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家族3

【唯月】



 唯月と弦也が千恵と暮らし始めて五日目の昼。二階建ての一軒家には一階に縁側があったので、そこに千恵は腰掛けてそんな千恵に弦也はあやとりを持って近付いた。


「千恵お婆ちゃん、今日はあやとりして遊びたい」

「ええ、良いわよ。おいで弦也君」

「うん!」


 唯月は弦也と千恵がニコニコと二人であやとりをしているのを台所の椅子に腰掛けて見守っていた。


「ここの生活に馴染めそうで良かった」


 唯月は独り言を呟くと五日前、弦也が起床した時の事を思い出した。


 ☆


 唯月と千恵が玄関を上がり唯月が千恵の家にある仏壇を見て、これから世話になるので挨拶をしたいと一人で線香を焚いている所で、むずがる様な声と共に近くの布団に寝ていた弦也は起床した。


「んん、母さん…」

「弦也目覚めたのか。おはよう」

「……え、誰っ!?」


 弦也は暗い室内に寝ていて母親は病に病床に伏せていた筈だが父親に線香を焚いているのかと思って声を出すと、返ってきた返事は男性のもので驚いてまだ眠かった目を覚醒すると咄嗟に寝ていた布団から出て壁際の隅に寄った。唯月はそれを見て、近付かないように仏壇の前から弦也に向かって挨拶をした。


「驚くのも無理はないか。弦也、私の名は唯月」

「いつ、き?」

「そう唯月だ。始めまして、これから私が弦也の家族となる」

「家族……あ、そうだ……思い、出した」


 弦也は母親の事、眠る前の最後に聞こえた声や同じ言葉に思い出して同時に自分が化け物に襲われた事も思い出し、体をガクガクと震わせていると、ふと化け物に喰われた筈の左腕が存在していたり左脇腹が痛くなかったりで混乱した。


「なん、で、腕もお腹も痛くもないの!?どうして、何で!?それに化け物は!?」

「弦也…。落ち着いて」

「落ち着けるわけない…!母さんは!?ここは何処なの!?」

「お願いだ弦也、話すから落ち着いて話を聞いてほしい」


 唯月は混乱して叫ぶ弦也に近付くとギュッと抱きしめた。そして抵抗されるが、あやすように弦也の背中を擦った。だが弦也は唯月の腕の中で尚も暴れて、弦也の意思に応答するかの様に青い五芒星の光が唯月を襲った。


「な、…ぐっ!」

「え!?あ……」


 唯月は神様から零落したから、元々強力な妖力を持っているので大口の化け物の様に体は失わなかったが体中にビリビリとした痛みが駆け抜け、弦也から離れた。


「あ、あの、大丈夫…?」

「っ…ああ。(あれは退魔の力!?)」


 唯月は体中に走った痛みに体を痺れさせるも、心配そうに声を掛けて見てくる弦也に返事を返した。するとドタバタと唯月を仏壇前に残して、台所にいた千恵が走ってやって来た。


「まぁ唯月君どうかしたの!?」

「千恵か、大丈夫だ。心配するな」

「心配するわよ!何か痛そうな声が聞こえてきたのよ!?」

「……お婆ちゃんは誰?」

「あら、弦也君起きたのね!始めまして、私は渡辺千恵よ。千恵お婆ちゃんって呼んでちょうだい」

「千恵、お婆ちゃん…。あの、僕の怪我や母さん、それにここは何処ですか?」

「弦也君…。ごめんなさいね、私は何も知らないわ」

「そう、ですか」


 千恵は弦也の問い掛けに何も知らないのは千恵自身も同じなので、何も答えることが出来ずに謝ると弦也は見て分かる程に声音すら落ち込んだ。そして唯月は二人の様子を見ると、元から話そうとしていた事を聞いてもらおうと弦也と、千恵にも声を掛けた。


