㉛ エクスポジション
それは貞子にとって、例の下鴨神社の鳥居の騒動から、10日程たった頃の出来事だった。
彼女からの呼び出しを待たずして、なんと雪子が祖母の藤原節子宅に、再び現れたのだ。
ただ、現れ方が特殊だったので、一時的にその庭はカオスになってしまった。
まず突然、巨大な銀色のカブトムシが現れたのだ。
その余りの異様さに、彼女はすっかりパニックになってしまった。
そして少しでも、その中から雪子が出て来るタイミングが遅かったら、うっかり氷漬けにしてしまうところがだったのだ。
更に、もう一人出てきた人物を見て、彼女は二度驚く事になった。
それはたった10日で、すっかり渋いオトナに成長した、サン・ジェルマンだったからだ。
「急にごめんね。また来ちゃった。」
ビートルのドアを開けるなり、雪子がそんな挨拶をする。
「お久しぶりです。貞子さん、お元気でしたか?」
反対側のドアを開けたサン・ジェルマンが言った。
たまたま祖母の節子が不在だったので、縁側からそのまま座敷に通された2人は、取り敢えず貞子と向き合って座った。
「実は今日、急に来た理由はね…。」
カクカクシカジカと雪子が事情を説明した。
「…それで、前回一緒に冒険…じゃなかった、使命を果たした貴女も、当然知る権利があると考えて、出来るだけ日を置かずにココに来たのよ。」
「それは…わざわざありがとうございます。」
貞子が礼を言う。
「こちらはその後どう?変わり無いかしら。」
雪子は一応確認してみた。
「ええ、至って平和な毎日です。」
「そう、それは良かった。じゃあ式神もそのままなのね?」
「はい。蛇人間たちも諦めたのか、ピッタリと現れなくなったので、あれから一度も発動してません。」
「そう、良かった。それで…貴女はどうする?」
「最終的な判断は、祖母に委ねるしかありませんが…。」
「うん、うん。」
「…私の個人的な意見としては、参加は辞退したいです。」
「…そうなの?」
「私の本来の御役目は、巫女なのです。ですから、宮司様と協力して、下鴨神社を守ることを第一に考えなくてはなりません。」
「…なるほど。」
「それに例の現場は、砂だらけの乾燥したところでしたから、私のチカラでは、あまりお役に立てないかと…。」
「…それもそうね。」
貞子の言うことは、もっともな事ばかりだった。
雪子は、つい勢いに任せて彼女を誘った自分を、無責任だったと少し反省した。
「なんか、ごめんね。急に変な話を持ち込んで。」
「いいんです。あの場所の事情もよく分かったので。」
「また何かあったら、ペンダントで知らせてね?」
「はい。ありがとうございます。」
「じゃあ、私たち、そろそろ行くわね?」
「はい。気をつけて下さいね?」
「大丈夫。私、最強だから…なんて、五条センセイみたいに言えたらイイんだけどね?」
「…?」
貞子もサン・ジェルマンも頭にハテナであった。
「ああ、気にしないで。未来のマンガのセリフだから。」
そして2人はビートルに乗り込むと、一路、キャップストーンを失った直後の、ギザの大ピラミッドに向かったのだった。




