⑦ ブラインド・ボックス
「それで…今回狙われたのが、その箱って訳ね?」
雪子は貞子が大事そうに抱えていた箱に目をやった。
「念のために開けてみたら?中身が抜かれていたら大変でしょ?」
雪子に言われて、それもそうだと貞子が箱の紐を解いてみた。
彼女は、フタをそっと上げて中を見た。
「大丈夫みたいです。ちゃんと有りました。」
「そう。それはよかったわ。とりあえずね。」
雪子は何だか含みのある言い方をした。
「そうそう、サン・ジェルマン、私が預けた箱は?」
彼女に言われたサン・ジェルマンは、ベッドの下に両手を突っ込み、ゴソゴソやってそれを取り出した。
当たり前の事だが、貞子のそれより、ほんの少しだけ古びている以外は、紐も箱の色も、キズさえも瓜二つだった。
「開けてみて。そして彼女のやつと中身を比べて。」
彼は言われるままに箱を彼女の物の隣に並べ、フタを取って比べてみた。
「…大丈夫みたいです。中身までソックリです。」
「そう。よかったわ。」
「じゃあ、私たちの箱を囮に使いましょう。」
「ええ!?」
「なに驚いてるのよ。あいつらが簡単にあきらめるワケないでしょ。」
「それもそうか。」
「それに、例えこの箱が奪われても、彼女の箱さえ無事ならば、保険になるでしょ?」
「そうか!…いや、そうなのか?」
サン・ジェルマンは、よく分からなくなって来た。
ともあれ、三人は協力して囮作戦を決行することになった。
作戦実行前に、用意周到な雪子は、自衛に役立つからと、貞子に冷気のコントロールの仕方を、軽くレクチャーしておいた。
実は長い時空の旅路の中で、雪子はそのスキルも身に着けていたのだった。
起こった事実を前提にするために、自分の箱を持ったサン・ジェルマンと貞子は、先ほど逃げ出した時間に合わせて、ポータブルタイムマシンで、月夜の橋の下の出入り口前に現れた。
雪子は独自ルートで来るらしい。
すると、河岸の壁が開き、なんとか腕の氷を溶かしたらしい黒服の男たちが、武器を持ってドヤドヤと河川敷に出て来た。
皆、顔はニンゲンに偽装し、真夜中だというのにサングラスをかけていた。
そしてその中の一人が、箱を持ったサン・ジェルマンと貞子を見つけると、他のメンバーに声を掛け、皆で一斉に追いかけて来た。
すると貞子が、サン・ジェルマンと一緒に河岸を走って逃げながら、振り向いて両手で冷気を打ち出す。
二人と蛇男たちとの間の地面が凍り付き、彼らは次々に転んでしまい、なかなか二人に追いつけなかった。
そしてそのせいで、彼らと二人の間の距離は、少しずつではあるが、確実に離れて行った。
たまらず、蛇男の先頭集団の一人が拳銃のようなモノを構えて撃った。
銃口からは実弾では無く赤い光線が出たが、残念ながらそれも、空から現れた雪子の電磁防壁に阻まれてしまった。