「弦也に千恵も、私が全てを話すから聞いてほしい」

「それは私が聞いても良いのかしら唯月君?」

「ああ。家族の様なものなのだろう?それに何れはバレる事かもしれない、言っておいて困る事はないだろう。ただ千恵が話を聞いて私達が怖かったら出て行く」

「……分かったわ。弦也君もお婆ちゃんと一緒に聞きましょう?」

「うん」


 千恵は唯月の真剣な眼差しや本当に千恵が怖がったら出て行く様な覚悟の籠もった声音に頷くと、まだ幼く混乱して唯月と千恵を見てくる弦也に千恵は優しく笑いながら話かけて、一緒に唯月の話を聞こうと問い掛けると弦也は頷いた。そして千恵と弦也が話を聞く姿勢を見せると、唯月は自分の元の正体や弦也の住んでいたアパートでの事から妖怪の姿も見せて千恵に出会うまでを話た。


「それと、これが弦也の住んでいた部屋に飾ってあった写真だ」


 唯月は弦也に懐にしまっていた写真立てに収まっているL判サイズの写真を取り出して渡した。弦也は唯月から写真を受け取って幸せそうにそこに写っている人物達の写真を見て、母親の死や自分の身に起きた事、それに唯月と言う助けてくれた優しい神様を襲って来た化け物みたいな存在の妖怪にしてしまったのかと思った。


「俺が居なきゃ、……唯月は神様のままだった?」

「それは違う。いや、違くわないのだが違う」

「……」

「私は自らの意思で弦也を助けたいと思った。だから私が妖怪になった事は私の意思だ。決して弦也のせいではない」

「それって結局、俺が居なきゃそんな意思いらなかったんじゃ」

「それは……。ああ、そうだな。弦也があの場で亡くなっていれば私はアパートを後にしたことだろう。だがそれでは、私は死に際に生きたいと願った弦也には会えなかった」

「会わない方が良かったんじゃないの?」


 唯月は弦也からの問いに首を横に振った。


「私はそうは思わない。弦也と出会えて私は弦也と家族になれた。それに千恵とだって出会えなかった事だろう」

「家族……」

「ねぇ唯月君、私は貴方達を怖いと思わないわ。だから私も二人の家族に加えてくれるかしら」

「千恵…。もちろんだ」

「弦也君も、お婆ちゃんがいても良いかしら?」

「!……俺はまだ家族とかよく分からない。でも誰にも頼れない事は分かってるから、だから二人と一緒にいたい……と思う」

「ふ、ありがとう弦也」

「まあ嬉しいわ!ありがとう、弦也君に唯月君!」

「わっ、千恵お婆ちゃん…!」

「な、千恵!」

「うっふふ!」


 唯月に弦也に千恵、三人は話が纏まると千恵が弦也に抱きついてギュッとしてから唯月にも同じ様にして三人で笑い合ったのだった。そしてそれからは三人での暮らしが始まって、三人で料理をしてみたり遊んだり、川の字で寝たりと日々が過ぎた。


「もうここで過ごして五日か、早いものだな」


 唯月はまだ縁側であやとりをして遊んでいる二人を眺めていると、不意に何か黒色の靄の様なものが弦也から千恵の心臓辺りを覆っているのが見えた。


「何だ?」


 唯月は目の錯覚かと思って目を一度擦ってからもう一度見ると、先程の黒色の靄の様なものは消えていた。


「気のせいか?」


 唯月は先程の事が気に掛かるが、今はもう何も見えず千恵にも弦也にも何事も無いから神様から妖怪になって身体の変化や、慣れない暮らしに疲れたのかと思った。


 _夜


 唯月に弦也に千恵は三人で食事を取りながら、唯月はそういえば弦也は学校に通っているのかと疑問に思った。


「そういえば聞いていなかったのだが、弦也は学校には通っていたのか?」

「ん?ううん。一年前は少しだけ通ったけど直ぐに母さんが倒れちゃって、母さんは学校に行ってほしいって言ったけど、俺が母さんの病気が治ってほしくて辞めるって言って家に引き籠もってたら母さんが俺を行かせるのを諦めて、それからは母さんの側に居て行ってない」

「そうか。では読み書きや計算は出来るのか?」

「それは出来る。母さんが教えてくれた」

「良い母だな」

「うん」


 唯月は日常的な会話の延長線上の様に気になった事を聞いただけだが、思ったより重めの返答が来てどう返事をしようか一瞬悩むも直ぐに弦也自身は何事も気にしてない様に返事を返してきたのでそれに合わせた。千恵は少々心配そうだったが、唯月と弦也の会話を見守っていた。


