⑧ ランニング・パス
走りながらサンジェルマンは、上空で待機している雪子に向かって、持っていた箱を放り投げた。
誰もがその箱に注目した瞬間、あろうことか雪子がソレに向かって、手から光線を撃ち出した。
光線は箱に命中し、箱は爆発四散したように見えた。
雪子はいかにも、本当は地上の蛇男たちを狙ったつもりだったのに、うっかり❝やっちまった❞という顔をした。
それを地上から見ていた蛇男たちは、何やらお互いに意見交換し合い、やがてすごすごと河岸のアジトへと帰って行った。
「成功…したのかな?」
サンジェルマンは小さく呟いた。
「大丈夫なんですか、あの箱?」
隣で貞子が心配そうに彼に訊いた。
「ああ、あれは破壊光線では無くて、物質瞬間移動光線らしいよ。今の雪子さんには、そんなチカラもあるんだってさ。
やがて二人は既定の手順で、雪子は独自ルートで、それぞれ1711年のサン・ジェルマンの部屋に帰って来た。
「はい、コレ。大事にまた仕舞っておいてね。」
雪子から例の古い方の箱を無事に手渡され、サン・ジェルマンはすぐに、それをベッドの下に隠した。
「まるで花火みたいにキレイな爆発だったでしょ?」
雪子さんが得意気に言った。
「淀川で見た花火にソックリでした。」
貞子が不思議そうに答えた。
「箱を時空移動させた直後に、爆発をことさら大袈裟に見せたんですね?」
サン・ジェルマンが推論を述べた。
「そうよ。彼等が諦め易いようにね。因みに火薬の調合は、江戸の花火師から直接教わったの。長生きしてると、知識もスキルも手に入れ放題なのよ。」
「長生きしてるって…見たところ、貴女は私と歳が変わらないように見えるのに…。」
貞子がもっともな疑問を呈した。
「ああ、私、少し前に不老不死になったのよ。」
「えっ?」
貞子が驚く。
「やり方は、別の世界のサン・ジェルマンに聞いたの。」
「えっ?」
今度はサン・ジェルマンが驚いた。
「以前、彼から、食べたら不老不死になるという、❝人魚の肉❞の話は聞いていたの。でもその物体の正体を聞いたら、食べる気を失って、分析された成分だけを聞いておいたのよ。」
「…。」
「…後はその成分表に従って、ワクチンのようなモノを鷹志君が作って、それを私が自分で注射したの。」
「鷹志君?」
「ウチの研究所のスタッフ兼、未来の貴方の良き相棒よ。」
「へえ〜、えっ?」
「まあ、その注射した液体も、まるでカブトガニの血液のように、鮮やかなブルーだったんだけどね?」
「そりゃまた…。」
「因みに…通称❝人魚の肉❞と言われているソレの正体なんだけど…。」
「…?」
「…実はソレ、蛇男の❝同胞の肉❞らしいのよ。」
「ええっ!?」
「正しくは、彼等のご先祖様の❝ミイラ❞の一部。」
「うわあ…。」
「私も確かめたワケじゃないから、定かじゃないんだけど…別の世界の貴方はそう言っていたわ。」
「だから彼等は、あんなに箱を欲しがったんですね?」
二人の会話を聞いて、貞子は納得したようだった。




