⑩ レクチャー
貞子、雪子、サン・ジェルマンは、貞子の祖母が出してくれた座布団に、三人並んで正座した。
正面には、何やら難しそうな文字の書かれた掛け軸が掛けられた床の間がある。
「こちらで少しお待ちを…。」
そう言って彼女はその部屋を一旦出て行ったが、やがて二つの巻物を持って戻って来た。
そして床の間を背にして正座すると、そのまま座礼しながら挨拶をした。
「初めまして。私が当家の当主で貞子の祖母の、藤原節子と申します。」
慌てて二人も頭を下げて挨拶を返す。
「真田雪子です。」
空気を読んで❝超時空の魔女❞の通り名は伏せておいた。
「サン・ジェルマンです。」
若輩者なのに名前に❝伯爵❞をつけるのは、何だか恐れ多かった。
「この度はウチの貞子が大変お世話になり、ありがとうございました。」
「いえいえ、大したことはしてませんよ。」
雪子が言葉を返す。
「お二人とも見慣れない御着物なんですね。異国の方なんでしょうか?」
「…まあ、おおむね、そのようなものです。」
サン・ジェルマンが答える。
詳しく説明すると、返ってややこしいことになりそうだった。
「さて、この後は我が家の言い伝えに従い、事を進めて参りたいと存じます。」
「はい。」そう言われてもよく分からない二人だった。
「我が藤原家は、代々この箱を守り、下賀茂神社の鳥居を使用する者を監視してきました。まずはこちらをご覧ください。」
そう言うと節子は、二本の巻物のうちの片方を、その場で広げて見せた。
「こちらには例の箱の由来と、取り扱い上の注意点などを記載してございます。」
「はあ。」
「そしてここに、箱の略奪を阻止した者への、返礼についても書かれているのです。」
「…なるほど。」
「あなた方には、この箱の中身を使用する権利が与えられます。
「えっ!?」
「もちろん、今すぐに、でなくても構いません。権利者の氏名をこちらに記載しておきますから、」
そう言うと彼女は、傍らからポータブルの筆のセットのようなモノを取り出し、サラサラと二人の氏名を、巻物の末尾に書き加えた。
彼が後で貞子に聞いたら、それは矢立というモノらしかった。
見ていると、サン・ジェルマンは、参充江留満と書かれていた。雪子の方は何故か迷い無く、真田雪子と書かれた。
「さて、もう一つの件ですが…。」
そう言いながら、節子がもう一本の巻物を広げた。
「…ソレについては、こちらに記載してあります。」
そう言われても、達筆な筆文字で、内容が読み取れない。
ただ、それに目を通した貞子の顔色が、見る見る青くなって行くのが分かった。




