⑮ プロミス
「20年後に再びここに来て下さい。大事な箱に、また危機が訪れます。それを守っていただきたいのです。」
初老の貞子が言った。
「…やっぱり。それ、❝未来記❞に書いてあったんですよね?」
雪子が推察して言った。
「そうです。もちろん、タダでとは申しません。箱の中身を、少しだけ使用していただいても結構ですから。」
「…たぶん、その権利、もう例の巻物に節子さんが書いてましたよ。」
「ああ、そうでした、そうでした。歳をとると、どうも忘れっぽくなっていけません。これ、与利子。」
「はーい。」
「20年後に、私がこの世から居なくなっていたら、貴女が代わりに使命を果たすのですよ?」
「え~、おばあ様、長生きしてくださいよぉ。」
「もしもの話ですよ。いいですか❝王政復古の大号令❞の1年後。朝10時ちょうどですよ。この二人の事を忘れないでね。」
「はーい。」
「…ちょっと待って雪子さん。」
そこでサンジェルマンが、今ごろ気づいたようだった。
「もしかして、この与利子さんて…あの与利子さんなの?」
「そうよ。20年後に貴方も会ったでしょ?」
この無邪気な少女が、あの少し疲れた感じの女性に…そう思うと、サン・ジェルマンは、時の残酷さを感じざるを得ないのであった。
「さあ、これで少しは、蛇男や蛇女たちのゲート使用を、妨害できたはず。次に行きましょうか。」
雪子が若い貞子に声をかけた。
「はい。それでは、これで失礼します。鍬、ありがとうございました。」
若い貞子が言う。
「いいのよ。貴女も残りの使命をがんばってね。」
初老の貞子が言葉を返す。
なんだか不思議な光景だった。
三人は連れ立って、また下賀茂神社までやって来た。
「今度は、もう午前零時じゃなくても良いのよね?」
雪子が貞子に確認する。
「そのはずです。後は使命が連続で果たせる仕組みらしいので…。」
「それにしても貴女の一族は、よほど永い間、あの蛇人間たちと戦って来たようね。この私ですらビックリするくらい、用意周到だわ。」
「日本全国の鳥居を、得体の知れない者たちに、好き勝手に使わせないため…みたいです。」
「そうそう、次に貴女が行くのは、恐らくエーゲ海のロードス島よ。」
「…?それは一体どういう…?」
「また外国よ。比較的暖かい、乾燥した気候の場所ね。たださっきみたいな砂漠ではなく、海の上だから、いざとなったら氷雪系のチカラは使えるはず。」
「それは…助かります。さっきは本当に焦りましたから。」
貞子は少しホッとしたようだった。
「じゃあ、行きますね?」
「うん、がんばって!」
サン・ジェルマンも後ろから声を掛けた。
そしてまた、彼女は鳥居の真ん中に入ると、消えて行ったのだった。




