⑳ コンフェッション
「それに現世でしっかり修行を積んで…つまり世のため、他人のために身を粉にして働けば…。」
厩戸は語り続ける。
「…またこの世に生まれ変わって、別の人生を歩めるのだから。」
「ああ、それは仏教の輪廻転生の教えに基づく話ですね?」
雪子が答える。
「実は、私、次の人生まで見えているんですよ?」
6歳の少年が、またとんでもないことを言いだした。
「いくら千里眼でも、さすがにそれは…。」
サン・ジェルマンが言いかけたが、雪子が左手を出してそれを遮る。
「まさか…貴方…?」
「もしも私が生まれ変わったら、真田雪村になる運命だと言ったら、貴女はどうします?」
そんな事を言う厩戸少年は、なんだかとても愉快そうだった。
「…なあんてね?」
そう言って、また彼は核心をはぐらかした。
「もう、いいでしょ?勘弁して下さい。」
それは降参を意味する言葉だった。
ついに、あの雪子さんが泣きを入れた。
サン・ジェルマンは、何か見てはイケナイものを見てしまった気分だった。
「さあ、早く貴女のおばあ様の所へ戻りましょう。」
雪子は貞子を促した。
門に向かって去って行く、3人の後ろ姿に向かって、最後に縁側に座ったままの厩戸が声を掛けた。
「逢えて良かった。雪子さん、どうかお元気で!」
その声色、口調はもはや雪村そのモノだった。
しかしそれは、雪子にしか分からないモノだった。
彼女は振り向かず、俯いたまま右手を上げて振ることで、それに答えた。
そしてまた、3名は貞子から順番に、次の時空に向かって門前から消えて行ったのだった。
やがて3名は今度こそ無事に、1796年2月5日の午前10時に、藤原節子の元に帰って来た。
「ただいま。おばあ様。」
祖母の元へ、貞子が元気に駆け寄って行った。
「はい、これ。これからやって来る、危ないことに備えてね。」
未来記が書かれた巻物を差し出す。
「よくがんばったわねえ、貞子。いよいよ、もうあと一息ね。」
節子が彼女を労う。
「ねえ、ちょっとだけ休憩してもいいでしょ?」
「そうねえ。じゃあ皆さんで、お団子でも食べていきなさい。」
「わーい!」
そして祖母を含めた4名で、座卓を囲んで宇治抹茶を飲みながら、節子さんお手製の、美味しいお団子をいただいた。
その間もずっと、雪子は浮かない顔をしていた。
「大丈夫ですか?顔色が優れないようですけど…。」
サン・ジェルマンが心配そうに尋ねる。
「大丈夫。大したこと無いから。」
雪子はそう言うが、彼には一向にそうは見えない。
先程の厩戸との会話の遣り取りが、彼女には余程応えたと見受けられたのだった。
まさか聖徳太子の生まれ変わりだったなんて…そりゃあ、私が逆立ちしたって雪村に成れない訳だわ。
ちょっと見ただけで、直ぐに分かったわ。
あんなバケモノ級のチカラを持っているなんて…。
とうてい私が敵う相手じゃない。
でも、それなら何故、4次元や5次元の住人たちが、彼を野放しにしているのかしら?
もしかして、精神体のチカラが、既にもう彼等の手に負えないレベルになっているとか?
団子の味も分からなくなるくらい、雪子はそんなことを、ずっと考えているのだった。




