㊻ ソー・ロング
雪子とサン・ジェルマンが帰り支度をしていると、そこへセベクが戻って来た。
「今、私の全ての遠征軍を撤退させて来た。」
セベクがサン・ジェルマンに向かって、勝手に喋り出した。
「そしてもう二度と、攻め込まない事を誓って来た。サン・ジェルマンの名に賭けてな。」
「えっ?」とサン・ジェルマン。
不謹慎にも、クスクス笑う雪子。
「コレが俺なりの誠意ってヤツだ。コレで貸し借り無しだ。じゃあな。もう二度と遭うことも無かろう。」
「え、あ、ちょっと…。」
「ああ、そうそう。」
「…なに?」
「俺の世界には、俺の王国以外に3つの大国がある。ソイツらがどこで何をしようが、俺の知った事では無い。その旨、悪しからずよろしく。」
最後にそう言い遺して、彼は再びポータルの中に去って行った。
「…なるほど。こんな感じに貴方の魔王伝説は始まるのね?」
雪子は一人で納得したようだった。
「えっ、それって、どういう…?」
サン・ジェルマンは要領を得ない顔だ。
「つまりこの先も、今回のような事が、犬族、猫族、鳥族との間にも起こるってことよ!」
「え、え〜?」
駆け出しの魔王は情けない声を出した。
「さあ、マストなイベントは全て済んだみたいだし、私たちもそろそろ帰りましょうか?」
雪子に促され、サン・ジェルマンは小型トランクを開けて、タイムマシンを起動させる。
「雪子さんは…どうするんですか?」
「私?私はこのデバイスで帰れるからいいけど…。」
そう言って彼女はチラリと自分の腕を確認する。
「…どうせ暇だし、貴方のところに寄って行こうかしら?」
彼女はそう言いながら、彼の腕に自分の腕を絡めた。
「…別に構わないけど。」
と視線を逸らすサン・ジェルマン。
「え〜。そこは、大歓迎です!じゃないのぉ~?」
「もぉ、行きますよ!」
サン・ジェルマンは、タイムマシンのスタートレバーを引いた。
その頃、1989年4月1日のサン・ジェルマンは、名護屋テレビ塔の異次元レストランで、のんびりモーニング・コーヒーを楽しんで居た。
ここのところナンダカンダあって、ずっと賑やかだったから、久しぶりの静かな時間を満喫していたのだった。
皆、出払っていると言うことは、あの事件が起こっているのだな。アレは愉快な冒険だったな。でも、あの後は、なかなか雪子さんが帰ってくれなくて大変だった。
そんな事を思い出しながら、彼は一人でニヤニヤしていたのだった。
するとイキナリ左の頬をつねられた。
「な〜に思い出し笑いしてるのよ?どうせ隣にあたしが居ることなんか、すっかり忘れてるんでしょ?」
村田京子にそう指摘され、彼は少しだけ動揺した。
と、そこへ…。
「たっだいまぁ~!じゃなかった。おっはよぉございま〜す!」
元気な声とともに、真田由理子、杉浦鷹志がエレベーターから出て来た。
「今日、シフト入ってましたよね?」
いつものように冷静に尋ねる鷹志。
「はい。今日も肩の力は抜いて、でも真剣に、お仕事宜しくお願いしますね?」
「了解で〜す!」
これまたいつものように、由理子が元気に答えた。
こうして、今日もこの時代の、サン・ジェルマンの大切な居場所である名護屋テレビ塔では、平和な日常が始まるのであった。
…全ては過去の出来事。
“兵どもが夢の跡”…である。
以上で、このエピソードは完結です。
次回作は「赤い髪のメイドと猫王子」です。
その後の由理子とミケーネのお話を描きます。
年末から年明けを跨いで連載予定です。
どうぞご期待下さい(>ω<)




