6話 遺跡
ソロン
元商人の息子。現ホームレスの冒険者。
メガネをかけた知的な少年。
アテナ
ホームレスの少女。ビリーという弟がいる。
茶髪を一つ結びにしたそばかすの少女
ルナ
白髪に赤目の女性。群青の洞窟のダンジョン攻略者。
「よっしゃ来たぜダンジョン!」
「なんか昨日も同じセリフを聞いた気が……」
「これからダンジョンに本格的に潜るんだ。アテナくらい張り切ってもらわないと困るよ。ソロン」
「き、きたぞー!ダンジョン!」
ふふッと笑われながらも次の日もやってきたダンジョン。
日が登る前に出発し、日が登ると同時に到着した。
朝やけが周囲を包み込み、潮風が頬を撫でる。
「さて、私とダンジョンを潜るのに約束して欲しいことがいくつかある。
一つ、私のそばを離れないこと。
二つ、体調に少しでも変化があればすぐに私に言うこと。
三つ、魔物と遭遇してもすぐに攻撃しないで私の指示を仰ぐこと。
いいね?」
「なんで魔物を攻撃しちゃいけないんだよ?」
「……私の流儀に反するから」
「リュウギ……?」
リュウギってなんだ?とアテナさんは僕に聞いてきた。
流儀……なんて説明すればいいんだろう?
自分ルール……守りたいこと……自分で決めたこと……?
「私はダンジョンで魔物になってしまった元人間を殺したくはない。
彼らだって好きで魔物になったわけじゃないだろうし、彼らにも家族がいるかもしれない。
私はそんな存在を切れないよ」
「!……魔物になるって……どう言うことだ?」
「そっか。君は知らないんだ。
ダンジョンは生き物みたいなものでさ。中にいる存在を自分の都合のいい生き物に作り替えるんだ。
だからダンジョンに長居しすぎると、ダンジョンの効力によって体が魔物化する。魔物はダンジョンの中でしか生きられないからもう出てこられなくなる。」
「じゃあ体にダンジョンの魔力を馴染ませるって……アタシたち、もう魔物になっちまったってことなのか!?
騙したのかソロン!?」
「ちち、違います!ダンジョンの奥に入るにはダンジョンの環境に体を慣らすのは本当に大事なことで……!」
「体を慣らさないと魔物に見つかりやすくなるんだよ。ダンジョンは異物が入ってきたらまず魔物で対処しようとする。
でも体を慣らしていればダンジョンから異物として判断がされづらく、魔物との遭遇率が格段に下がる。」
だからソロンが教えたその情報は正しい情報ってことだよ。
ルナさんがそう説明してくれたことでやっとアテナさんは僕の胸ぐらから手を離す。
騙したのか!と胸ぐらを掴んできたアテナさんは怒っているようなひどく傷ついたような表情を浮かべていた。
「このダンジョンだと、大体7日で魔物化する。今日は日帰りの予定だから、そう魔物化に怯えなくても大丈夫だよ」
「嘘じゃないんだな!?」
「嘘をつくメリットがないね」
「じゃあ本当だ!よし、ダンジョンに行くぞ!」
僕たちは再びダンジョンに足を踏み入れた。
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「昨日はこの辺までって決めてたんだ。今日はそのさらに奥までいけるんだよな!
なんかワクワクする!」
「僕はドキドキしてます……こ、怖い……」
「私が何回このダンジョンに潜ったと思ってるの?君たち2人を守りながら日帰り旅行くらい余裕だよ。
魔物化しかけても外にさえ出られれば魔物化は徐々に治るからね。私も何度魔物化しかけたことか……」
「魔物化って……あの魚人みたいになるってことですよね?嫌だなぁ……できれば最後は人間の姿であったかいお布団の中で死にたい……」
「アタシは死ぬつもりなんて毛頭ないね!腹いっぱい高級な肉を食べてフッカフカの布団で寝るまでは意地汚くても生きてやる!」
ふんす!と鼻息荒く宣言するアテナさんは生命力に溢れていた。
僕も弱気なこと言ってられないな。せめてアテナさんを守れるようになるまで、死ぬわけにはいかない。
「ほら、見てごらん。ダンジョンの中にあるこれ。遺跡と呼ばれるものだ」
「ウニョウニョした図形?みたいなのが並んでる。
………なんか文字みたいだな」
「すごい!これが魔物文字ですか!?生で見るの初めてだ!」
「マモノモジ?なんだそりゃ?」
説明しよう!
魔物文字とは、ダンジョン内に必ず現れる不思議な文字の書かれた石板のことを指す!
破損していたり、ダンジョンによって個数が違ったり、年代も異なることが多いが、僕たちには解読できない謎の文字で書かれた石板という点で共通している!ダンジョン研究家はこのダンジョン文字の解読に何年もかけて挑み続けているんだ!!
「あ〜〜……要するに、不思議遺跡ってことだな?金にはならないのか?」
「このダンジョンの遺跡の情報は全て書記としてギルドに情報が流れているらしいから、いまさら持ち帰ってもいい情報にはならないと思うよ。
大抵の冒険者も遺跡には関与せずに写し取るだけ写しとってギルドに渡すだけらしいから」
「ちぇっ、金にならないならアタシもいいや」
「そんな!ダンジョンの神秘ですよ!?僕もいつか読んでみたいなぁ〜
何が書かれてるんだろう?とても重要なことが書かれてる気がするんですよね〜!」
「……ん、ちょっと待って。
この端っこに書かれてる文字。前来た時あったかな……」
遺跡の前でしゃがみ込み、ルナさんが手帳を開く。
パラパラとめくったページにはびっしりと魔物文字が描かれていた。
「わあ〜!すごい!魔物文字がびっしり!これ、全部遺跡から書き写したやつですか!?」
「うん。……ああ、ほらこれ。
これが以前来た時の写しだ。
__やっぱり変わってる。文字数が明らかに違う」
新たなページを開き、遺跡に描かれている魔物文字を写し始めるルナさん。
その目は爛々としており、新しいものを発見した研究者のようにも見えた。
「誰が、いつ、どうして書いたのか。そしてこの内容はなんて書いてあるのか……
少なくとも大昔に書かれたものという説は消えたわけだ。これはごく最近書き足されてる。
なんて書いてあるのかな………気になるね」
「はい!とても気になります!」
「なーなー!早く先に行こーぜ!」
「ああ、そうだね。書き写しも済んだことだし、先に進もうか」
「一旦戻らないんですか!?これは世紀の大発見かもしれないのに!!」
「大丈夫大丈夫。必ず戻れるから。アテナも先に進みたいって言ってるし、そもそも私もこの奥の様子を見物しに来たわけだから
まだ目的は達成されてないよ」
「は……そうですか……」
「いーくーぞー!!」
「あー待ってアテナ!ルナさんのそばを離れないって約束しただろ!?」
アテナはどんどん先に行こうとしている。
その腕を引っ張り止めようとするがびくともしない。
この人本当に女の子なのか!?僕はこれでも男なのか!?
「……あの2人。あのままずっと仲のいい冒険者仲間のままいてほしいなぁ。
私たちみたいにならずに」
ルナさんが何か呟いたような気がした。
土曜投稿失礼します。
見てくださると幸いです。