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家族2

唯月(いつき)



「ギャアアア…!!」

「ふぅ昔に比べたら多くないとは言え、人間に悪さをする妖怪が後を絶たないな。まぁ、それは私達神も同じ事か。…っ!……何だ、この気配は」


 夕陽が差す世界で唯月はいつもの様に人間に悪さをする妖怪を刀で斬りつけ退治していると、何処か近くから強大な何かの力の気配を感じて何事かと思い気配が感じる場所へと刀を鞘に収めると身軽な体で家々の屋根を飛びながら一軒の古びたアパートへと辿り着いた。唯月は気配を感じたアパートの一つの部屋の前に降りると試しにコンコンとノックをしてみるが何の反応も無くて、勝手に入る事になってしまうが幸い神様の姿は人間には見えないので神術でドアノブの鍵を開けて、部屋の中へと上がった。すると濃い血の匂いや妖怪の気配を感じて鞘に収めていた刀を抜き警戒を取ると部屋の奥へと進んだ。唯月が僅か三歩の距離にあった襖を警戒しながら開けると、唯月の目の前には胴体が半分になり消え逝く妖怪に布団に眠る女性。そして消え掛けている妖怪にやられたと思わしき怪我を負った左腕と僅かに左脇腹が喰われた少年がいた。唯月は突然の光景に声も無く驚いていると、微かにヒュウヒュウと呼吸の音が聞こえきて、音の発信源である少年に急いで駆け寄った。


「大丈夫…なわけがないか」


 唯月は目の前で涙の跡を広げる少年に神様として、人間の死の運命を捻じ曲げるのは御法度なので最期だけでも見届けようかと思っていると、不意に少年の右手が唯月の着物の袖を掴んだ。


「え」

「…、…、生きた…い」

「…っ!」


 唯月は普通なら見えない筈の自分の姿に、急に着物の袖を引っ張られた事に驚くも次に少年が発した言葉に息を詰まらせた。少年の言葉や縋る右手に唯月はどうすべきか悩んで辺りを見回すと、視界に入ったのは少年の父親だろうと思わしき遺影に布団に眠る母親だと思わしき女性の姿。そして部屋の中にあるタンスの上には産まれたばかりなのだろう少年の赤子時代と、赤子を抱き上げる母親に寄り添う父親の姿の写真。それらを見てから視線を少年に戻すと、段々とか細くなる少年の呼吸の音に唯月は神様から妖怪へと零落する覚悟を決めた。


「私が生きたいと願う、お前を助けよう」


 唯月は近くに置いていた刀を手に取ると、刀の刃を腕に軽く押し当て引いて腕から血をポタポタと流すと少年の口元へと飲ませ、次に怪我を負っている傷口からも血を与えた。そして唯月は神様として人間を妖怪へと作り変える禁呪の呪文を唱えた。


「我が名は唯月。真名は宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)、司るは食物。今ここに真名と神としての役目を代償に、変容の儀を行う。我が助けんとする汝の名は_千年弦也」


 唯月は神様としての存在を代償にする旨を声に出し、弦也の上に降らせた血や自分の周りが赤く光り輝き出したのを確認して、最後に助ける者の名を神様として最期の力で読み取ると少年_千年弦也の名を口にした。するとバサバサと室内なのに風が吹き荒れて、カーテンに隠れた窓ガラスを割り唯月と弦也を囲む様に輝いていた赤い光が白と黒の陰陽の陣の形を取って陰陽の陰が、陽を侵食するように全てを黒く染めると唯月と弦也、二人の心臓が一度ドクンと脈打つ様に音を鳴らすと弦也は特に性質が半妖になったと分かった程度の変化だったが、唯月は窓近くに歩いて飛び散ったガラス片を手に取って自分を確認すると白銀だった髪が黒く染まり、無かった筈の獣の耳や九本の尾が生え妖怪に身を落とした。


「これが、私の姿か」


 唯月は姿を確認した後、ガラス片をその場に放ると傷口や無くなっていた腕までもが治った弦也を抱き起こし、先程までか細かった呼吸が普通に息をしているのを確認して涙の跡を指で拭ってやった。そして直ぐ側に長い眠りへと付いたのだろう、息をしていない生気すら感じない弦也の母親に頭を下げた。


