㉕ エフェクト
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そして次の瞬間、式神のエイ!という気合いとともに、彼の剣は跳ね上がり、遥か遠くまで飛ばされてしまった。
武器を失い、丸腰になったサン・ジェルマンは、いよいよ万事休すだった。
誰よりも、本人が一番そう思った。
しかし式神は、両手に持った二刀を振りかぶったまま、動かなくなった。
ふと気がつくと、何だか両の掌が暖かい。
サン・ジェルマンが目をやると、何とそこには火の玉が浮かんでいたのだった。
両手の上に有る火球は、果たして自分が出したモノなのか?
サン・ジェルマンには、よく分からなかった。
「それまで!」
晴明がそう声をかけて柏手を一つ打つと、武人の姿だった式神は、あっと言う間にただの小さなヒトガタの紙になってしまった。
そして、ソレを拾い上げると、晴明が彼に言った。
「おめでとう。異国のお方。貴方の勝ちです。」
「えっ?」
「そんな炎を出されてしまっては、元々ただの紙である式神など、ひとたまりもありませんからね?」
「この炎は…僕が…自分で?」
サン・ジェルマンはまだ、自分のチカラの発現が信じられなかった。
しかし安心すると同時に、二つの火球が消えてしまったので、疑心暗鬼ながらも、半分ほどは信じられたのだった。
「最初からソレが狙いだったのでしょう?」
雪子が横から口を挟んだ。
「はて?何のことやら。」と晴明。
「彼のチカラの片鱗には、私も気づいていたわ。だから貴方がやらなくても、いつかは私が、それを引き出すつもりでいたのよ。でも彼が命の危機を感じるまで、精神的に追い込まないと、最初のチカラの発現はできない。だから私は、今までそれを躊躇っていたのよ。」
「なるほど…どうやら余計なお世話だったかな?」
「…一応、お礼は言っておくわ。ありがとう。きっと彼の新しいチカラは、今後の旅の役に立つわね。」
安倍晴明に対しては、対等な姿勢の雪子だった。
聖徳太子の時とはだいぶ違う。
うん、いつもの雪子さんだ。
サン・ジェルマンはそう思うと、何だかホッとするのと同時に、ドッと疲れが押し寄せるのを感じたのだった。
「それではお嬢さん、こちらを差し上げましょう。」
晴明が貞子に、さっきまで武人だったヒトガタの紙を渡した。
「持ち主の危機に際しては、武人の姿になって助けるよう、術式が仕込んであります。くれぐれも火気厳禁で保管を。」
「貴重なモノを、本当にありがとうございます。大切に扱いたいと思います。」
「こちらこそ。おかげで、良い余興を見る事ができましたよ。貴女たちのことは、大変気に入りました。また気が向いたら、いらっしゃい。歓迎しますよ。どうせその気になれば、いつでも来られるチカラが有るのでしょう?」
やはり安倍晴明には全てお見通しであった。
「お帰りはそちらからどうぞ。」
そう言って彼が門の方を指し示すと、扉が自動的に外側に開いた。
まだまだ色々な術を隠し持っているのだろうな。
サン・ジェルマンは晴明に、底知れないチカラを感じたのだった。




