㉔ デュエル
邸内の庭の中の、そこだけ草木の少ない縁側の前で、西洋と東洋の剣士が、白刃を交えて向き合う。
皆はただそれを、息を飲んで見守るしか無かった。
「時に雪子さんとやら…。」
その状況下で、思い出したように晴明が尋ねる。
「はい。何でしょうか?」
二人を見つめたまま、雪子が答える。
「貴女は何も異議を唱えないのですね?」
「私は晴明様のなさる事を、信じていますから。」
「ほう?」
「貴方がどんな無茶なことをされようと、それには必ず意味が有るはずなのです。そうでしょう?」
「…さあ、どうかな?」
晴明はそう言うと、薄っすらと笑顔を作った。
「構わないわ。サン・ジェルマン、思いっ切りやりなさい!」
彼女はゲキを飛ばした。
「了解!」
彼は吹っ切れたように、中段の構えで式神に向かって行った。
式神が彼の刀を、下から苦も無くなぎ払う。
そしてそのまま、ガラ空きの左脇腹を狙って来た。
サン・ジェルマンは、払われた刀を右上段にしたまま、左後ろへ飛び退った。
式神の刀は空を斬ったように見えたが…サン・ジェルマンの左脇の服が、僅かに切り裂かれていた。
「危ないなあ。もう少しで腹の臓物に届きましたよ?」
晴明がさも愉快そうに言う。
どうやら正真正銘の真剣のようだ。
サン・ジェルマンが顔色を無くした。
彼とて貴族の端くれ。
その嗜みとしてではあるが、専属の家庭教師によって、日々の鍛錬を積み重ねて来ていたのだ。
そして、もう教えることは無い、とまで言われるレベルには成っていたのだった。
しかし、如何せん、真剣での実践経験は皆無だった。
それ故、自信満々かと言うと、それはウソになる。
むしろ不安しか無かった。
だが今さら引く訳にも行かない。
それに彼も、貞子の役に立ちたかったのだ。
次に彼は、式神の左の腹に隙を見つけ、踏み込んで右上段から素早く刀を振り下ろした。
その時ガチン、というような音がした。
手応えがあったかに思えたが…式神の左手が、いつの間にか逆手で脇差しを抜きかけており、鞘から少し出た刃の部分で、サン・ジェルマンの剣を受け止めてしまっていたのだ。
「ああ、今のは惜しかったですねえ。しかし、これでかなり厄介な事になりましたよ?」
晴明にそう言われて式神を見ると、右手に大刀、左手に脇差しを持つ、二刀流に成っていたのだ。
ああ、間違いない。
コイツは生まれ変わったら、宮本武蔵になるのだ。
サン・ジェルマンは確信した。
式神は刀を持ったままの両手を広げて、徐々に間合いを詰めてくる。
つまり身体の真ん中がガラ空きの構えだ。
上段から打ち込んで来るのを誘っているが、他に良い手は思いつかなかった。
サン・ジェルマンは注文通り、しかし、出来るだけ素早く、上段正面から剣を打ち込んだ。
しかし彼の剣は、式神の僅か頭上で止められてしまったのだった。
式神の両手にあった二本の刀がクロスされて、サン・ジェルマンの剣をしっかりと受け止めていた。
もしも彼にも脇差しがあったなら、そこに勝機があったのだが…ここに来て図らずも、一刀対二刀の有利不利がハッキリ現れてしまったのだった。




