㉟ ハプニング
次の瞬間、ミケーネの宇宙船は、海の上で波に揉まれていた。
「随分揺れるわね?」
事情の分からない由理子が、船体上部の窓から外を見る。
「うわっ、どうしよう。海の上よ。」
『何だって?』
ミケーネも慌てて外を見る。
『でも海岸が近い。それにどうやら満潮だ。このまま砂浜まで行けそうだ…いや、待て。』
「どうかしたの?」
『現地人らしきニンゲンたちが、たくさんの小舟で近づいて来るぞ。』
「不味いわね。」
『お前、責任取って対応しろ。私は避難ボックスに入るからな!』
「ああ、ズルい〜。」
『来るぞ。上のハッチを開けて、適当に相手をしてやれ。』
「…分かったわよ。やればいいんでしょ?」
由理子は仕方無く、ミケーネに言われた通りに、上部ハッチを開けて顔を出した。
「は〜い、皆さん。調子はどう?お魚釣れてるかしら?」
しかし、近づいて来る小舟のメンバーをよく見て、この声掛けは失敗だと自覚した。
全員、漁師のようだが、頭にチョンマゲを着けている。
由里子は、慌てて腕時計型デバイスで、現在地の座標を確認する。
1803年2月22日14時00分。
北緯35度46分。東経140度30分。
地図も表示して確認する。
「これは…茨城県の…舎利浜海岸ね。」
呟いて覚悟を決めた。
でも、出来るだけ、穏便に済ませよう。
過去の歴史に悪影響が出たら大変だもの。
彼女は、そう自分に言い聞かせた。
「貴様は何奴じゃ?何処から参った?」
小舟のリーダーらしき者から尋ねられたが、由理子は言葉が分からないフリをして、ダンマリを決め込んだ。
すると、小舟の中から選ばれたらしい、屈強そうな男たちが、次々に宇宙船に飛びついて来た。
慌てて船内に逃げ込む由理子。
数名の男たちが、窓から中を覗き込んできた。
しかし、彼女はそれ以上、外に出る気配を見せない。
仕方無く、宇宙船を4隻の小舟に括り付け、砂浜まで曳航することになった。
拿捕されたまま、砂浜まで来ると、窓をドンドン叩かれた。
そのまま力ずくで壊されてもたまらないので、由理子は避難ボックスを抱えて、宇宙船のハッチから再び上半身を出した。
砂浜には更に上位の長老のような人物が居て、先程と同じように正体を尋ねられたが、やはり由理子は黙っていた。
すると砂浜のメンバーの中でも、権力が有りそうな数人がヒソヒソ話し合いを始めた。
やがて由理子の処遇を決めたらしく、彼等は次の行動を、漁師たちに指示した。
漁師たちは先程と同様に、また小舟4隻で宇宙船を引っ張って沖まで行くと、それをその場に置き去りにして、満足気に帰って行った。
大方、御役人に見つかっても後々面倒な事になる、とか話し合ったんだろうな。
由理子はそう思ったのだった。
コレが、後の世に言う「虚ろ舟」事件の真相であり、滝沢馬琴を始めとする、多くの物書きたちが、記録に書き残しているのモノなのである…などという事を、彼女たちは知る由も無いのであった。




