12.こころ
こころ
著者名が不要な名作劇場に戻ってきました。
知らない方はいないでしょうね。夏目漱石のこころです。
これは私の中ではちょっと異質な本でして、通しで読んだことは一回しかないんですよね。気に入った本は三回くらい読むんですがこちらは一回だけ。
それにちょっと無理して読んだ覚えがあります。
こころは中学1年生の国語の教科書の最後に名作紹介みたいな感じで一部分だけ載ってたんです。
今も載ってるのかな?
こういうのは地域によっても違いますよね。とにかく私が中学の時は載ってた。
載っていた一部分は主人公がKの自殺現場に出くわすシーンで、その前に簡単にそれまでのあらすじが書いてあって本編を二三ページ載せてたんです。
その一部分に中学生の私はかなりの衝撃を受けました。
何というか、その圧倒的な文章に。
読んだのは一場面だけなのに主人公の衝撃ががつんと伝わってきて物凄くびっくりしました。
字を読んでるだけなのにとてつもない臨場感。鳥肌が立ちました。
そして私はすぐに「Kの遺書を確認しなくちゃ」と焦ったんですけど、主人公もすぐにKの遺書を確認するんです。
この時の私と主人公は完全に同調していて息もできなかった。
こういうの珍しいんですよね。
当たり前だけど読んでる私と本の中の登場人物は別人で、だから私がこうしたいと思ったようには行動してくれない。特にこういう重大なシーンでは焦れたり、そうじゃないと思う行動を取ることが多いんですけど、こころはなかった。
後年、母にこの時の同調について話すと母は「私はあそこは普通ならKの心配をしてから遺書を読むと思った。なのにまず遺書を読ませたからびっくりした。人間の闇を見た気がした」と言っていたので、Kの心配をしなかった私はけっこう最低かもしれないです。
なので同調したのは完全に個人的なものなのだろうけれど、とにかく強いショックを受けた私は本屋へと走り、こころを買って全部読みました。
いやあ、読みにくかった。
この時の私は中学1年生でやっと大人の本を読み出したばかりだったので、楽しんで読むというよりは課題図書を頑張って読む、という感じで読みました。
それでも課題図書でもないのに読み切れたということは作品に強い力があったんだなと思う。
そして読み切れた私は大満足。
よし、もういいや、となってそこからは読み返したりはしてないです。
そこは読み返せよ、舐めるように読んで文豪の何かを吸収しろよ、とは思うけれど満足してしまったので仕方ないです。
でも国語の教科書で触れた衝撃は今でも覚えています。
今までの人生で一番好きな本は? と聞かれると絶対にこころではないんですけど、一番衝撃を受けた本は? と聞かれるとこころですね。
この後、積極的に図書館で司馬さんとかを借りるようになったので大きな転機にもなりました。
因みに教科書に一部が載っていてそこから本を読んだ、というやつはもう一つあります。
高校の時にセンター(古いな。今は大学共通テストという言い方みたいです)対策用の冊子に載っていた遠藤周作さんの「ディープリバー」です。
載ってたのは人肉を食べちゃう話の部分だったと思うんですけど、それなりに衝撃を受けた私は図書館へ走った。
この時はもう高校生だったし、しっかり没頭して読みましたね。
この冊子は学年で共通のもので、だから周囲にも衝撃を受けてる子がけっこういて、センター前なのに本を買ってる子もいたなあ……。とてもインパクトのある話です。
遠藤周作さんは「海と毒薬」や「沈黙」もすごいらしいので読んでみようかな、と思ったりもしたんですが人体実験やキリシタン弾圧は夢(悪夢)に出てきそうなので断念しました(私は本は完全に没頭して読むので、残虐なシーンや悲惨な描写は大の苦手です。未だに春樹さんの「ねじまき鳥クロニクル」に出てきた間宮中尉の体験を思い出しては寝れなくなっている。題材自体が暗いものは基本的に避けます)。
ディープリバーもなかなか暗いけど、まだ読みやすいかなと。