㊹ マジカル・フード
サン・ジェルマンは、初めて人魚の肉と呼ばれるモノを食べたが、中々の副作用で、正直な話、内心参ってしまっていた。
実は暫くの間、目眩が抜けず、まるで乗り物酔いになったように、ずっと気持ち悪かったのだ。
決戦のタイミングで、ギリギリ体調が戻ってホントに良かった。と、彼は今、ホッと胸を撫で下ろしているのであった。
それはさて置き、セベクのことである。
サン・ジェルマンによって、図らずも死の淵から復活させられた彼は、暫く考え込んでいた。
しかし、ついに決心したようだった。
「よし、決めたぞ!」
そう言うと彼は、突きつけていた杖を手元に戻した。
「俺は、他人に借りを作ったままで居ることが、何よりもキライなのだ、」
「へえ、そうなのかい?」
「だから、今すぐ、借りを返しに行ってやる。」
そう言うとセベクは、スフィンクスの顎の下に向かってまっしぐらに走って行き、時空の彼方に消えてしまった。
「あ〜あ、行っちゃったわねぇ〜。」
雪子がいつの間にか、サン・ジェルマンの隣まで戻って来ていた。
「まったく、酷い目にあったわぁ。」
そんなことを言いながら、首や肩をグルグル回して、何だか呑気そうな彼女。
「衝撃波で、あんな遠くの砂山の中に、ぶち込まれたのよ。もうすっかり、カラダ中が砂だらけだわ。アンナところにもコンナところにも、砂が入り込んでタイヘンよ。見る?」
そう言いながら彼女は、セーラー服のスカートをめくり上げて見せる。
「いや、もう、勘弁して下さいよ、雪子さん。」
とサン・ジェルマン。
「どうせワザと手を出さずに、砂の中から、ずっと様子を見てたんでしょ?」
「あー、バレてたんだぁ?」
「まったく、ヒトが悪いんだから。」
「でもまあ、貴方が勝つって分かってたしね?」
「そうなんですか?」
「それに、貴方、自分のチカラを試したかったんでしょ?ずっと私たちに助けられたままの自分が、イヤになっていたし…。」
「やれやれ、やっぱり雪子さんはには敵わないや。何でも御見通しなんですね?」
「まあね。貴方を育てたのは、私なんだし…。」
「それにしても、セベクはどこに行っちゃったんですかねえ?」
「まあ、それも、何となく見当はつくんだけどね。」
「…どこなんです?」
「どこだと思う?」
「う〜ん?」
そこで雪子が、サンジェルマンの耳元に唇を寄せて、ナニやらゴニョゴニョと囁く。
「…あっ。」
「…ねっ。きっとそうよ。」




