㊺ アフター・ケア
藤原貞子は苦戦していた。
祖母宅の門をポータルにして、次から次へと爬虫類族の軍団がやって来るのだ。
まったくキリが無い。
彼女が地面に氷を張り、ヤツラが転んだところを、式神のムサシが斬り伏せる。
そろそろその繰り返しにも疲れて来ていた。
そこへ外出先から祖母の節子が戻って来た。
「コレは…なんの騒ぎなの?」
「分かりません。多分庭に埋めたアレを、狙って来ているのかと…。」
そんな会話の間にも、襲いかかる爬虫類族たち。
「貞子さん、チカラはこうやって使うのよ。」
そう言うと節子は、両腕を空に突き上げて念を込め、次にそれを一気に振り下ろした。
すると、空から氷の槍が次々に振って来て、爬虫類族の兵隊たちに、どんどん突き刺さった。
「おばあ様、凄い…。」
貞子はつい、見惚れてしまった。
その時、ポータルが光り輝き、ひときわ大柄な爬虫類族の戦士が現れた。
それは古代エジプトから、時空を超えてやって来たセベクだった。
彼は何やら分からない言語で兵士たちに命令したようだった。
すると、全ての爬虫類族が戦闘を止めて、ポータルから戻って行った。
兵士が一人残らず帰ったことを確認すると、彼は最後に流暢な日本語でこう言った。
「勇敢な、日本の神に仕える者たちよ。色々迷惑をかけて済まない。もう二度とここに現れないと誓おう。サン・ジェルマンの名に賭けて!」
そして彼もまた、ポータルの向こうに消えて行ったのだった。
一方その頃、真田研究所にも、爬虫類族の軍団が大挙して押し寄せて来ていた。
彼等は、杉浦鷹志が張った電磁防壁の内側にも、やすやすと入り込んで来た。
ただ、こちらには真田雪村が居たので、次々にやって来る敵を、指先一つで跳ね飛ばしていた。
それはまるで、一人一人にデコピンをしているようだった。
しかし、彼は決してフザケてなどいなかった。
こうしてチカラをセーブして使わないと、周りに甚大な被害を及ぼす危険があるからなのだった。
そんな雪村も、同じことの繰り返しに、いい加減、飽き飽きして来ていた。
「こりゃあ、何時までもキリがないなあ。面倒くさいぞ。」
その時、天頂部分の電磁防壁が破られ、ひときわ大柄な爬虫類族の戦士が舞い降りて来た。
それはまたもやセベクだった。
彼がヘブライ語で指示を出すと、全ての爬虫類族が一斉に撤退を開始した。
彼等は見る見る居なくなって行き、最後にセベクだけが残った。
「真田由理子は居るか?」
彼の日本語の呼びかけに、物陰に避難していた由理子が出て来た。
「今さら何かしら?」
「迷惑をかけて済まなかった。我が軍団は、もう二度とここを訪れないと誓おう。サン・ジェルマンの名に賭けて!」
「えっ、何それ?一体どういう…。」
目を白黒させている彼女を尻目に、セベクはまたもや、消えてしまったのだった。
「今のは誰だい?」雪村が訊く。
「ついさっき、一万二千年ほど前のエジプトで会った鰐王セベクよ。多分、私の時空移動をトレースしたのね。でも、今の行動は謎だわ。」
由理子は首を捻った。




