㉗ クリスマスイブ
あれから約15年。サン・ジェルマンは35歳になっていた。
その後も彼は、タイムトラベルを何度も繰り返した。
安定して炎を操る術も身に着けて、剣技にも更に磨きをかけていた。
そしてパリの社交界にも顔を出し初め、少しずつ頭角を現していた。
つまり、今まさに、彼は中世のオトナの男として成熟し、一人前になりつつあったのだった。
そんな1726年12月24日の夜10時を過ぎた頃…。
突然、彼の部屋の窓を「ドン、ドン」と叩く音がしたのだった。
彼は久々にフランスから生家に里帰りして、ベッドに入ってウトウトしたところだったので、ビクッとしてしまった。
そして、この部屋が3階であることに気がついて、更にビクビクしてしまった。
こんな夜中に、バルコニーも無い3階の窓を叩ける者など、モノノケの類と相場が決まっているのである。
しかし、今の僕には、火球を出す術がある。それに剣技も相当磨いた。何がやって来ようが、負ける訳がないのだ…と、布団を被ったまま、彼は自分に言い聞せる。
「ねえ、いい加減、開けてよ。外は寒いんだけど?」
それは、懐かしい日本語の声だった。
彼は思わず自分の耳を疑ったが…直ぐにベッドから飛び出して窓に向かった。
窓の外で空中に浮かんで居たのは、果たして紛れも無く愛しの真田雪子だった。
しかし、彼は戸惑いを隠せなかった。
何故なら、彼女が着ている服の色が、真っ赤だったからだ。それに何だか白くて大きな袋を担いでいる。
「何ボンヤリしてるのよ?は・や・く!」
「あ、ああ、今開けるよ。」
窓から外の冷気とともに、赤い服の雪子がフワリと入って来た。
ふと外に目をやると、月明かりの中で、庭に薄っすらと雪が積もっているのが見えた。道理で寒い訳だ。
「ああ、寒かった。目立つのは悪いと思って、ビートルを少し離れた所に停めたのよ。失敗だったわ。光学迷彩を使えば良かった。」
久しぶりに逢えた雪子は、相変わらず、分からない単語を使っていた。またそのうちに教えて貰おう、とサン・ジェルマンは思った。
「やっぱり暖炉はいいわねえ。視覚的にも暖まるわあ。」
と白い手袋を取って、炎の前で手を擦り合わせる雪子。
「あの、今日は急にどうしたんですか?それにその赤い服は、一体…?」
「ああ、コレ?だって今日はクリスマスイブでしょ?だから良い子のサン・ジェルマン君に、プレゼントを届けに来たのよ。」
「僕はもう、結構なオトナですけど…。それに、だからって赤い服じゃなくても…。」
「ああ、そうか。ごめんなさい。赤い服はずっと未来にコカ・コーラがCMで定着させたんだった…。」




