⑰ レフト・アイ
「はあ、はあ…。」
サン・ジェルマンは肩で息をしていた。
別に運動不足という訳では無かった。
何故なら、彼には今でも毎日家庭教師が付き、幼い頃から今日までずっと、剣術や槍術などの鍛錬を積んできていたのだった。
しかし、それでもこの螺旋階段は長い。
そう思いながら上を見ると、貞子が快調に階段を駆けて行く。
さすがは17歳の少女だ。元気なことこの上ない。
こりゃあ、負けてられないな。
彼も今一度、自らに活を入れた。
やがて二人は、どうにかその巨像の左目の中までたどり着いた。
松明の灯かりを反射する役目の、銅製の巨大な凹面鏡の真ん中に、何やらソフトボール程のサイズの、球状のモノがはまっている。
「コレを取ればいいんですよね?」
貞子が尋ねる。
「たぶん…。」
そう言われても、サン・ジェルマンには自信が無い。
「…取りますね。」
彼女が手を伸ばして、その球を掴んで取り出した。
その瞬間、突然の巨大な轟音とともに、背後で何かが崩れる音がした。
何と、今二人が登って来た螺旋階段が、全て跡形も無く崩れ去ってしまったのだった。
「…そんな。」
サン・ジェルマンは当惑した。
これだけの規模の建造物だ。古代ギリシア人が、何の仕掛けもしないはずはない、とは思っていたが、コレは予想外だった。
「私に考えがあります。」
そこで貞子が、巨像の左目の穴から、顔を外に出した。
そして彼女が下に向かって両手を伸ばし、何やら集中し始めた。
「…貞子さん?」
サン・ジェルマンには、何が起ころうとしているのか分からなかった。
すると下の方から、何やらキラキラ光るモノが段々伸びて来たのだ。
「何だ、アレは?」
サン・ジェルマンは、まだ分からなかった。
しかし、ソレが近づくに従って、何だか分かって来たのだった。
それは氷だった。
貞子のチカラによって、海水が変化した氷の螺旋回廊が、巨像の左足から胴体を回って顔の左目の穴まで伸びて来たのだ。
「さあ、行きましょう。」
貞子が率先して前に出る。
「…えっ、まさか?」
びびるサン・ジェルマン。
彼女はひらりと身を躍らせると、そのウォータースライダーならぬ、氷の螺旋滑り台を滑り降りて行く。
サン・ジェルマンも覚悟を決めて後に続いた。
二人とも、思いのほか快適に地上までたどり着くと、そこで待っていた雪子と合流した。
「さすがは貞子さん、工夫したわね。」と雪子。
「今回は近くに水が大量にあったので、助かりました。」と貞子。
「どうやら貴女のチカラ、京子さんより数段上みたいね。」
「誰です、それ?」
「貴女の子孫よ。私のちょっとした知り合いなの。」
「…へえ。」
「あれっ?雪子さん、見張りの二人は?」とサン・ジェルマン。
「ああ、彼等なら、巨像の右足の中に閉じ込めておいたわ。」
「わあ、ホントだ。」
二人組の見張りだった男たちが、巨像の左足から出た瓦礫で、右足の入り口に、ギュウギュウ詰めにされている。
「私は無駄な殺生はしないのよ。」
「それは良かったです。」
「さあ、次の現場を目指しましょう。」と雪子。
「はい!」
意気揚々と返事をした貞子は、元気に巨像の股の間をくぐって消えて行ったのだった。




