⑯ コロッサス・ロードス
「次の座標はー280年4月1日6時00分。北緯36度19分。東経27度57分よ。入力して!」
雪子に言われて、サン・ジェルマンはダイヤルを合わせる。
そして彼女と肩を組んでポータブルタイムマシンを起動させた。
出た先は、目の前が潮風の心地よいエーゲ海だった。
ここはどうやらどこかの港のようだ。
大きな古いタイプの帆船が行き来している。
あれ?ゲートに使った門は何処なんだろう?
サン・ジェルマンはそんな疑問を抱きながら、ふと頭上を見上げた。
そこに見えたのは、大きな男性の巨像の股の間だった。
彼があきれて口をアングリ開けていると、少し離れたところで、同じ反応をしている貞子を見つけた。
17歳の女の子が鑑賞するには、いささか刺激が強すぎる造形かな?
彼はうっかり不謹慎なことを考えかけて、慌てて頭を振った。
いかん、いかん、そんなことを考えている場合では無かった。
「今、私たちがコレの股の間に居るってことは…巨像が行きかう船を跨ぐように港に立っていたという伝説は、どうやら間違っていたようね?」
彼の隣で雪子が囁いた。
「で、コレがつまり門の役割を果たしていると?」
「そうね。ついでに言うと、この時点から約50年後には、コレ、地震で倒壊するんだけどね?」
「…雪子さんは何でも知っているんだなあ。」
「何でもは知らないわ。知っていることだけ…ああ、コレは西尾維新センセイの専売特許だったわね?」
「何です、それ?」
「いいのよ。気にしないで、コッチの話。」
「さあ、現地人に気づかれないうちに行きましょう。貞子さん、コッチよ!」
雪子に呼ばれたことで、貞子が我に返ってやって来る。
よく見ると、巨像の左足のサンダル部分の台座に出入り口が有る。
衛兵らしき男…多分ニンゲンだと思われる…が二人で見張っているので、雪子が注意を引き付けることにした。
「はいこれ、また使ってね。」
サン・ジェルマンは、雪子から例の黒いブレスレットを渡された。
「ハーイ、こっちよ?」
それは雪子のベタな誘い文句だったが、二人の衛兵は素朴な人柄なのか、まんまと引っかかって、巨像の右足の方へ行ってくれた。
その隙にまず貞子が入り口に入り、あとからサン・ジェルマンが、後方に向けて光学迷彩を張りながらついて行く。
内側は上に向かって空洞になっており、多分頭のてっぺんまで続くであろう、螺旋階段になっていた。
「うわあ、コレを上まで登るのかあ…。」
高さ30m以上もある巨像だ。
彼は少しだけ後悔した。
そんな彼の事を知ってか知らずか、貞子はどんどん階段を登って行く。
「よし、やるかあ!」
サン・ジェルマンも、腹をくくった。




