㊷ バーサス
爬虫類族の王は、変わった形の槍を持っていた。
ソレは槍というより、むしろ錫杖とか魔法の杖とか呼ばれるモノに、近いように見て取れた。
そして話をしながら、徐々にソレを前に向けて、戦闘の構えに入っていた。
もちろん、それに気づかない雪子ではない。
サン・ジェルマンもオリハルコンの剣を抜いた。
「ところでサン・ジェルマン。」
「なんです?」
「貴方、さっきから顔色悪そうだけど、大丈夫なの?」
「大丈夫です。ちょっと目眩がしてたんですが、もう収まりました。」
「…そう。なら、いいけど。」
「ねえ、貴方。」
今度は爬虫類族の王に向かって声をかける雪子。
「戦闘を始める前に、名前を聞いておこうかしら。」
「これから死んでしまう者に、名乗る意味も無かろう?」
「あら、冥土の土産って言葉を知らないのかしら?
因みに私は真田雪子。時空を駆ける魔女よ。こちらの男性のことは…知っているのよね?」
「知っているとも。キサマが魔女なら、ソイツは、通りすがりの魔王だよ。」
それを聞いて雪子は、そうなの?という視線を、隣のサン・ジェルマンに送るが、彼はブンブン首を横に振って、否定のジェスチャーだった。
「そうだな。キサマのような、生意気なハダカ猿族のメスはさておき、サン・ジェルマンに対しては、名乗らないのは非礼であろう…我が名は鰐王セベク。死して尚、その名を胸に刻むが良いわ!」
そう言うが早いか、鰐王は杖を突き出しながら、雪子に飛びかかって来た。
まだ、見た目の間合いが充分あったにも関わらず、ほぼ同時に雪子に衝撃波が襲い、彼女はあっという間に、砂漠の遥か彼方に、吹っ飛ばされてしまった。
「ゆ、雪子さん!」
思わず、その様子を目で追うサン・ジェルマン。
「どこを見ている!?」
そのままセベクは、杖で空間を薙ぎ払う。
しかしサン・ジェルマンは、油断していた訳ではなかった。
彼はオリハルコンの剣で、セベクとは逆の方向から空間を薙ぎ払った。
次の瞬間、二つの衝撃波が激しくぶつかり合い、轟音とともに、お互いのチカラを相殺した。
「なかなかやるではないか。流石、通りすがりの魔王の名は、伊達では無いな?」
と満足気なセベク。
「僕は無益な殺生はキライだ。たが大切なヒトと、自分の命を守るためなら、致し方ない。」
サン・ジェルマンが答える。
「そうでなくては、なっ!」
言いながらセベクが、上段から杖を叩きつける。
「させるか!」
サン・ジェルマンが下段から剣を振り上げる。
またも空中で衝撃波がぶつかり合う。
そのまま暫く、どちらも譲らない、剣技の応酬が続いた。
辺りには何度も轟音が轟き渡り、その度にピラミッドやスフィンクスに、傷や亀裂を与えた。
あの日、式神のムサシと戦って以来、サン・ジェルマンは本気で剣技を磨いて来た。
今、正に、その鍛錬の成果が試されていたのだった。