「そうだ唯月」

「ん?何だ弦也?」

「俺も気になってたんだけど、その刀ってやっぱり本物なの?」

「あ、それ私も気になってたわ。身近には置いてるし、何より神様だったのなら着物を着たコスプレイヤーさんじゃないだろうし」

「コスプレイヤー……。ごほんっ、まぁ本物ではある。だから不用意に触れてくれるなよ。怪我をしたら大変だからな」

「分かった」

「分かったわ」

「ありがとう二人共」


 唯月頷く二人に礼を言うと皆で話ながら食事を終えた。そして三人の五日目の一日が過ぎようとする夜、千恵は早めに眠りについて唯月と弦也は二人で横並びに座りながら音量を弱めたテレビを観ていた。


「唯月。このドラマにあるお墓って、母さんのも父さんのもあるのかな?」

「墓か。墓は誰かに埋葬されれば誰にでもあるな」

「俺、父さんのお墓も知らないし。母さんは誰かに見つけてもらえて埋葬されたのかな」

「弦也……。すまない」

「俺もごめんなさい。別に唯月を責めてるわけじゃなくて、母さんの事がちょっと気になっちゃって。でも前に唯月がここに来て直ぐテレビ見させてくれないのは今でも気になってる」


 唯月はアパートでの事がニュースにならない筈がないと、千恵の家に来た日から三日程はテレビをつけてニュースが流れないようにしていた事を弦也に怪しまれて、話すべきかと悩んだが当事者の事なので話た。


「……アパートでの事は人間からしたら不確かな事象ばかりだからか、傷もない亡き人に大量の血痕の跡や割れたガラスと不可解だが、何より大家によると一緒に住んで居たはずの子供が居なくなっていてと…、生きているのに亡き扱いは嫌だろう?」

「ニュースに写真とか出てた?」

「いや、出ていない」

「なら俺は同姓同名の千年弦也で良い。唯月と千恵の家族」

「……弦也は、本当に子供なのかと思ってしまうな」

「なにそれ。俺はまだ子供だよ。子供で、……何にも出来ない」


 唯月はまだ幼い子供なのに何処か大人びている弦也に、つい口からついて出た言葉を聞かれると弦也は母親の事を思っているのか悲しげに俯いた。


「何も…か。そんなことはない弦也」

「え?」

「弦也には退魔の力がある」

「退魔の…力?」

「そうだ。あの青い五芒星の光。あれは平安時代に生きた大陰陽師、安倍晴明と同じ力だ」

「安倍晴明?」

「ああ。まぁ私は平安を生きたが、安倍晴明とは関わりはなかったな。私の部下だった者が安倍晴明の母親だったようだが」

「へぇ~。あ、ねぇそれでその退魔の力が何なの?」

「退魔とは文字通り魔を退けるもので、弦也は母親や父親から授かったその命を退魔の力で大口の妖怪から守ったんだ」

「守る……。唯月、その力ってどうすれば使えるの!?」


 唯月の言葉に弦也は目を見開き呟くと、横に座る唯月に詰め寄って肩を掴むと凄んだ。


「へ?どうすれば、か。そうだな。弦也の力は意思に反応して強制的に発動する感じだから先ずは力の媒介、例えば私の刀の様なものがあれば力の制御が出来るかもしれない」

「それって何処で手に入るの?」

「刀か?今の時代に人間が刀、ましてや真剣を手に入れるのは多分無理だと思うぞ」

「俺もう人間じゃない。だから刀がほしい」

「そう言う事ではないのだが……」

「唯月お願い!俺に唯月も千恵お婆ちゃんも守らせて!」

「うーん、俺も千恵も弦也の気持ちは嬉しいと思うが、せめて弦也がもう少し大人に近付いたらな」

「俺テレビで見たから知ってるよ。大人はそうやってはぐらかすんだって」

「え?な、なら十五歳…十八?になったら」

「十五歳ね。約束だよ唯月」

「……分かった。約束だ弦也」


 弦也は唯月の言葉に笑うと唯月に向かって小指を差し出して、唯月もそれに伴うように小指を出すと弦也は指同士を絡めて約束の歌を紡ぐと指を離した。そして眠るに眠れなくて、何となく二人の会話をこっそりと襖越しに聞いていた千恵は賑やかな家に楽しげに笑みを浮かべて眠りへとついたのだった。

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