㉞ スペースシップ
『コレが私の船だ。どうだ、驚いたか。』
ミケーネが振り返って言った。
そこにあったのは、大きなタライを向き合わせて、二つ重ねたような…或いは巨大なソロバンの珠のような物体だった。
中央の厚みは、大人の男性二人分くらい。
直径は、大型乗用車くらいだろうか?
何故か認めたくないが、それはまるで空飛ぶ円盤そのものだった。
「何よ、これ?」
由理子は正直、驚いた。
常にファンタジックな思考ができる彼女でも、実際ミケーネの話については、半信半疑だったのである。
『凄いだろう?とても貴様らニンゲンには作れまい。』
ミケーネは、口をアングリ開けてびっくりしている、由理子のリアクションに気を良くしたらしく、こんなことまで言い出した。
『よし。特別に中に入ってもいいぞ。もっと驚くがいい。』
「うん。入る、入る。」
こうした場合、彼女は警戒心が無く、ノリが良いのである。
生体認証が仕込まれているのだろうか?ミケーネが近づくと、その船の下の丸い部分が一部外側に開いて、そこから中に入れたのだった。
室内は、操縦席兼居住スペースと、休憩室兼寝室に、透明な仕切りで分かれていた。
「へえ、なかなか素敵じゃない?お金持ちの高級ヨットみたい。」
『飲料や食料も液体になって、ビンで常備されているぞ。』
「ほほう。」
『ここに緊急避難ボックスもある。』
彼がそう言うので目をやると、そこには60cm四方ほどの、キューブ型の箱があった。
『中の食料はわずかだが、外の様子はうかがえる。隙あらばすぐ出ればいい。短期間なら、この中で生きながらえる事も可能だ。』
「小さいけど、貴方にはぴったりなシェルターね?」
そして彼女は当然の疑問を口にした。
「ねえ、コレに乗って故郷に帰ればいいじゃない?」
『実は困っているのは、その事なのだ。どうも、時空転移装置の調子が良くない。』
「ああ、それは確かに私の専門外だわ。でも私のパートナーの鷹志ならきっと直せるし、サン・ジェルマンならもっと専門家よ。」
『サン・ジェルマンだと?』
「そうよ。彼は私の雇い主で、私の先生でもあるわ。」
『確か昔、親父からその名を聞いたことがあるぞ…何か大きな恩があるとか?』
「へえ、やっぱり凄いな。あの人、異世界にまで顔がきくんだ。」
そんな雑談をしながら、由理子は何気なく、操作パネルに手をついて、お尻から後ろに体重をかけた。
すると船内のどこか奥の方から、低い音が聞こえ始めた。
「何このヒューン、ヒューンて音?」
『あっ、キサマ、起動ボタンを押したな!?』
「何よ?安全装置くらい付けときなさいよ!」
『それも壊れちゃったんだよ!』
パニックになるネコとニンゲン。
次の瞬間、空飛ぶ円盤はその原っぱから消えてしまったのだった。




