③ ポータル
「貞子さん、貴女はあの箱を取り返すために、彼等を追ってきたのですね?」
サンジェルマンは質問を続ける。
「そう…なんです。良く分かりましたね?」
相変わらず貞子はキツネに化かされたような気分だった。
「貴女は、下鴨神社の鳥居を使って移動したのですね?」
「多分、そうです。夜中に鳥居の真ん中をくぐったら、こんなことに…。」
「私なら貴女を、元の時間の元の場所に戻すことができます。どうです。私に任せてみませんか?」
「ええ、でも…その前に…。」
「理解してます。あの箱を彼等から取り返さなくてはなりませんね?」
「そうなんです。あれは、おばあ様が土蔵に大事に仕舞っておいた、貴重なものが入った箱なんです。」
「それは、乾燥させた人魚の肉ですね?」
「!?」
「貴女の居る所より、時間的にずっと後で、私と真田雪子という者が、それを預かる約束になっているのです。」
「ええっ…そんな?」
「分かります。急にそんな荒唐無稽な事を言われても、信じられませんよね?」
「…。」
「でもそれが事実なんです。そんな訳で、このままだと来たる将来、私も困ることになるので、一緒に箱を取り返しに行きましょう。」
「私を…手伝って下さるというの?」
「そうです。是非、お手伝いさせて下さい。」
彼女はしばし迷っていたようだが、やがて自ら決意を固めた。
「分かりました。他に頼る方も居ませんから、貴方を信じることにします…ところで、ここはどこなんですの?」
「ああ、それもお伝えしなくてはですね。いいですか。信じられないと思いますが、ここは西暦1836年、つまり和暦なら天保7年の7月31日、午前1時過ぎの、仏蘭西国の巴里という街なのです。」
「???」
「ああ、未来の和暦を言われても、ピンと来ないですよね。お察しします。ここは貴女の居た場所から、地理的にも遠く離れていますが、時間的にも、およそ40年程未来なのです。」
「う〜ん…。」
貞子はすっかり参ってしまったようだった。
「無理に理解しなくても、大丈夫です。いつかきっと分かる日がきますから。」
「…いえ、過去や未来に行ける鳥居の話は、以前お祖母様に聞いていたので…あれ、本当だったんだ…。」
「少なくとも、さっきの二人組は、鳥居の使い方を理解していたようですね。」
「…私はとにかく、危ない目に遭うといけないから、鳥居の真ん中は決してくぐるなと、幼い頃から常々、お祖母様に言われていました…でも凄い、本当だったんだ。」
彼女はもう、ただただ感心しきりだった。




