9話 同志
ソロン
初めてダンジョンに入った初心者冒険者。誰もが魔物と友達になれる可能性を信じている。
アテナ
初めてダンジョンに入った初心者冒険者。誰もが魔物と友達になれる可能性はないと考えている。
ルナ
群青の洞窟のダンジョン攻略者。とある夢がある。
帰り道のことはそんなに覚えていない。
なんか壁に埋まっていた魔石を掘り出したり、前にここまでやってきた冒険者の遺品回収をしたり……
そしてダンジョンの外に出た頃にはもう夕陽が沈み、あたりは闇に包まれようとしていた。
「すっかり日暮れだね。ダンジョンの中にいると時間感覚が狂うこともあるから注意しないと。
……2人とも、お腹空いてない?よかったら一緒にご飯食べに行こうよ」
「アタシ達、家で待ってる奴らがいるんだよ。だからそいつらのために手に入れた宝を換金して飯買って行かねーと」
「待ってる奴らって何人くらい?」
「2人です。僕の父とアテナさんの弟さんが」
「なら、2人も4人も同じだし、まとめて連れてきなよ。美味しい定食屋さん知ってるんだ。
奢るからみんなで食べに行こう」
「奢り!?よっしゃああ!奢りなら行く行く!ビリーの分も奢ってくれるなんて太っ腹だな!」
「女性に太っ腹はちょっと良くない表現な気がするよアテナ……」
「そうか?いいじゃねえか褒めてんだから!」
__というわけで僕たちは家(路上)に残しているビリー君と父さんを連れて食事に連れて行ってもらうことになった。
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ー定食屋 うまんもん出す店ー
「定食屋うまいもん出す店……なんか店名がわかりやすいですね」
「でしょ?覚えやすいし、実際ここのご飯美味しいんだ。入ろ」
定食屋に入るといらっしゃいませぇい!!と威勢の良い掛け声が店中を駆け巡る。
店員達はみんなお揃いの洋服を着て、三角頭巾にはうまいもん!と書かれている。
活気のある繁盛店だった。
「あれまルナちゃん!久しぶりぃ!今日はお友達でも連れてきてくれた!?」
「似たような感じ!5人席ある?」
「おうよ!2階席になるけど構わないね!?」
「いいよ」
2階席の四角い大きなテーブルに案内された。
椅子は6脚。6名まで座る席らしい。
「私いつもの。君たち、何頼む?」
「アタシこれ!爆盛りデンジャラス!ビリーもこれ頼んどけ!」
「食べきれないよ!僕はこっちの肉丼大盛り!それとスープも追加で!
………おっさん、自分で頼める?」
「あ………ああ……
えっと…………」
「僕も肉丼にするから、父さんも肉丼にしときなよ。たくさん食べて体力つけないと!」
「あ、ああ………そう、だな……?」
「もう!しっかりしてよ……」
「まあまあ、人間誰しも失敗はあるし、落ち込んでちょっと頭のネジが飛んでいくこともある。
きっとそういう時期なんだろうよ」
注文した商品が届くまでかかった時間はおよそ5分。
一体どんな手際の良さで作ってるんだと疑いたくなるようなスピードで料理は運ばれてきた。
「肉丼普通2つ。大盛り1つとスープ、爆盛りデンジャラス1つね。
ルナちゃんはいつもの魚定食ね!」
「姉ちゃんやべーじゃん!その爆盛りデンジャラス!
ぜってえ食い切れねー!」
「お、思ってたより大物が来たじゃねえか………上等だ!絶対食い切ってやる!!」
「ほら肉丼きたよ!父さんフォーク持って!」
「あ、ああ……」
それぞれが思うように食事を始める。
そんな中でルナさんがポツリと言葉を落とした。
「私は、魔物と……いや、ダンジョンと今とは違う形での交流が必要だと思ってる。」
ピタッと手を止めたのは、実際に話を聞いていたアテナさんと僕だった。
ビリーも手を止めたけれど、頭にはてなマークをつけている。父さんはそもそも聞いていない。
「無理があるってわかってるんだ。ダンジョン攻略で食べていってる人もいるわけだし、職業が一つ減ってしまうリスクがある。だけど魔物とコミュニケーションが取れれば、ダンジョンについて必要なことがもっとわかるかもしれないし、物々交換ならお互いにメリットがある。戦わなくていいっていうのはそれだけで好都合だ。」
「……ルナさん……」
「魔物の中でも知能が高くて相手がこっちの言語を理解してくれる種族もいる。そういう種族を頼って魔物達と交渉する機会が得られれば、今とは違う魔物との商売っていう道も開けて来るじゃないかと思ってるんだ」
「……アタシは正直あんたの話を着ていても無理だと思ってる。でも応援はしてやるよ。できることがあれば金さえくれればアタシでもやってやるし」
「アテナ……ありがとう!」
僕は椅子を引き立ち上がって机に手を置いて一世一代の告白をするかのような思いで、どうにか言葉を紡いだ。
「僕は、実現してほしいと思っています!そ、その……アテナさんみたいにダンジョンで家族を失ってしまった人をこれ以上増やさないためにも、もっと平和的な取引という形でダンジョンと付き合っていくのは、いいアイディアだと思います。だから僕は、ルナさんのこととても応援したいと思ってて……だから……その……協力もしたいと思ってるんですけど………えと……」
協力・応援
そのために自分に何ができるのか。
僕はその部分が欠けたまま話し出してしまって、オチが見つからない。
あわあわと視線を泳がせたまま、その体制であっていると、僕の手にルナさんの手が重ねられた。
「その気持ちだけでとっても嬉しい。正直、鼻で笑われたり、怒られたりしたこともあるんだ。
だから賛同してくれる人が1人でも多くいてくれるのはとても心強いよ。だからありがとう」
「っ……はい!!」
恥ずかしさから椅子にドカンと座り、肉丼を口に掻き込む。
その様子を見て、ルナさんは目を細め微笑んでいた。
「……ルナ………ルナ?
