⑫ スタート
「…あと、鳥居をくぐれるのは、藤原家の一人だけに限ると…。」
貞子はもう、半べそをかいていた。
「大丈夫よ。コレを身に着けて。」
雪子はそう言うと、ポケットから、エメラルドのような緑の石のついたペンダントを出し、貞子の首に掛けてやった。
「ほら見て。」
雪子は先程の黒いブレスレッドの上の空間に、映像を出した。
そこには白い点が光る地図のようなものと、色々な数字が映し出されていた。
「この白く光る点が貴女の場所よ。そしてこの数字が貴女の居る時間。私はコレを使って、貴女がこの時間軸の何処に行っても、見つけ出せるのよ。」
そんなオーバーテクノロジーを理解できるはずも無いが、貞子の気休めにはなったようだった。
むしろ、サン・ジェルマンの方が、今見たモノがどんなに凄い技術なのか解る分だけ、驚きを隠せなかった。
そんなサン・ジェルマンの熱い視線を感じたのか、雪子が彼に言った。
「凄いでしょ?コレ、未来の貴方と鷹志君が知恵を出し合って開発した、マルチガジェットなのよ。こんなに小さいのに、メインの機能は、貴方の旅行カバンと同じなの。」
「機能は理解できますが、そこまで小型化したのが凄いです。」
サン・ジェルマンは素直に感心した。
その後3名は、節子が出してくれた軽めの夕食を摂ると、各々出発の準備に入った。
「さっきも言った通り、私は自分のガジェットで時空移動可能なんだけど…。」
雪子がサン・ジェルマンに顔を近づけて、小さな声で言う。
「…バッテリーの節約もしたいから、今回は貴方のトランクに便乗させてね?」
「え、ええ、もちろん、イイですとも。」
青年サンジェルマンは何故かドギマギした。
そして、やっぱり雪子さんは魅力的だなと、再確認した。
それからしばらくたって、作戦決行の時間の10分前には、3名は下鴨神社の鳥居の近くに待機していた。
雪子はいつものセーラー服。
サン・ジェルマンは中世の青年伯爵らしい服装。
貞子は、使命を果たすという目的に従って、巫女の姿を続行することになった。
「じゃあ、そろそろ午前零時なので、私、行きますね?」
貞子はまだ少し不安そうだ。
「ちゃんと貴女の動向は観察しているから、大丈夫よ。安心して行ってらっしゃい。」
雪子が彼女を元気づけるように言った。
「いざとなったら、必ず助けるから!」
サンジェルマンも隣から声を掛けた。
彼女は二人に頷くと、鳥居の真下に向かってゆっくり歩いて行った。
そして1796年の2月4日から5日への零時零分零秒、彼女の姿は真っ暗な闇の中に消えて行ったのだった。