「私がこの子を育てます」


 唯月は弦也の母親にそう告げると、背後を振り向いて弦也の父親の遺影にも頭を下げた。


「私がこの子を守ります」


 そして唯月は最後に抱き上げた腕の中で、唯月の着物の袖を引いて僅かに覚醒したばかりの目を向けてくる弦也に告げた。


「私が弦也の家族になる」


 唯月は視線を向けてくる弦也にふわりと笑って見せると弦也は恐怖や痛み、一人きりになってしまった世界に唯月の言葉や笑みを見て安心したのか唯月の腕の中で眠りについた。唯月は眠りについた弦也を確認すると、刀を鞘に収めてから弦也を抱っこして立ち上がりタンスの上に飾ってある写真を持って耳や尻尾を変化で隠してから窓ガラスが割れて騒ぎになったのか、ざわざわと騒ぎになってきたアパートの前に救急車やパトカーが遠目からやって来るのが見えて、神様の時はまだしも妖怪では妖力が強ければ強い程姿が人間に見えやすいので、唯月は誰にも見つかる前に割れた窓からこっそりと出て暗くなった外の地面を踏み締めると高く跳躍して、家々の屋根を飛んで弦也を連れてアパートを出て行った。そしてもう神様ではない唯月は、神様の世界にも人間の世界にも何処にも行く宛など無いので家々の屋根を飛びながら彷徨っていると、急に甲高い誰かの叫びが聞こえてきた。


「キャアッ!!」

「!?…一体何処から」


 唯月は今日はやけに色々起こるなと思いながら、叫び声の出処を探ろうと耳を研ぎ澄ませながら視界は辺りを見回していると視界の端にお団子頭を作った老婆と思わしき女性が、転んで捻挫でもしたのか怪我を負って足を押さえているのを見た。そして唯月は足を押さえているのを見ると直ぐに老婆の元へと向かい、しゃがみ込むと話掛けた。


「大丈夫か?」

「あいたた…、心配してくれてありがとね」

「いや、私は当然の事をしたまでで」

「ふふ、真面目ねぇ。ん?あらその子、…まあ大変!私より大変な怪我をしてるじゃない!!」

「え、ああ…これは」


 唯月は不味ったなと思いながら抱っこしている弦也の体を着物の袖で咄嗟に隠した。だが老婆は心配そうに騒ぐものだから、他の誰かに見つかってはもっと騒ぎになると思って静かにしてほしいと言った。


「あら、ごめんなさい…。でもその子の怪我はお医者さんに診てもらわないと」

「大丈夫だ。怪我…じゃなくて、ケチャップ…だ」

「でも袖の部分が変に解れて腕も剥き出しよ?」

「……こういう服だ」


 唯月は苦し紛れに会話をしながら、どうしたものかと悩んでいると。


「……何か訳ありかしらね。良かったら家に来なさいな」

「ありがたい申し出でだが、迷惑を掛けるわけには」

「大丈夫よ。行く宛がないならいらっしゃい。私ね、お爺さんも先立たれて一人暮らしで寂しいのよ」

「……」


 唯月は正直言って老婆のありがたい申し出に悩むも、腕の中で眠る弦也を見て、このまま頼る宛もなく彷徨うのは季節は春だとは言え風邪を引いてしまうかもしれないし、住む場所や食料はお金があるとはいえ、いずれ尽きる。何より寂しいと言う老婆の言葉や表情に唯月は決めた。


「その申し出に私達は縋りたいと思う。どうか私とこの子をよろしくお願いいたします」


 唯月は頭を下げお願いをすると、老婆は微笑んで


「ええ、喜んで」


 と言った。


 それからは唯月は怪我をしている老婆を弦也を片腕に持ちかえて、老婆をもう片腕で抱き上げた。そして老婆が案内するまま歩き出すと老婆は名を渡辺千恵(わたなべちえ)と名乗った。


「千恵か、良い名だな」

「まぁふふ。ありがとう。所で貴方達の名前を聞いても良いかしら?」

「……私は唯月。この子は私の家族で名を千年弦也と言う」

「響きが良い名前ねぇ」


 唯月と千恵は自己紹介をしながら、千恵の案内に従って唯月は歩くと三人が出会ってから20分位か「あそこよ」と言う千恵の言葉に進むと一軒の二階建ての家に辿り着いた。そして唯月は千恵に言われるがまま玄関に近付くと、千恵は持っていた鞄から鍵を取り出して戸を開けた。


「どうぞ入って」

「お邪魔します」

「あら、違うわ。私達は形は違えど家族みたいな存在になるんだもの。だから、ただいまよ」

「!……ただいま」

「ええ!あ、でも強制はしないから出て行きたくなったら、いつでも出て行ってもいいわよ。けどそれと同時に、いつでも帰ってらっしゃい」

「ああ。ありがとう」


 唯月は千恵の言葉にこれから先、唯月自身も不安だった事もありホッとするとふわりと笑って感謝を述べた。


もうちょっと三人の家族の話が続きます。

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