㊲ メンテナンス
赤いビートルは、1989年3月29日の12時00分に、真田研究所の、玄関前アプローチにやって来た。
そこは名護屋市守山区志段味地域の、森林公園裏手に立地する場所なので、宇宙船の一つや二つ、容易に隠せるのだった。
由理子はまず、慎重にタイヤ兼アームを外し、ミケーネの宇宙船を地面に降ろした。
次に、すぐ隣に赤いビートルを着陸させた。
すると、玄関ホールから酒井由理子が出て来た。
「副所長、お帰りなさい。」
「ああ、弓子さん。ただいま。雪子さんは?」
鷹志が尋ねる。
「何だか野暮用とかで、サン・ジェルマンさんの所に出かけましたよ。」
「テレビ塔に?」
「ええ、そうなんだけど、そうじゃなくて…。」
「どういう事?」
「それが、何だかややこしいの。今のサン・ジェルマンさんのビートルを借りて、1726年のサン・ジェルマンさんのところに行くとかで…。」
「それって、何かヤバい事が起きてるんじゃ…また例の下鴨神社絡みとか?」
「…さあ、どうかしら?あら、由理子さん、お久しぶり。カワイイ猫ちゃんも。」
「弓子さん、こんにちは。ちょっと事情があって、またお世話になります。」
『私はカワイイ猫ちゃんではないぞ。』
「イイじゃない。細かいことは気にしないの!」
「…?」
「ああ、気にしないで。猫ちゃんとお話してるのよ。」
その後、取り敢えず鷹志は宇宙船のメンテナンスに取り掛かり、由理子と弓子、ミケーネは、サンドイッチをつまんで、お茶でも飲みながら、喫茶室で休憩することになった。
食事が終わって一息つくと、ミケーネが徐ろに身の上話を始めた。弓子にはニャーニャーとしか聞こえないので、由理子が逐一彼のセリフの解説を入れた。
『実は最近、親父の猫王が妙な事を始めたらしくて…。』
彼の一言目は、そんな感じで始まった。
『何でも、異世界どうしが交流できる、時空の交差点のような場所を見つけたとか…それがイイ儲け話にまとまりそうだって言ってたな…。』
「それはきっと、並行宇宙の特異点ね。」
最近勉強したばかりの知識を総動員して、由理子が推察する。
『…それに申し訳無いんだけど、キミたちの世界から、黄金を少々持ち出したり、召使いとして現地のニンゲンを数人、我々の世界に連れ帰ったりしていたよ。』
「えっ?」
『当然私は、親父を追及したよ。何で他所の世界のモノを搾取したり、住人を拉致したりするんだって。それはまるで、前世紀の植民地時代の、野蛮人のような振る舞いだって言ってやったのさ。』
「うん、うん。」
『そしたら、親父はとてもイヤな顔をしたよ。他の犬族も鳥族も爬虫類族も、皆やってるって。だからやめる気は無かったんだ。それから私と、何度も同じような言い合いがあって…。』
「…それで?」
『…最後には厄介払いのように、私を旅行に出したって訳さ。』
「いや…それってまるで…。」
『…分かってる。それ以上言わないでくれ!』
最後は吐き捨てるように言ったミケーネだった。