白い……化け物……」
その時だった。
父さんがルナさんの名前を連呼した後、白い化け物と呼んだのは。
「……そう、呼ばれることもあるね」
ルナさんは悲しげにその言葉を肯定した。
その様子に起こったのはアテナさんだった。
「なんだよそれ……白い化け物ってぜってえ悪口だよな?
誰だそんな悪口広めたやつ……っ!」
「噂は誰が流したのかなんてわからないものだから……
でも、ルナさんは本当に白い化け物なんて呼ばれてるんですか?」
「うん。魔物との共存を夢に見てるからかな。魔物敵対派の人たちからそう呼ばれることが多くなった。
悲しいけど、この白い髪はダンジョンでの後遺症だし、化け物みたいに見えるって言われちゃったら言い返せないよ」
「ダンジョンの後遺症でそんな髪になるんですか?」
ルナさんは髪をひと束手に掬い、視線をその紙に落としながら呟いた。
「もう一つのダンジョン。火山のダンジョンに行った時にこうなったんだ。
炎の攻撃を喰らって、髪が燃えて……最初はチリチリになるだけだったんだけど、だんだん色が抜けていって……こんな色になった」
「火山のダンジョンなんてあるのか!!そこで炎の攻撃を喰らうと髪が白くなるのか?」
「普通はならないよ。普通じゃないから私が化け物扱いされるんだ」
ルナさんはなんで髪の色が抜けたのか、私にも分からないんだけどね。と髪を撫でた。
そして僕たちを見て、こう言う。
「君たちが次に挑戦するのは、そのダンジョン。噴煙の火山にするといい。
今日手に入れた戦利品で装備を整えていくといい。あそこは暑いから、気をつけてね」
「ルナさんはどうするんですか?」
「私は隣町の師匠を訪ねにいくつもり。レンマって人。
街の人に聞けば教えてくれると思うよ。意外と有名人だから」
「へえ〜!ルナさんくらい強い人の師匠かぁ!一回会ってみたいな!」
「そうだね。レンマさん……覚えておこう!」
この食事を最後にルナさんとはしばしの別れになる。
ただ、連絡番号を聞いておいたので、ギルドに手紙を出せばルナさんが滞在している街のギルド経由でルナさんに手紙を届けてくれるそうだ。
だけど、短い間でダンジョンのことをたくさん教えてくれたルナさんには本当に頭が上がらない。
「ルナさん、改めて本当にありがとうございました!ルナさんの言うとおり、次は噴煙の火山へ行ってみようと思います」
「あ!おいこらソロン!そういうのはアタシが決めるんだよ!」
「姉ちゃんは早くその爆盛りデンジャラスを食べ切ったら?ほらスプーンが止まってるよ?」
「ぐぬぬ……」
「あ………あの…………どなたが存じませんが………息子を………ありがとうございます」
父はフラフラと頭を下げた。
そんな父を支えながら僕も一緒に頭を下げる。
「いいっていいって!私も一緒にダンジョンに行けて楽しかったし。ダニエルさんも息子さんのことちゃんとみてあげて下さいね」
会計はルナさんが全持ちし、僕たちは店の前で別れた。
ルナさんの夢を応援する気持ちは僕の気持ちとも似ている。いつか平和にダンジョンと交流ができれば犠牲者はもっと少なく済むはずだ。
同じ想いを持つもの同士。僕はそんな思いでルナさんと別れた。
お疲れ様です。ななみんです。
新年どうお過ごしでしょうか。私は死にそうです。
頑張ります。