⑨ ホームカミング
「じゃあ、そろそろ彼女を、元の時空に送り届けなくちゃね?」
雪子に言われて、サン・ジェルマンも準備に入った。
「元の場所の座標は分かっているから、あとは時間ですね?」
「それは貞子さんが鳥居のポータルに入った、翌日にしましょう。」
雪子が提案し、それをサン・ジェルマンが採用し、入力した。
「貞子さん、それでよろしいですね?」
「はい…あのう…。」
「何だい?」
「良かったら、お二人も一緒に来ていただけませんか?私一人では、事態をおばあ様に上手く説明できないかもしれないので…。」
「どうします?雪子さん。」
「いいわよ。どうせヒマだし。つき合うわ。」
「じゃあ、決まりですね。」
「ありがとうございます。」
「貞子さん、はい、コレ。大事な箱を忘れないでね。」
「ああ、ありがとうございます。」
「私はまた、別ルートで行くから、貴方たちは仲良く二人でいらっしゃい。」
「…。」
「なによ?サン・ジェルマン。」
「いえ、なんでもないです。」
そんな訳で、サンジェルマンと貞子は、一緒にポータブルタイムマシンで元の時空の翌日に戻った。
到着した場所は、藤原宅の庭だった。
すぐ後方に、雪子も到着した。
それは1796年2月4日の午前10時のことだった。
縁側にはこの家の女当主が居た。
恐らく年齢は70歳を過ぎているだろう。
しかし濃緑色の留袖を隙なく着こなし、背筋を伸ばして美しく正座をするその佇まいからは、見る者に老いを一切感じさせないのであった。
そしてやはり、まるで予期していたかのように、突然庭に現れた三人組に対して、彼女は別段驚きもせず、こちらに注目していたのであった。
この場面で一番冷静でいられなかったのは、他ならぬ貞子だった。
「おばあ様!」
彼女は走り出すと、すぐに祖母の膝にすがりつくなり、まるで小さな子どものように泣き出した。
当主はそんな彼女を暫くそっと見つめていたが、やがて優しく声を掛けた。
「貞子さん、いつまでも泣いていては分かりませんよ。しっかりして。何があったのか、ちゃんと説明なさい。」
それでようやく彼女は顔をあげ、祖母に今までの出来事を説明した。
少しずつ冷静さを取り戻した彼女は、しっかりと事件の要点を話すことが出来たようだった。
「なるほど。」一言そう言うと、彼女はその場で立ち上がった。
「お客人のお二方、こちらで履物を脱いで、座敷に上がっていただけるかしら?」
彼女にいわれるままに、サン・ジェルマンと雪子は、縁側につながる畳敷きの座敷に入って行った。




