の瞳が、冷徹にカイルを走査する。
『……あなたが、私の新しいマスターですか? 3000年ぶりの起動としては、随分とボロボロのようですが』
「お前、は……」
『個体識別名:エトス。……驚きました。あなたの体細胞、この時代の欠陥人類とは異なり、ナノマシンへの拒絶反応が完璧です。……「魔力が無い」のではなく、「魔法という名のシステムエラー」を許容しない、正常な人間だ』
エトスはカプセルから滑り出すように現れ、カイルの耳元に手を添えた。
『マスター、カイル。外に、あなたを「処分」しに来た追っ手がいます。……あなたの命を救う代わりに、私に「世界を正す権限」を譲渡しますか?』
「世界を、正す……?」
『はい。この偽りの魔法に満ちた世界を、再び理の元へ』
カイルは、自分を捨てた空を見上げ、そして目の前の銀色の少女を見つめた。
「やってくれ……。俺を笑った奴らに、本当の『力』ってやつを教えてやりたい」
『契約成立。……外部神経接続、開始。……演算を私に。絶望を過去に。……さあ、反撃を始めましょう』
エトスが指を振ると、カイルの視界にデジタルな照準が浮かび上がる。
直後、扉を爆破して入ってきた重々しい装備を着た魔導騎士が現れる。
そして魔導騎士たちの眩い光が輝き始め、「最強の魔法」が、カイルに向かって放たれる。
しかし、カイルの手の平ひとつで、ただの「光の粒子」へと分解されて消えた。
エトスを連れ、カイルは下界から這い上がる。 「魔法が効かない」という特異体質と、エトスの「超科学」を武器に、彼は身分を偽り、セレスティアの中枢へと潜入する。 その門を叩くため、彼は騎士団入団試験に挑むが、試験官として現れたのは、かつて自分をゴミのように捨てた父親の側近だった。
次回、嘘と演算の境界線




