㉝ フレンド
「ところで、何かお困りのようね?」
『何故、キサマに分かる?』
「だって顔にそう書いてあるもの。それに、レディに向かってキサマなんて失礼よ。私は真田由理子。ユリコって呼んでイイわよ?」
『私の悩みは、キサマらハダカ猿族にとっては高尚過ぎる。相談するだけ無駄だ。』
「あら、決めつけるのは良くないわよ。私だって最近は、鷹志さんの影響で、時空間移動のこととか、ヘブライ語とか、ラテン語とか、物理学とか、数学とか…結構勉強してるんだから。」
『時空間移動の話が分かるとは意外だ。それに、ヘブライ語は神の言魂だぞ。』
「あら、そうなの?まあ、確かに昔の聖書はそれで書かれていたらしいけど…。」
『じゃあ、訊くが…ここは、いつの、どこだ?』
「今は…西暦1989年3月29日の午前9時30分。ここは地球の日本国内にある、愛知県名古屋市東区よ。緯度や経度も必要かしら?」
由理子は、借り物の黒い腕時計型デバイスでデータを確認しながら、ワザとバカ丁寧に言ってやった。
『西暦って何だ?』
「キリスト教で言う、神の子イエス・キリストが生まれた日を起点にした、1年を365日とする年号よ。」
『何てことだ。我々猫族の神歴と同じではないか。神は、自分自身の姿をモデルにして、我々猫族を作られたのだろう?』
「…私は、神の姿はニンゲンにソックリって聞いたけど。」
『ニンゲンとは何だ?』
「貴方が失礼にも、ハダカ猿族と呼んでいる私たちの事よ。ところで貴方のお名前は?」
『私は猫族の王子、ミケーネ・エジプシャンだ。どうだ、驚いたか?キサマ、頭が高いぞ、控えおろう。』
「何それ?カワイイ。水戸黄門のマネ?」
由理子はクスクス笑い、ミケーネは呆れた。
『まったく。コレだから、下等生物は困る。』
「私が下等かどうかは、最後まで相談してから決めなさいよね?」
『…分かった。じゃあ、コッチへ来い。驚くなよ?』
彼はそう言うと、彼女を近くの空き地に案内した。
そこは何らかのオトナの事情で、工事が途中で放棄されてしまい、雑草が伸び放題に生い茂った空き地だった。
ミケーネは囲ってあるトラ柵を潜り抜け、由理子は跨いでそこに侵入した。
「ねえ、ここ、勝手に入ったら怒られるわよ…ニンゲンは。」
『しっ!静かに。隠れてついて来い。』
仕方なく彼女は、身をかがめて背の高い草の中を歩いて行く。
やがて草だらけの中に、そこだけ少し地面の見える場所に出た。
そこはちょうど空き地の中央あたりで、周囲から完全に死角になっている所だった。




