㊶ ライアー
「…そういう訳なので、私としては、まずサン・ジェルマンさんの意向を訊かなくてはなりません。」
そう言って由理子は彼に迫った。
「…僕としては…彼等には、このまま波風立てずに、それぞれの世界に帰って欲しいな。」
サン・ジェルマンはそう答えた。
「分かりました。そう伝えますね。」
由理子は彼の回答を伝えるために、また、動物集団の輪の中心に入って行った。
程なく、こちらの意志は伝わったようだった。
彼等はそれぞれ、サン・ジェルマンに向かってお辞儀をすると、スフィンクスの前足の間から、三々五々各々の世界に帰って行った。
猫王だけは、ミケーネの船に乗って、仲良く一緒に帰って行った。
「サン・ジェルマン、貴方、例のトランクは持ってるわね?」
雪子が徐ろに尋ねる。
「ええ、もちろん持ってますよ。オリハルコンの剣もね?」
サン・ジェルマンが即答した。
「じゃあ、由理子さん、貴女は、そのシルバーのビートルで帰ってくれる?」
「えっ、いいんですか?」
「どうぞ、どうぞ。私は個人用のデバイスを持ってるから、大丈夫。」
由理子は雪子の言葉に甘えて、それで帰って行った。
その場に居たはほとんどの者が去り、そして最後に、雪子とサン・ジェルマン、そしてもう一人、そこに残っていた。
それは爬虫類族の王だった。
※ 以下の会話は、ヘブライ語で成されています。
しかし物語の描写の都合上、日本語表記になることをお許しください。
「やはり、どうあっても、キャップストーンを我々に返す気は無いのか?」
王は雪子に尋ねる。
「そうね。そんなことをしたら、後々日本中の神社が迷惑を被るのよ。」
「では、力ずくで取り戻すしかないのだな?」
「やってごらんなさい。出来るものならね?」
「キミには僕の恩とやらは、関係ないのかな?」
そこでサン・ジェルマンが話に割り込む。
「それはソレ。これはコレだ。」
ヘビの仲間だけに、執念深いということか。
「まったく、アヌビスも、バステトも、ホルスも、物分かりが良すぎるというものだ。いくら先祖がお前の世話になったからって、あそこまで要求に素直に応じるのか?たかがニンゲン相手に、神様扱いとか…皆どうかしている…。」
「貴方の仲間だけは、いつまでもこの時空の、様々な場所に居残っているものね?」
雪子が指摘した。
確かにそうだった。
彼等は仏陀の入滅にも立ち会っていたし、1836年のパリでもアジトで暗躍していた。
それらをサン・ジェルマンは実際に見たのだった。
「古代の時代から、我々が、教え、導いてやったからこそ、貴様ら人類の文明の発展があったのだ。迷惑をかけるどころか、むしろ感謝されても良いくらいなのだ。」
「でも、オリハルコンも、エジプトのキャップストーンも、日本の神社のポータルも、貴方たちが作ったわけではないわ。それらは全て、太陽神ウトーが作ったモノ。貴方たちにとっては借り物に過ぎない。そうでしょう?」
「貴様も、随分と歴史に詳しいのだな?」
「私だって、ダテに❝超時空の魔女❞を名乗っている訳ではないのよ?」
そう言うと、雪子はニヤリと笑って見せた。




