⑲ シミュレーション
「ところで、他の方々はどちらにみえるのかしら?パッと見たところ、誰も見当たらないのだけれど…。」
雪子が珍しく不安そうに言った。
「ああ、皆に要らぬ刺激を与えぬように、前持ってこの私が、人払いをしておいたのですよ。」
厩戸が答えた。
「それにしても、雪子さん、貴女は面白い。いや、大変興味深い、と言うべきかな?」
「…それは、どういう?」
「まずはその成り立ち。貴女はある人物のほんの小さな一部分が具現化したモノだ。」
雪子の顔面がいよいよ蒼白になる。
「そしてここへ来てからずっと、この私と戦った場合、どうしたら勝てるのかを、ずっと脳内で試行し続けている…。」
そう言うと彼はくっくっくっ、と笑った。
「…もうヤメました。どうシミュレーションしても、貴方に勝てるイメージが湧きませんから。」
雪子がお手上げのポーズをして見せた。
「そんなに怖がらなくても大丈夫。私は無益な殺生はしませんから…。」
厩戸は笑いながら言った。
「そもそも貴女は、不老不死なのでしょう?大方、人魚の肉でも食されたのかな?」
「まあ、おおむね、そのようなモノです。」
全て見透かされて、雪子はなんだか悔しそうだった。
「もっとも、あなた方が少しでも、この私に敵対するような動きを見せれば、直ちに全員、石にして差し上げますがね?」
「…えっ!?」
たった6歳の少年を前にして、三人とも震え上がってしまった。
「…やだなぁ、冗談ですよ?あなた方の脳内にやたら蛇の姿が浮かんでいたから…異国には居るのでしょう?相手を見つめるだけで、石にしてしまう恐ろしい女性が?その髪は無数の蛇で出来ていると言う…。」
「…メデューサ!」
サン・ジェルマンが後を引き取った。
「そうそう、それ。」
厩戸は相変わらずニコニコしていた。
「不老不死と言えば…。」
よほど興が乗って来たのか、厩戸の話は止まらない。
「…私も恐らく死ぬ間際の48歳のころに、人魚の肉を献上されるようなんですが…。」
「…ですが?」
サン・ジェルマンは続きが気になった。
「どうやらそれは食べずに、翌年寿命が尽きて死ぬようなんですよ。」
自分の未来のことを、まるで他人事のように語る少年である。
「私はね、むしろ死んだ後の事を、今から楽しみにしているんですよ。」
「それは、一体…?」
サン・ジェルマンには、厩戸の話の狙いが、いよいよ分からない。
「ところで雪子さん、貴女は不老不死になった今、幸せですか?」
そこでまた話の矛先が雪子に向いた。
「…不幸ではないけれど…まあ、敢えて言えば退屈かもしれないわね。」
「そうでしょうとも。人生はやはり、限りがあるから楽しめるというモノです。」
それは、およそ6歳の少年とは思えない言葉だった。




