㉚ ディパーチャー
翌日の早朝、身支度を整えて、こっそり屋敷を抜け出す2人の姿があった。
何故か雪子は元気ハツラツ、肌ツヤは絶好調。
もう着替えを済ませて、いつものセーラー服姿だ。
それに対してサン・ジェルマンが、幾分やつれて見えるのは気のせいだろうか?
ホワイトクリスマスの新雪を踏みしめながら、2人は森を抜けて例の広場に出た。
少年時代のサン・ジェルマンの思い出の詰まった場所だ。
しかし、今日はそこに、とんでもないモノが鎮座していた。
それは銀色の大きなカブトムシのようなモノだった。
でもよく見るとドアが、二枚付いているようだし、車輪も四つ付いている。
しかし、馬車にしては馬がつながれていない。
何だ、コレは?彼はとても不思議そうに眺めた。
「コレが未来の貴方が貸してくれたビートルよ。こう見えて、4名様まで乗れるタイムマシンなのよ。凄いでしょ?」
「コレを…僕が?」
「貴方、やっぱり天才よねえ。まあでも、残念ながら、結婚相手は私じゃないんだけどね?」
「えっ?」
「気にしない、気にしない。さあ、乗って。」
じやあ、昨夜のアレは何だったんだろう?そんな事を考えながら、ボンヤリした頭のまま、サン・ジェルマンは助手席に乗り込んだ。
「あのキャップストーンを失ったことで、あそこに定期的かつ安定的に、大挙してやって来る、新たな爬虫類族、猫族、犬族、鳥族はもう居ないはずなの。」
運転席で雪子が語り出す。
「だからまだ現地に居残っている彼等に、大人しく自分たちの世界に帰って貰えれば、万事解決なんだけど。自分たちの世界の座標くらい、知ってるはずだしね…でももし、帰って貰えない場合は、戦闘になるわね?」
「そうだね。それはできるだけ避けたいけどね。」
サン・ジェルマンとしては、そういう他は無かった。ただ、昨夜彼女から貰ったオリハルコンの剣は、念のため、ちゃんと護身用に持って来ていたのだった。
「それに今回の件に関しては、知る権利がある人が、もう一人いるわよね?」
「そうだね。確かに。」
「今から、その人に会いに行きましょう。そうねえ。あの日から、10日後にしましょうか?」
そう言うと雪子は、センターコンソールのパネルに、目的地の座標を打ち込んだ。
1796年2月16日9時00分。
北緯35度00分。 東経135度45分。
やがて、光学迷彩を張った、2003年製のシルバーのビートルは、垂直上昇すると、時空を超えて旅立って行った。
目指すは日本の京都。
下鴨神社近くの、若い巫女が暮らすあの場所だ。




